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【読書感想】雪女

図書館で1冊の絵本を借りた。タイトルは『雪女』

雪女と言えば、妖怪を扱った作品(特に漫画)には必ずと言っていいほど登場する。しかも準主役級で。

少年漫画的には雪女=雪(氷)を操る描写に違和感が無いから使い易いんだろうという印象。

そんな人気な妖怪なので、取り扱った作品も数多あると思うが今回ボクが読んだのは、作・小泉八雲/訳・平井呈一 絵・伊勢英子 表紙扉装飾・岡本明

あらましはこうだ。

茂作と巳之吉という二人の木こりが山から帰る途中、ひどい吹雪にあい小屋に避難する。眠っていた巳之吉がふと目を覚ますと、白装束を着た女が茂作の上にかがみこんで、しきりに白い息を吹きかけていた。その女の目はぞっとするほど怖ろしい。しかし、その顔はこの上なく美しい。女は巳之吉は若くかわいいからと茂作にしたように白い息は吹きかけない。だが今夜ここで見たことは誰にも言ってはならない。言うとお前を殺しに来る。自分には言ったらちゃんとわかるのだからと言って去っていた。その出来事は夢なのかと思った巳之吉。茂作を呼んだが返事をしない。茂作は氷のように冷たくなって死んでいたのです。その翌年、巳之吉はお雪という美しい女性と出会う。江戸へ向かう彼女を家に招き、巳之吉の母親もお雪のことを気に入り、出会った時から不思議と惹かれあっていた二人は結婚することに。多くの子ども達にも恵まれ幸せに暮らす巳之吉とお雪。お雪は出会った時のまま。まるで時が凍ってしまったかのように美しいままです。ある晩、子ども達が寝てしまってから巳之吉は行灯の影で針仕事をしているお雪を眺めながら、自分が若い頃にお雪そっくりの女に出会った話をしました。恐ろしいが色は抜けるほど白く美しいお雪そっくりの雪女の話を。巳之吉が話を終えるとお雪は「その雪女は私だ!」と鋭い声を上げました。「あの時ひとことでもしゃべれば命はないと言ったが子どもの事を思うとそなたの命を貰うことはできぬ。こうなったからにはせめて子どもを大切に大事に育ててくだされや。子どもに辛いこと思いをさせるようなことがあれば、その報いは、きっとこのわたしがしますぞよ」そう叫びながらお雪の姿は見えなくなり、二度と彼女を姿を見ることはなかった。


雪女は何故、茂作と巳之吉の前に現れ二人の命を奪おうとしたのか?巳之吉を救ったように単なる気まぐれなのだろうか。恐らくだが人間と妖怪では価値観も寿命も違う。人間が鬱陶しいという理由だけで虫を殺すのとそう感覚は変わらないのかもしれない。

雪女がお雪として巳之吉の前に姿を現したのも気まぐれか。それとも自分のことを話したかどうかを監視するためなのだろうか。でもそれだけで結婚して子どもを産み母親となることを選ぶのは並大抵の覚悟ではない。

もしや雪女は巳之吉に一目ぼれしたのかもしれない。妖怪の世界の掟で自分の正体が妖怪とばれない限り人間と結ばれていい決まりがあるとか?それなら巳之吉が話した時に適当にごまかせばいいだろうとも考えたけど、「自分のことを誰にも話さない。話せば殺す」というのが、今風に言うと〝縛り〟だったのかもしれない。

妖怪の世界は想像で補うしかない分、そんな呪術的な効果もあってもおかしくはないだろう。

最もお雪(雪女)は子どものことを想って巳之吉は殺さなかった。「自分のことを話せば殺す」という縛りを履行できなかったから消えてしまったのだろうか。

最後に「子どもに辛いこと思いをさせるようなことがあれば、その報いは、きっとこのわたしがしますぞよ」という言葉を遺しているが、母親がある日急にいなくなる事ほど子どもにとって辛いことはなかろうに。


まぁ、そんな色々な考察(妄想)ができると言うのは、それだけこの作品が素晴らしいという証だ。

雪は白く美しい。だがやがて溶けてなくなる。しかも雪の景色を感じるには寒いところにいなければいけない。ずっと眺めていたいけど人間は雪があるところぐらいに寒いところに居続けることはできない。寒いところに居続けたら死ぬかもしれないから。やがて暖かい場所へ帰りたくなる。

そんな『雪』に対するイメージが雪女という存在を美しく儚く怖ろしいものとして定着させているのかもしれない。

雪女が長く愛され続ける理由が少しだけわかった気がする。

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