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プレー解剖 フォワードの突破位置の工夫:クボタスピアーズ対ヤマハ発動機ジュビロ(4月24日)<2>

 4月24日のクボタスピアーズ対ヤマハ発動機ジュビロ戦。ボールロストの数では11-14でヤマハの方が少なかったのに、スコアは46-12と大差がついた。キックを見てもその差は説明できず、スクラムに至ってはヤマハの方が優位だった。

 スクラムについては、ヤマハが合計で11分32秒の時間をマイボールスクラムに費やしたにもかかわらず、得点に結びつけることができなかったという問題はあるが、それだけで34点の差がつくとは考えにくい。

 大きな違いは、フィールドにおけるアタック、ディフェンスにあった。まずはヤマハのアタック、クボタのディフェンスから見てみよう。

クボタのディフェンスに対するヤマハのアタック

 ここでまずクボタのディフェンスをおさらいしてみよう。クボタのディフェンスは南アフリカ譲りのラッシュアップディフェンス。

 出足早く飛び出し、フロントドアだけでなくバックドアにもプレッシャーをかけていく。また、外のタックラーが内に絞り込んできて、ボール周辺のスペースを潰す。

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 ゲーム序盤は、ヤマハはこのクボタのラッシュアップディフェンスに対し、外側にショートパントを蹴ることで攻略を図った。

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 開始2分のトライはまさにその形だったし、4分も似たような形からトライ寸前に迫った(クボタのノックオンでインゴール直前でのスクラムになる)。

 この形はラッシュアップディフェンスの泣き所で、クボタがサントリーと戦ったときにはボーデン・バレットにディフェンスが上がったあとのスペースを狙われた。

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 しかしこの日のヤマハは、試合開始当初に見られたキックの仕掛けを、そのあと使わなくなる。そのため、ボールを出せば出すほど後ろで捕まる形になってしまった。

 そうなると、ブレイクダウンが重なるほど後退を余儀なくされることになる。ダブルラインでの攻撃を再三試みるが、クボタディフェンスを攻略しきることができず、突破できないままずるずると後退させられる。

 さらにクボタが合計で4分3秒しかかけていないスクラムに11分32秒かけた。つまり、マイボールであってもクボタよりも攻撃の時間が約7分30秒短かったということだ。それでトライに結びつけていればそれでも良いが、結局得点に結びついていないことは大きい。

 後半にサム・グリーンを投入してからは得意のオフロードパスでタックルを受けながらもディフェンスを突破し、再三ゲインを獲得しており、トライにもつなげている。

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グリーンをもっと早くに投入していればまた違う展開になっただろう。

ヤマハディフェンスの外側を狙ったクボタのアタック

 次にクボタのアタック。

 今年のクボタのアタックが機能しているときは、マルコム・マークスが目立つことが多い。この日もそうだった。面白いのは、フェイズを重ねている内にマークスが12番立川理道の外に立つことが多かったことだ。つまり12シェイプ。7番ラブスカフニがマークスの1つ外に立つ。

ブレイクダウンからボールが展開されるとき、通常は一番近くにいるのが9シェイプ。次いで一列後ろの10シェイプ。12シェイプは、一番遠くにいる。つまり、12シェイプによる攻撃は、相手ディフェンスの外側を突く形になる。

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 ここでクボタの基本アタックパターンをおさらいしてみる。9シェイプの影にスタンドオフ田村優をおくキヤノンなどと異なり、クボタのスタンドオフバーナード・フォーリーは9シェイプよりも外側に立つ。

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12シェイプはそれよりさらに外側に立つことになる。

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 こういったポジショニングの中で、まず第1フェイズは9シェイプが当たってラックを作る。

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 そして第2フェイズでフォーリーにボールが渡る。この間にポジショニングを整え、12シェイプにマークスが入る。

 これまでの試合ではここでフォーリーが蹴るオプションが多かったが、このヤマハ戦ではキックよりもパスが多かった。パスを出すのは12番立川理道。つまり12シェイプによる攻撃だ。

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 立川はタックルを引きつけて外のマークスにパス。
 通常、外側のディフェンスはバックスが多いからこの段階でミスマッチになっていることが多い。そしてマークスがゲインし、ディフェンスも集めた上でブレイクダウンないしラブスカフニへのパス。ブレイクダウンからはさらに早いリサイクルで攻める。

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 このパターンの攻撃でヤマハはディフェンスを押し下げられてしまった。クボタはキックではなく、地上戦で前進し、22mラインより先に進入できていたのだ。得点機会13というのはその結果だ。

 この試合でラブスカフニは3つのトライをマークしているが、その背景には、こう言う形でクボタが上手くミスマッチを利用していたということがある。

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 なお、ヤマハディフェンスの外を狙った攻撃はパナソニックも繰り返していた。

 その意味ではヤマハに対する攻略法の定番なのかもしれないが、続いたからにはヤマハも対処の方法を考えておくべきだっただろう。


まとめ

 結果から見れば、チーム力を順当に反映した結果だったといえる。

 ヤマハは、選手のポテンシャルというより、チームとしての戦い方(タイムマネジメントやスクラム優位の活用の仕方、外側のディフェンス)に改善の余地が大きい。

 クボタは、この試合についていえば大きな問題はなかったが、準々決勝以降、やはりラッシュアップディフェンスの背後をキックで突かれた場合への対応というのは課題になるだろう。

 ただ、どっちつかずのことをするくらいならば振り切った方がいい結果になることが多いので、むしろキックに対する圧力を強めていく方向に行くだろうか。

 クボタの次の相手は神戸製鋼。エコパということもあり観戦には行かないが、興味深い対戦であることには間違いない。


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