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それでも重い登山靴を履きますか?(登山靴あれこれ⑨)

最近の登山靴は軽いものが主流
ハイカットではなくローカットやミドルカット、素材も革ではなく化繊(ナイロン)中心
ソールは柔らかく、歩きやすい
冬靴ですら化繊のダブルブーツが登場し軽量で保温性も高いモデルが増えています

革製で重量があり、ソールは分厚く、固い
登山靴といえばそのイメージ。軽くて歩きやすい靴が主流の今でははっきり言って時代遅れ。それでもそれでも、重い登山靴には利点があります

革のアッパー

耐久性と耐衝撃性のため厚い革が使用されます

革はエイジングが楽しめる、といったノルスタジックな話は置いておいて、革の利点は衝撃吸収性の良さ。石や岩に足をぶつけた際に衝撃を緩和してくれます。化繊で軽い靴はぶつけるとかなり痛い。雑に歩くからだと言われればそうなのですが、登山道は不整地なのでどうしても足をぶつけてしまうことはあるのです。靴は足を守るためのもの。その第一の目的をしっかり果たせるのは、やっぱり化繊ではなく革でしょう
また、革の利点は足馴染みの良さ。履くことで、伸びる→縮む→伸びる→縮むを繰り返し足に馴染んでいきます。化繊は伸びる一方で縮むことがないため経年とともにフィット感は落ちていきますが、革は使うほどにフィットしていきます

ドロドロ、傷だらけの登山靴はそれだけ足を守った証拠

重い登山靴はソールが固い
ソールが固いことは自然な足の動きを妨げることになり、結果歩きやすさをスポイルしてしまいます。
それでもこんな時に利点があります

八ヶ岳でよく目にする大きな石が露出した登山道
穂高岳などの北アルプスの山は岩の上を歩くことが多い

標高の高い山でよく見られる岩でゴツゴツした登山道。ここをソールの柔らかい靴で歩けば靴が歪み、足裏に大きな負担がかかってしまいます

ソールが柔らかい靴で不整地を歩く→ソールが歪む→その捻じれを足裏の筋肉で補正する→足裏の筋肉に余計な負担がかかる→足裏の筋肉が疲れることで土踏まずが落ちてくる→土踏まずのクッションがなくなる為、他の筋肉や関節に負担がかかる

ソールが固ければ靴が歪まず、足裏への負担は少なくなります。また、ソールが固いことで尖った岩の上でも荷重が「点」ではなく「面」でのれるためバランスが取りやすいことは大きな利点

ソールが固いことを利用すれば、ソールの前部分だけで足全体及び体重を支えることができます。ソールが柔らかい場合、足の筋肉を使ってつま先立ちをしないと体重を支えられません。岩場では足先しかかけられないような場所もあるので、そのようなルートを進む際に足の筋肉への負担を減らす効果があります

重い登山靴の分厚いミッドソールは、ゴツゴツした石や岩から伝わる衝撃を緩和することで、ソールの固さと同様に足裏の疲れを減少させます。長距離を歩くのならば、これも大きな利点。

靴が重いことは、足を地面についた際の安定につながります。体を支えるために足の筋肉を使うところを重い靴がサポート。体がふらつかないことで体力の減少を抑えてくれます。重たい荷物を背負った場合は尚更、靴の重さが体を支えてくれたりします。ソールの固さと重さで不安定な登山道でもしっかり体を安定。結果足の筋力と体力の温存となります

岩稜帯の登山道ではソールが固く分厚い登山靴の利点を発揮しやすい

じゃあ欠点は?
何より重いこと。軽い靴に比べれば当然のように疲れやすいです。ただ、これは軽い靴と同じ歩き方をしたらの話。大股でペース良く、大きな段差も足を大きく上げて登ろうとすると重い靴は足枷でしかありません
ゆっくり、小幅に一歩を進めていく歩き方に向いています。というか、そういった歩き方をしないと利点を生かせません
よって、せっかちな方や早いペースで山を歩きたい方にはまったく向かない靴です。山岳レースのTJARに登山靴を履いて参加している方は誰もいないように、早いペースで歩くにはソールが柔らかく重量の軽い足さばきのしやすい靴を選択するのか一番
ソールの固さはゴツゴツした登山道や急斜面では利点となりますが、整備の行き届いた土道メインの登山道では歩きにくさを感じると思います。低山ではソールが柔らかく、土でのグリップの良いトレランシューズや軽めの登山靴(トレッキングシューズ)が向いているでしょう

低山で整備の行き届いた登山道
それほど急斜面ではない土の道では固いソールは不要

重い登山靴は、時に足の筋肉をサポートし重い荷物を背負った際に体がふらつかないように支えてくれるのが利点
しかし最近は道具が軽量化され、テント泊の装備といえどとても軽くなってきました。重い登山靴からもたらされるサポートより、トレランシューズや軽い登山靴(トレッキングシューズやアプローチシューズ)の方が歩きやすくリターンが大きいかもしれません。それにトレッキングポールが普及し体を支える道具は靴だけではなくなっています。
そして、何より山慣れしていて足腰の筋力が強い方に重い登山靴のサポートは不要です

先日歩いた北アルプスではいろいろな登山靴を目にしましたが、軽めのトレッキングシューズやローカットシューズがよく目に留まりました

スポルティバのローカットの登山靴。区分的にはアプローチシューズながらトレッキングシューズとして使用可能

こちらはミッドカットの登山靴(トレッキングシューズ)。ソールは柔らかいながら踵の安定感がよく、とても歩きやすい

登山道の整備が進み、北アルプスといえど急峻な道は少なくなりました。もちろん今でも岩稜帯の登山道はあり、危険個所もありますがそれも一部です

登山といっても色々な形態があり、ソールの固い登山靴が必要な場面はあります。しかし、現在の登山道を歩くには重くてソールの固い登山靴は必要のないものなのかもしれません

それでも重い登山靴を履きますか?

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