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スクラム優位をどう使う?:クボタスピアーズ対ヤマハ発動機ジュビロ(4月24日)<1>

 今日は久々に楕円球の方のレビューを。4月24日、江戸川陸上競技場で行われたクボタスピアーズ対ヤマハ発動機ジュビロ。

 江戸川陸上競技場はマンションが立ち並ぶ一角にある。

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 このマンション当たりからだと、国立競技場3階席上段当たりの感じで試合見られるのではなかろうか??

 西葛西駅から大人の男性が早歩きで15分。普通の足で徒歩20分。なかなか厳しいロケーションだ。西葛西駅は快速が止まらないのだけれど、この日はうっかり快速に乗ってしまって浦安まで乗り過ごしてしまった(笑)。

ボールロストはクボタの方が多かった

 今年の調子から見て下馬評はクボタ優勢。実際、最終スコアは46-12(前半24-7)でクボタの快勝。

 ただ、開始早々の前半3分にヤマハが先制トライを奪い、そのあとも5分に5mスクラムと攻め込むなど、立ち上がりは「もしや」と思わせる展開だった。後半も立ち上がりにヤマハが攻め込み、マイボールの5mスクラムのチャンスが2回あった。この2つのチャンスでトライを取れていたら、これほどスコアが開くことはなかっただろう、とは思わせる試合だった。

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 まずはボールロストマップを見てみよう。実はこの試合、ボールロストマップのデータを見る限り、46-12でクボタが勝ったとは到底思えない数字になっている。

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 いくつかの例外はあるが、基本的にボールロストが少ない方が勝つ、というのがこれまでデータを見てきた傾向。

 しかしこの試合ではヤマハのボールロストがわずか11なのに対し、勝ったクボタが14。14というのも少ない数字ではあるのだが、これまでの傾向とは大きく異なるデータだ。クボタは自陣22mライン内側でも、敵陣22mラインより向こうでもヤマハより多くのボールを失っている。

 ただ、ヤマハはペナルティによるボールロストが4つあり、そこはクボタより多い。


得点機会ではクボタが圧倒

 しかし、クボタが大きく優勢にある数字が、22mラインを突破した回数。私が「得点機会」としてカウントしている数字だ。

 では、得点機会を見てみよう。

クボタ
 11分:トライ
 19分:PG
 24分:トライ
 27分:トライ
 31分:ノックオンでボールロスト
 34分:ノット・リリース・ザ・ボールでボールロスト
 39分:トライ
 52分:トライ
 55分:PG
 61分:ノックオンでボールロスト
 67分:ノックオンでボールロスト
 72分:トライ
 75分:トライ

ヤマハ
 2分:トライ
 5分:ノット・リリース・ザ・ボールでボールロスト
 41分:ノット・リリース・ザ・ボールでボールロスト
 68分:こぼれ球がタッチにでてボールロスト
 71分:トライ
 80分:ターンオーバーでボールロスト

 クボタの13回というのは凄い数字で、これだけの一方的なスコアになったのはうなずける。

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 ヤマハの6回というのは、極端に少ない数字というわけではないし、これくらいの得点機会でも着実にスコアを積み上げられるチームもある。しかし、この日のヤマハが得点に結びつけられたのはわずか2回。これでは苦しい。

この得点機会の差はどこから?:キックの場合

 ボールロストが少ないのになぜこれほどの得点機会の差があるのか。1つ考えられるのが、キックの違いだ。

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 ということで次にキックの数字を見てみる。

 クボタ
  再確保:2
  プレーエリア前進:1
  後退:3(うち1回は失トライ)
  リターンキック:0
  ドロップアウト・フェアキャッチ:0

 ヤマハ
  再確保:2
  プレーエリア前進:2
  後退:2(うち1回は失トライ)
  リターンキック:1
  ドロップアウト・フェアキャッチ:0

 こうして見ると、キック自体が両軍とも6回で、少なめだということがわかる。ただ、前に観戦したパナソニック対ヤマハ戦でもヤマハのキックは6回だったから、ヤマハとしては標準的な数なのかもしれない。クボタはサントリー戦が10、ホンダ戦が9、東芝戦が15だから、際だって少ない。ゲームプランとしてキックを少なくしていたことがうかがえる。

 ただ、キックの内容を見ると、再確保がお互い2。プレーエリアを前進できた数もクボタ1、ヤマハ2で大きな差はない。後退した回数にいたってはクボタが3でヤマハが2。クボタの方が多いが差があると言えるほどでもない。切り返されてトライに至ったのもお互い1回ずつあるので、ここにも差はない。となると、キックの差でもないということになる。

この得点機会の差はどこから?:スクラムの場合

 実はもう一つ、気になったことがあったのでこの試合は別のデータを取ってみた。スクラムだ。ラグビーファンには広く知られているとおり、ヤマハの強みはスクラムだ。

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 この試合のヤマハボールのスクラムは10。そのうちコラプシングを奪ったのが3回ある。クボタボールのスクラムは6。そのうちアーリーエンゲージでボールを失ったのが1回ある。ここから、スクラムにおいてヤマハが優位に立っていたことがわかる。

 興味深いのは、合計の時間。

 ヤマハボールのスクラムに要した時間は合計で11分32秒。平均で69秒。うち最後の3回はスコアも開いたのですぐにボールを出しているから、それを除外すると合計9分52秒になり、スクラム1個あたりの時間は84秒になる。

 一方、クボタのスクラム6個の合計時間は4分3秒。平均で40秒。つまり、ヤマハはクボタの2倍あまりの時間をスクラムにかけたということだ。これはスクラムでの自信を反映してのことだろう。

 問題は、このスクラムの優位が得点に結びついたかだ。

 例えば6分、インゴール手前でのクボタのノックオンから得たスクラム。コラプシングで一度ペナルティを得たあと、スクラムを再選択するも押し切れずパスアウト。そのあと押し戻されて22mライン付近でノット・リリース・ザ・ボールでボールを失う。

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 後半攻め込んでからの42分は一度コラプシングを得たあとスクラムを再選択。押し切れずにボールをパスアウトしたあとでクボタがラインオフサイドを犯してペナルティ。

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 ヤマハはここでまたスクラムを選択。46分も一度コラプシングを獲得するがスクラムを選択。これも押し切れずにパスアウト、やはりノット・リリース・ザ・ボール。

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 敵陣ゴール前のスクラムでペナルティを3回も得ているのに、それが得点につながっていない。

スクラムの「目的」とは?

 そもそも、スクラムが優位にあるときでも、スクラムの「目的」はきちんと詰めておくべきだと思う。白紙的にいえば、4つ程の目的が想定できる。

 第1は、スクラムトライを狙うこと。あるいは取れなくても、相手にコラプシングを何回か続けて犯させればプロップをシンビン退場に追い込むこともできる。

 第2は、ペナルティを取ってPG機会を作ること。 

 第3は、ペナルティからのタッチキックでラインアウトの機会を作り、モールからのトライを狙うこと。

 第4は、相手のフォワードを一カ所に集めること。スクラムは原則8人で組むから、スクラムの時には相手のディフェンスは7人になる。もちろん攻撃側も7人だが、ブレイクダウンの時よりもスペースがある、ということだ。このスペースを使って攻撃を仕掛ける、というのもスクラムの重要な役割になる。(ゴール前でペナルティを取ったときのスクラム選択の多くは、実はスクラムトライ狙いではなく相手を集めることが狙いだ)

 この4つのうち、実はスクラムトライというのは簡単には取れない。多少の力の差があっても、ちょっとしたことで押し切れないということはよくあるからだ。

 ラインアウトも、ラインアウトモールへの防御も最近は進んできているし、ラインアウトにはラインアウトの不確定要素がある。から、深く零要素があるから、

 そう考えると、第2の、PG機会を作ること、というのはもっと真面目に追求されるべきだと思う。

 特にこの試合のヤマハについていえば、6分のペナルティはPGを狙っておくべきだった。その時点ではヤマハが7-0でリード。リードを10点に広げられたのだから。

 ヤマハのスクラムは確かに強い。けれど、スクラムで優位に立つだけでは得点につながらないこともある。ヤマハや、「スクラムでの優位を、どのような形でスコアにつなげるか」ということをもっと再現性の高い形で追求していく必要があるだろう。

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 ただこれではまだ、「なぜこれほどの得点機会の差が生じたのか」かがまだわからない。この違いは、フィールドプレーの中で生じていた。次回「プレー解剖」の中で、クボタとヤマハのフィールドプレーの差を見てみようと思う。


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