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ベルマーレの「ピラミッドディフェンス」とフロンターレの試み:川崎フロンターレ対湘南ベルマーレ戦(9月26日)<1>

 9月20日からの13日間で6試合観戦。さすがにレビューが追いつかない。写真の整理も追いつかない。と言うことで一週間遅れになるけれど9月26日の川崎フロンターレ対湘南ベルマーレ戦のレビュー1回目。

 2-1でフロンターレが勝利した試合だが、当日書いた速報レビューで、フロンターレのフォーメーションが不明だったこと、ベルマーレが二軸フォーメーションでディフェンスしていたことを書いた。と言うことで、今日はフィールド写真を中心に、フォーメーションを掘り下げてみたい。


結局、フロンターレのフォーメーションはどんな形だったのか?

 まずスタメン。

スライド1

 ベルマーレは3-5-2だが、守備時にはウイングバックが最終ラインに下がって5バックに。つまり5-3-2になる。この状態でのかみ合わせは以下の通り。

スライド2

 さて、この試合、フロンターレのフォーメーションが話題になっている。4-4-2という意見や4-2-3-1の変形という意見がメディアには出ている。鬼木監督自身は、「トップ下をおいた4-3-3」というようにインタビューで答えている。

 自分は速報レビューでは「4-4-2かと思ったが、4-1-2-3を中心に、守備時と敵陣深くに侵入できたときは4-4-2」とまとめた。

 いまだにコンセンサスはないようなのだが、改めてフィールド写真を見てみると、確かに「トップ下をおいた4-3-3」であるようだ。

 まず、「4-4-2なのか?」という問題。守備時には明らかに4-4-2になっている。次の写真を見ると、ボールがある左サイドはやや高いポジションを取っているが、きれいな3ラインだ。

スライド9


 ではビルドアップ時はどうか。

 例えば次の写真。

スライド10

 ボールは左サイドバックの旗手が持っている。谷口は明らかにアンカーポジションにいて、ダブルボランチの態勢になっていない。脇坂は谷口よりも明らかに高いポジションを取っている。そして前線は小林悠のワントップ。知念は?と言うと、小林悠より低いポジションで、インサイドハーフの位置取りをしている。つまり明らかに4-4-2ではないし、4-2-3-1でもない。

 さらに次の写真も。

スライド11

 これはゴールキックの時のフォーメーションだが、谷口のポジションは明らかにアンカー。知念と脇坂はそれよりは高く、またワントップの小林悠よりも低いポジションにいる。両者の関係を見ると、脇坂がほんの少し低い。両サイドは高い位置。これも一番近いのは4-1-2-3だ。

もう一枚。これも同じだ。

スライド12

 さらに4枚目。ここでも知念は脇坂より高い。ここでは2トップに近い位置取りにも見える。あえて言えば、4-1-1-4のようでもある。

スライド13

 5枚目。ここでは明らかに小林悠がワントップ、知念はインサイドハーフ、谷口はアンカーにいる。

スライド14


 こうしてみると、明らかに4-4-2(あるいは4-2-4)ではない。谷口と脇坂の関係は横関係ではなく、縦関係だ。よって、ダブルボランチになっていない。前線も、原則は小林悠のワントップで、知念がそれより低い位置。逆に知念がワントップに入ることはない。

鬼木監督は何かを試みている?

 こうしてみると、知念が小林と脇坂の間で「浮いた」ポジショニングをしている。インサイドハーフに入ることもあれば、2トップに近い位置取りをすることもある。これは1試合前のアントラーズ戦で、前線で動き回る知念がいい仕事をしたことを受けてのタスキングかもしれないし、ゼロトップ的な動きが巧みな知念の特性をこうした形で試してみようとしたのかもしれない。この知念のタスキングを指して、鬼木監督は「トップ下をおいた4-3-3」と答えたのではないかと思う。

 いずれにしても、旗手をトップ下に4-2-1-3を試みていたアントラーズ戦に続き、基本形である4-1-2-3からの応用形を試しているように思える。

 シミッチのコンディション不良によるものかもしれないが、守備力に勝る谷口をアンカーに入れた上で、脇坂を上下させ、前線のサポートは知念が行う、という考え方だったのではないか。谷口と脇坂の位置関係を見る限り、4-4-2とは思えない。

 まあ、重要なのはボールの位置を踏まえた動き方の原則(特にこの場合では脇坂と知念の動きの原則)なので、フォーメーションは確かに「電話番号みたいなもの」に過ぎないのかもしれないが。フォーメーションを数字でどう表記するかと言うことよりも、キープレイヤーの動きの原則を考えた方が生産的だろう。それは盤面上でフォーメーションを考えるよりも難しいことなのだけれど。

ベルマーレのピラミッドディフェンス(仮称)

 次にベルマーレのディフェンスを見てみよう。フォーメーションの特色は、守備時の5-3-2。つまり最終ラインから前線に行くに従って細くなる「ピラミッド」のような陣形。ここでは勝手に「ピラミッドディフェンス」と名付けてしまう。

スライド3

 このフォーメーションの狙いは、中央レーンを厚くすることで、相手のビルドアップをサイドに誘導することだろう。サイドにはスペースがあるのだから、攻撃側は必然的にそうした選択をすることになる。

スライド15

 ベルマーレとしては、そうやってサイドにボールが回ることこそが狙いのようだ。ピラミッドの両脇のスペースに入った瞬間に、3列それぞれの最も左側にいる選手が強度の高いプレッシングをかける。

スライド16

スライド18

スライド19

 そのときに当然ピラミッド全体が左に移動する。興味深いのは、この時、ディフェンスのラインが、ボールの位置を基準にして斜めに形成されていることだ。

スライド4

スライド17

スライド20

スライド21

 上記で(1-1)と(1-2)、(3-1)と(3-2)は同じ写真だ。解説とか線を変えただけのものだ。これらを注意深く見比べればわかるが、フォーメーションの軸が、通常の両軍ゴールを結んだ形だけではない、二軸の形になっているようだ。

 というのも、守備時にはボールの位置を基準点として、二列目、三列目のポジショニングを決めていることが見てとれるからだ。こうすることで、サイドにある相手のボールに対して、縦深性のあるディフェンスを行うことができる。

 このピラミッドディフェンスは、カウンター攻撃を行う際にも有効だ。サイドでプレッシングをかけてボールを奪えたとする。

スライド5

 そうすると、ボール奪取できたとき、既に同サイドのハーフスペースにも中央レーンにも複数のプレイヤーがボールよりも前にいることになる。そこで一気にスプリントをかければ、ディフェンスに合わせて(と言うか避けて)レーンを変えながら、幅の広いカウンターを行うことができる。

 実際、この日の先制点は、旗手からサイドでボールを奪い、中のレーンでゴールに迫って仕留めたものだ。

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ピラミッドディフェンスへの対応策

 こうしたベルマーレのディフェンスに対して、フロンターレはサイドチェンジで対応した。

スライド6

 サイドのスペースにボールが入るとピラミッドがスライドしてくるから、一度ボールを例えば右サイドに入れてスライドさせてから、ボールを失わない頃合いを見てボールを戻し、逆サイドに展開する形だ。

 一度や二度では崩しきれないが、それを繰り返すことでスタミナを奪い、あるいはポジショニングのミスを誘うという意図だったのだろう。特に後半早々は、右サイドに一度ピラミッドに寄せてから左サイドに展開。ベルマーレのスライドが間に合わないタイミングでマルシーニョにドリブルで仕掛けさせ、決定機を作っている。

 同点となった旗手のゴールも、2列目の3人の頭を越える脇坂のサイドチェンジのパスがきっかけだ。

 なお、昨夜(10月1日)はベルマーレはFマリノスとの対戦。やはり善戦したが0-1で敗北した。
 Fマリノスに対してもピラミッドディフェンスは機能していて、Fマリノスはサイドに誘導され、崩しきることはほとんどできなかった。なお、Fマリノスのピラミッドディフェンスへの対処はフロンターレとは違っていて、サイドチェンジはほとんど使わなかった。

スライド7

 斜め方向に形成されているベルマーレのプレスラインの間に後方から走りこませ、サイドに追い込まれているボールホルダーからそのスペースにパスを出させるという形での攻略を試みていた。

 それでもあまり上手くいかなかったが、決勝点を取るときの崩しはこの形だった。このあたり、同じシステムに苦戦しても、その攻略にチームごとの個性が出てくるのはサッカーの面白さだろう。


このシステムの発展が見たい。なんとか残留して欲しい

 ベルマーレのピラミッドディフェンス、カウンターまで含めてよく考えられたシステムだと思うが、2列目の3人が90分を通じて強度の高いスライドをやりきれるかというと、フロンターレやFマリノスレベルの相手だと難しいと言うことだろう。

 しかし、下位チームの戦い方としては非常に興味深い。このまま熟成させていって欲しいと思う。そのためにはなんとか残留しなければならないのだが。