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田中碧が抜けたあとの最大の課題とは:川崎フロンターレ前半戦振り返り<3>

 川崎フロンターレ前半戦振り返りの3回目。前回までは、ボール奪取マップを元に、敵陣でのボール奪取率やシュートにつなげた率などを対戦チームと比較してみた。

ボール奪取数個人ランキング:谷口がトップ

 今回は、フロンターレの中での分析をしてみよう。ここで挙げるすべての数字は、前半戦すべてのデータではなく、観戦した試合、つまりレイソル戦を除く等々力でのホーム戦すべての数字だ。

 まずはボール奪取数の個人別ランキングから。

スライド6

 1位は圧倒的な大差を付けての谷口彰悟。2位が田中碧。アンカーのシミッチが続いて山根、ジェジエウ、登里の最終ラインが4-6位。

 こう見ると、田中碧とシミッチのボール奪取能力の高さが目立つとともに、谷口の多さが際立つ。センターバックでペアを組むジェジエウより40も多い。

 このボール奪取のカウントは、クリアで敵ボールになったときやタッチに出たときは含まない。なので、谷口の場合、最終ラインでボールを処理したあともただクリアするのではなく、味方につないでいる数が多いことがわかる。

 ただ、ジェジエウの場合、攻撃時で2バックで守っていて裏を取られたときに1人で対応してクリアすることが多いから、単純な比較はフェアじゃないが。ただ谷口も同じような状況はあるので、クリアする瞬間に周辺の味方の位置を把握する能力が高いと言うことは言えるだろう。

90分換算で見ると?:やはり中盤のボール奪取がキモ

 なお、この表で示したのは絶対数。公正な評価のためには90分換算に直す必要がある。計算し直したのが下の表。

スライド7

 なんと一番多いのは小塚和季になる。谷口がその次になり、シミッチと田中碧の順位が逆転する。

 小塚の出場時のプレーぶりには賛否両論あるが、縦のスペースを見つけての素早いパスだけでなく、ボール奪取でも能力が高いことがうかがえる。ただ、小塚の平均出場時間は5.8分。これではさすがに短すぎる。

 他にも平均出場時間が短い選手がランキング上位に出てきているので、平均出場時間40分で足切りしてランキングを示してみる。

スライド8

 45分としないで40分としたのは45分にすると脇坂泰斗が外れてしまうから。「それでは恣意的だ!」と思う方は脇坂を飛ばして見ていただければと思う。

 こうするとシンプルに見える。谷口がやはりトップで、シミッチ、田中が続き、山根とジェジエウが4,5位。登里の順位が下がり、中盤の脇坂と旗手がその上に来る。

 やはり今年のフロンターレのボール奪取においては中盤がキモだと言うことがよくわかる。実際、総数で見ても、最終ラインの4人のボール奪取は合計342。中盤の選手たち(旗手は中盤でカウント)のボール奪取は合計302で、最終ラインには及ばないもののかなりの数だ。

シュートにつながったボール奪取は?:田中碧が最多

 さて、次にポジティブトランジション後のシュートにつながった数を見てみよう。

スライド9

 実数では田中碧がトップで20、谷口、シミッチが続き、三笘が4位になる。

 凄いのは田中碧。圧巻の90分換算2.3。単にボール奪取しているだけでなく、そこからのシュートに結びつくようにパスを出せる能力が極めて高いと言うことだ。

 2位は絶対数では谷口だが90分換算値に直すとシミッチの方が上になる。ただ、アンカーのシミッチがシュートにつながるボール奪取が多いのはそれほど驚くようなことではないが、センターバックの谷口が、一試合あたりに直して1.4個のシュートにつながるボール奪取を成功させているのは素晴らしいことだ。ボール奪取の項で書いたとおり、味方の位置をきちんと把握した上でディフェンスしていることが理解できる。

 4位は三笘薫。三笘については通り一遍で「ディフェンスが課題」と言われることが多いが、90分換算値でも1を上回っており、数字を見る限り素晴らしい前線でのディフェンスだ。

シュートにつながる割合が一番高いのは?:ダミアン

 この数字を90分値換算に直した上で、ボール奪取の中でシュートにつながったボール奪取の割合を計算してみる。さらに出場時間平均40分以上で足切りしたのが下の表だ。

スライド10

 1位はなんとダミアン。全戦からの献身的な守備から見ると意外ではないが、全体ランキング7位からの大逆転。その割合はなんと36.06%、3分の1を越える。

 続くのが三笘で約3割。それに田中碧、シミッチ、脇坂が続く。谷口の割合が低下するのはポジション上仕方ない。

 前線3人のうち2人が1、2位になると言うことは、それだけやはりシュート意識を高く持ってボール奪取していると言うことだろう。田中碧も、割合にすると3位に落ちるが、それでも2列目のポジションで2割のボール奪取でシュートに結びついていつというのは凄い。

田中碧が去ったあとの課題は?:小塚和季の可能性

 と言うことで、対戦チームに比べて2倍以上の数字を残しているポジティブトランジションからのシュート。その原動力はダミアン、三笘、田中碧のボール奪取後のシュート率の高さ、また、センターバックでありながらシュートにつながるボール奪取のできる谷口のクリア能力の高さによると言うことがわかった。このあたりが、代表やACLで谷口がアンカーとして使われ始めていることの1つの理由だろう。

 また、ポジティブトランジションから高確率でシュートにつなげられるかということが、田中碧が去ったフロンターレにとっての課題になるかもしれない。脇坂も悪くはないが、田中碧には及ばない。

 小塚は90分換算の数字は悪くないが、いかんせん出場時間が短すぎる。そう考えると、小塚が出場時間を増やしていくようなプレーができるかどうかが、田中碧の穴を早く埋められるかどうかを決めるのかもしれない。

(続く)