男女の「ボール奪取」の違い:日テレベレーザ対浦和レッズレディース(9月5日)<2>
WEリーグ開幕戦、日テレベレーザ対浦和レッズレディースのレビュー2回目。一回目はフィールド全体の写真を元に両チームのフォーメーションを見てみた。
今回はボール奪取マップを見てみる。
ここでいうボール奪取とは、文字通り相手ボールを奪うこと。ただしアバウトなクリアやタッチに出したボールはカウントしない。キーパーがペナルティエリア内でボールを処理した場合も含まない。水色はボール奪取からシュートまでつながったとき。その下のカッコ内の数字はシュートに至るまでのパスの数。赤字の場合はゴールに至ったボール奪取。
ボール奪取数はJリーグと比べても非常に多い
まずはベレーザ。
合計ボール奪取77。うち敵陣27(35.1%)。シュートにつながったもの10(13.0%)。
次にレッズレディース。
合計ボール奪取72。うち敵陣27(37.5%)。シュートにつながったもの5(6.5%)。
この数字は面白い。例えば川崎フロンターレの前半戦平均値(レイソル戦を除くホーム11試合の平均)が68.2なので、両チームともそれを上回っている。敵陣ボール奪取率はフロンターレが39.6%。両チームともそれを下回っているが近い数字。シュートにつながった割合はフロンターレが14.0%なので、ベレーザの数字はそれに近い。
ボール「奪取」そのものの違い
ただし、試合をビデオで見ればわかるが、Jリーグにおけるボール奪取とWEリーグに置けるボール奪取はかなり違う。
Jリーグの場合、ボール奪取は、プレスで選択肢を絞ってパスを狙って取る形とデュエルに勝っての形が多い。文字通りのボール「奪取」だ。
一方、この試合でのボール奪取は、クリアボールを回収したり、ロングボールをカットする形が圧倒的に多かった。攻め手が丁寧にビルドアップすると言うより、最終ラインからまずハーフライン付近にボールを当てて、セカンドボールを回収して敵陣に入っていくという形がほとんど。
インターセプトはほとんどなかったし、チェイスはあっても組織的なプレスを観察することはできなかった。なので、ボール「奪取」とは言いがたい形がほとんどだった。
ボール奪取数の合計が149というのはとても多いのだが、Jリーグの場合は、文字通りのボール「奪取」からのトランジションの速度が極めて速いのに対し、この試合においてはクリアボールやロングボールを回収する形が多かったので、トランジションに与えられる時間がかなり長い。
Jリーグでさえトランジションが遅いと指摘されることが多いわけだが、この試合ではそれよりさらに時間が与えられた形でのトランジションになっている。少なくともこの1試合から見ている限り、その意味で、男子サッカーと女子サッカーは、ヨーロッパサッカーとJリーグの「違い」よりもはるかに「違い」が大きいと言える。
中盤の攻防がポイントだった前半
次にその前提で両チームのボール奪取をもう少し細かく見てみよう。まずは前半。
前半、ベレーザ優位の展開が続いたが、その大きな理由は、ハーフライン付近で多くのボールを回収できたこと。レッズレディースのロングボールをかなりの確率で回収できていた。
得点はアンカーの三浦成美が最終ラインの右に入り、そこから裏にロングパスを入れた形から。ただこれはスローインからのリスタートだったのでボール奪取からのつながりではない。
次にレッズレディース。
面白いのは、やはりハーフライン付近でのボール奪取が多いこと。つまり、前半はハーフライン付近での攻防が中心だったと言うことだ。ただし、レッズレディースは前半はボール奪取からのシュートがない。
後半は最終ライン付近に攻防の焦点が移動
後半を見てみよう。まずベレーザから。
まず、シュートに7回もつながっていることが特記事項。ゴールには結びつかなかったが。
そして一瞥して気づくのが、前半とは分布が全く異なること。ハーフライン付近でのボール奪取がほぼなくなり、ディフェンシブサード付近のボール奪取が増えている。これは後半のレッズレディースのビルドアップが機能していたことを意味している。
特に、レッズレディースの1点目はセンターバックの高橋はながドリブルでボールをキャリーし、敵陣に入ってからのスルーパス。2点目は塩越柚歩がやはりドリブルでボールをキャリーして敵陣に入ってからのスルーパス。つまり2点とも、ドリブルによるボールキャリーが起点になっている。
こういう形が多かったわけではないが、後半はハーフライン付近でボール奪取されないような工夫をしながらの攻撃で、特に中盤をドリブルで突破してチャンスを作っていたことがわかる。
次にレッズレディース。
これもベレーザと同じ傾向が見られる。ハーフライン付近でのボール奪取が減り、最終ラインでのボール奪取が増えている。
これは、ベレーザが裏抜けを繰り返し狙っていたのに対応して、最終ラインを下げ目に構える形になっていたことによるものだろう。
だからといって下がりっぱなしではなく、巧妙なラインコントロールで中盤が間延びしないように工夫をしていた。
ベレーザとしてはシュートは打てているのでそれでも崩せなかったわけではないのだが。
また、レッズレディースは、後半はボールを奪ってから6回シュートにつなげている。後半だけでカウントすると33回中6回、つまり18.2%という極めて高い数字になっている。しかも2点ともボール奪取から。
決勝点も、塩越柚歩のシュートの前、自陣でボールを奪い、3つのパスでシュートまで持ち込んでいる。塩越は、それがブロックされてはねたボールをシュートしたものだ。
このあたり、レッズレディースの後半はトランジションから上手く攻撃につなげていたことがわかる。
まとめ
この試合は、全般的に言えば、前半はベレーザ優勢、後半はレッズレディース優勢だったが、ボール奪取マップを見てみると、両チームとも同じような奪取パターンだったのが興味深い。ベレーザは後半もチャンスが少ないわけではなかったが、決めきることができず、最後に塩越に決められた、という試合ではあった。
Jリーグとは根本的に違う部分があることを、この試合から見て取ることができた。ただ、1試合だけではなんとも言えない部分もある。第2節も第3節も見に行く予定なので、そのあとで何かまとめて考えてみたい。
(終わり)