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急がば回れ 〜J2リーグ第15節 京都サンガFC vs レノファ山口FC 振り返り〜

2019年Jリーグ第15節 京都サンガFC vs レノファ山口FCの試合は,2-0で京都サンガFCの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

この試合のプレビューはこちらです。


この試合のハイライトは,京都の庄司が前半37分に退場したものの,山口がうまく攻撃することができにずに敗れたという事だと思います。

私はプレビューで,「この試合は山口にとって難しい試合になるだろう」と書きました。それは,この試合の暑さの中で京都というチームにボールを持たれて動かされる可能性を感じてのものでした。

結果的には,京都の庄司が前半37分に退場したものの,山口がうまく攻撃することができずに敗れたという点で,難しい試合になってしまったわけですが,これはプレビュー時の想定とは異なる難しさです。

プレビューでの難しさとは,京都のボール保持に対する山口の守備に関する部分のことであり,この試合で敗れた難しさというものは,10人の相手に対して1点も奪うことができなかった攻撃に起因していると思います。

ですから,今回は,プレビュー時に想定していた山口の守備はどうだったのかということと,攻撃で1点も奪えなかったことについての2点をそれぞれ振り返りたいと思います。


悪くなかった山口の前線からの守備

まず,守備の面を振り返っていきたいと思いますが,この試合の山口の守備は悪くありませんでした

前半開始12分頃までは京都のボール回しに対して前線のプレスがはっきりせず,4-3-3の京都に対して,アンカーを務めるキーマン庄司やCBの本多や安藤に制限をかけることができていませんでした。その理由は,1トップの岸田が前節と同様にまず相手のアンカーの庄司を見て,そこからCBにプレスをかけるという形だったからです。

岸田1人で3人を見るような形になっていたために,京都に簡単にボールを運ばれていました。しかし,ここから山口は2つのプレスの形を見せることで京都の前進を阻んで行きます。

1つ目は,右IHの三幸が庄司に襲い掛かることで,自分たちの左サイドに誘導する形です。これは前半13分のスローインからの場面で初めて見られました。最初のプレーでは見事に庄司のミスを誘いましたし,その後も庄司から出る左サイドへのパスを三幸が防ぐことで,山口としては,自分たちの左サイドで,ボールの奪い所を作ることに成功しました。庄司が退場となったシーンもこれに似た形でした。

もう1つは,山口のサイドアタッカーの選手が外側から相手のCBにプレスをかける形です。これは,前半7分に高木が本多からボールを奪ったシーンで初めて見られました。相手のCBがボールを持った時に,CBからSBへのパスコースを消しながら,CBにプレスをかけることで,縦パスを出させ,出てきたところをIHの三幸や吉濱,そしてアンカーの佐藤健太郎が潰す事を狙う形だったと思います。

この形では,前述の7分のシーンや前半27分の佐々木匠が安藤からボールを奪いかけたシーンなど,サイドアタッカーが直接CBからボールを奪える時にはうまくいっていたのですが,縦パスを出させた時に後ろの連動にエラーが起きて,ボールを運ばれるシーンは何回か作り出されていました(前半17分や28分のシーン)。

うまく剥がされるシーンもありながらも,全体としてみれば,山口の前線からの守備は13分頃からうまくハマり始めていたと思います。京都からしてみても,点を奪うまではそこまで上手く前進できていなかったのではないかと思います。

ですから,プレビュー時に想定していた難しさというものは,前半立ち上がりはうまくいかなかった点で半分は想定通り,その後は修正できた点で半分は想定通りにはならなかったと言えるのではないかと思います。


「山口は守備が・・」の部分に目を向ける必要はないと思う

ただ,山口としては,悪くない時間帯にセットプレーから失点をしてしまいました。前線からの守備はある程度うまくいっていた中で,失点が生まれた要因とは何なのでしょうか。

1つは自陣での守備でしょう。相手が自陣に入ってきた時に,ブロックを作って跳ね返すということは確かにできていないと思います。自陣深くでも人に食いつく傾向が強く,空けてはいけないアンカーの脇のスペースを使われたり,食いついたCBの裏に走られたりというシーンはよく見られます。「山口は守備が・・・」と言われるのはこういった面だと思います。

では,自陣深くでブロックを作って相手を跳ね返す事に焦点を当て,改善をしていく方向にチームの優先順位を置くべきなのでしょうか。

私は,そうは思いません。なぜなら,このチームは相手ゴールに常に矢印を向けてサッカーをすることがコンセプトになっているからです。その点で,後ろで構えてブロックを作ることを優先させる必要はないのではないかと思います。敵陣でサッカーをすればよいだけです。

さて,敵陣からのプレスはうまくいっている状況で,自陣に入られてしまうのはなぜなのか。それが,この試合の失点が生まれた要因の2つ目だと思います。

それは「自陣でボールを奪われる」ことです。

この試合の前半の山口のピンチも,自陣でボールを奪われてからがほとんどだったと思います。前半6分の京都の決定機は,唯一の例外だと思います。これは安藤の持ち運びが素晴らしかったです。しかし,前半10分の小屋松の決定機は,自陣で佐藤健太郎が奪われたことによるものであり,失点を喫したCKに繋がった京都の31分の決定機も佐々木匠がボールを奪われたところから始まっています。

このように,自分たちのボールを奪われること,つまり,攻撃が失点の要因の1つであるわけです。ですから,この状況を変えていくために優先順位を上げるべきことは,自陣での守備ではなく攻撃だと思います。

自陣でボールを失わずに,敵陣に侵入するという意味での攻撃,敵陣に入って点を奪うために相手のディフェンスを崩すという意味での攻撃,この2つの面の攻撃の精度を上げていくことしかないと思います。


継続と徹底の力

改善したいと思われる山口の攻撃ですが,そのヒントはこの試合の中にもたくさん転がっていました。

まず,自陣から敵陣に入っていくという意味での攻撃の部分です。前半22分のシーンでは,相手の中盤の選手を手数をかけて動かし,片方のサイドに寄せ,その逆から前進することができました。また,53分のシーンでは,相手がリスクをかけて前からプレスをかけてきたところを前貴之から岸田へという1つ奥へのパスを出して,相手の前向きの矢印の逆を取ることで前進することができました。

次に,敵陣で相手のディフェンスを崩して得点を取るという意味での攻撃です。これは,63分から64分にかけての吉濱のシュートのシーンがヒントとなるでしょう。フリーの三幸から川井へとパスが出て,川井がボールを運び,相手を押し下げます。そこで三幸にパスを戻し,3人目として吉濱がニアゾーンに走り,パスを受けてペナルティエリア内に侵入できました。

このように,場面場面で山口は良い攻撃を出せていたわけです。その上で,足りない部分は継続と徹底だと思います。相手が10人,こちらは負けているという状況で,焦って急いでしまいロングボールを蹴ってしまうことがありました。手数をかけて1つずつ相手を剥がしていけば良いものを,一気に飛ばしてうまくいかない場面がありました。

なかなか勝てない,点が欲しいという状況で「急がば回れ」の精神を持てずに,うまくいった攻撃を徹底できずに自滅してしまったことが敗因の1つだったと思います。

今この状況で必要なことは,焦って勝負を急ぐことではなく,自信を持って目の前にあるやるべきことを1つずつやっていくことであり,急がば回れの精神で1つずつこなしていくことです。サッカーは1回のゴールで2点以上入るスポーツではありませんし,勝ち点も1試合で最大3しか積み上げられません。一気にこの状況が好転するわけではないからこそ,1つずつ壁を乗り越えていけるようにやっていくしかありません。

次節の首位水戸戦も,また厳しい戦いになるでしょうが,京都戦で出た課題をまずは克服できるようにすること,その先に勝利が待っていることを期待したいと思います。


*文中敬称略


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