アイデンティティのぶつかり合いの先に 〜J2リーグ第21節 レノファ山口FC vs FC町田ゼルビア 振り返り〜
2019年J2リーグ第21節 レノファ山口FC vs FC町田ゼルビアの試合は,3-0でレノファ山口FCの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。
前回の試合の振り返りはこちらです。
3-0という結果になったこの試合ですが,試合の注目点として,次のようなことを挙げていました。
山口と町田の試合だということを考えれば非常に当たり前のことを書きました笑。
結果的にはピッチを広く使うことのできた山口に軍配が上がりました。このnoteでは,町田の圧縮に屈することなく90分間プレーできた要因を振り返っていきたいと思います。
山口が行なった町田対策の配置
まずは山口が用意していた町田対策の配置の部分を見ていきたいと思います。簡単に言えば,ボールサイドとは逆のサイドに選手を1人余らせておくというものですが,そこにはあるルールが存在していたように感じました。
そのルールとは,ボール保持の時はWBの選手(高木・瀬川)が大外に張り,ボール非保持の時はシャドーの選手(高井・吉濱)が大外に張るというものです。
これがよく現れていたのがゴールキックの場面です。山口のゴールキックの時には逆サイドのWBの選手が1人ポツンと立っていますが,町田のゴールキックの時には逆サイドのシャドーの選手(特に高井)がポツンと立っているシーンが多かったです。町田の前節の対戦相手である千葉と比べると,山口の極端さがよくわかると思います。
このように山口は,町田を意識して配置から準備をしてきたことが読み取れますが,逆サイドにポツンと立っている選手に闇雲にボールを送っても町田の守備は攻略できません。
この戻りの速さは町田のサッカーをやる上で欠かせない要素だと思います。
町田の守備を攻略する「深み」について
町田の守備を攻略するためには,この戻りの速さを出させないようにしなければなりません。では,この試合の山口はどのようにして町田の守備を攻略していったのでしょうか。
ここを考える上でヒントになるのが,試合後の相馬監督のコメントです。
ゲームの方ですが、総じて言うと、正直なところ、山口さんの勢いにやられてしまったと思います。全体的に我々に対しての戦い方という意味では、昨年の10月頃に対戦したときも同じような立ち位置を取りながら、山口さんは戦ってきたのではないかと思います。そのときの対戦では、4バックであったか、3バックであったか、そこまでは記憶していませんが、反対サイドに常に人を集めておきながら戦ってくるという狙いは似たような形だったかなと思っています。ただそのときは連戦の中だったこともあってか、1-0で勝つことができました。今回に関して言いますと、正直、インテンシティの部分で相手に上回られてしまったのかなと思います。
もう一つポイントとして、幅だけではなく、深みを作られてしまいました。それが幅が生きる形になったと思いますし、そこのコントロールを我々がしきれなかったこと。そして攻撃の部分で正直、我々のできが悪過ぎた。この三点が理由となったかなと思います。
この試合のキーワードとして「インテンシティ」「深み」「町田の攻撃」の3点が上がっています。そして,その中でもインテンシティの部分で山口を上回ることができなかったと述べています。
町田の戻りの速さを打ち破ったカギは,この中で言うと「深み」の部分にあると思います。深みを作れたことで,相手を同サイドにより密集させ,逆サイドへのボールに対する戻りを遅らせることにつながったのだと感じています。
つまり,町田が圧縮しているからといって同サイドでの展開を逃げずに,縦に運んでいけたことが大きかったと思います。
展望のツイートで言えば,これに近いプレーです。
例えば,8分30秒のスローンからのシーンでは,高木のスローインを頭ですらした山下のパスを高井がごり押ししてキープし,右サイドの深い位置まで侵入した後,素早く左サイドへ展開しクロスまでいきました。
12分30秒からのシーンは,吉満のパントキックから始まり2分ほど左サイドの深い位置でプレーし続けました。ここでは,ごり押しから瀬川のクロスが2本入りました。
こうやって深い位置まで進入できたのは,まず山口の高いインテンシティによるものでしょう。相手にボールを奪われず,奪われてもすぐに奪い返すことで同サイドからでも前進することができました。そして,シャドーの選手の配置を右に高井,左に吉濱でスタートしたことも影響したと思います。いわゆる順足配置というやつです。
右サイドに右利きの選手,左サイドに左利きの選手を置いたことで,「まず縦」ということを強調したのではないかと思っています。
「深み」ができた要因にはこういった部分が関係しているのではないでしょうか。
1秒かからない素早い展開
ここまで,町田の戻りの速さを打ち破った要因の1つとして考えられる「深み」について見てきました。ここからは深みによって得た時間を無駄にしないための「素早いサイドチェンジ」について見ていきたいと思います。これも当然,町田の戻りの速さを打ち破った要因の1つでしょう。
この試合,素早いサイドチェンジや自陣からの素早いカウンターが町田の守備陣を切り裂いていきました。この素早さは,山口の選手達の「認知・判断・実行」の速さがもたらしていたと感じます。
それを検証するために,この試合の三幸のプレーを分析してみました。なぜ三幸なのかと言うと,展開を変える中距離から長距離のパスを多く出す山口の中心選手であるからです。
三幸の展開を変える中距離から長距離のパスは,この試合10本出ました(FKからのパスは除く)。内訳は1タッチパスが2本,2タッチでのパスが6本,3タッチ以上のパスが2本でした。さらに,2タッチでのパスを見てみると,トラップしてから蹴るまでの平均時間は1.13秒であり,0秒台のパスは4本ありました。ちなみに1タッチのパスと0秒台のパスは全て成功していました。
これは,全て手元の集計であり誤差もあるとは思いますが,山口が素早い展開の変化を行なっていたことは読み取れるのではないでしょうか。三幸のパスだけを見てみても6度,1秒かからずに展開を大きく変えています。これではさすがの町田も戻り切ることはできないのではないかと感じます。パスの出しどころにプレッシャーをかける前に展開を変えられてしまってはひとたまりもありません。
さらに,山口は三幸以外の選手も同じようなスピードで中距離から長距離のパスを繰り出していたように見えました。このような状況になってしまってはいくら町田といえども対応することは難しかったと思います。
素早いサイドチェンジが行えた要因は,試合前の準備段階から町田対策の配置に基づく展開が頭と体に入っていたことによるものだと思います。山口としては,試合中ほぼ全ての状況で,逆サイドや前線にフリーな選手がいることは想定できていました。そしてそこにいることが約束事になっていました。ですから,山口の選手達は,遠くの状況を確認しなくとも事前からの想定とイメージによって蹴ることができたのだと思います。これが,山口の「認知・判断・実行」の速さの正体だと感じています。
これまで見たきたように,インテンシティの高さがもたらした深みと「認知・判断・実行」の速さによる素早いサイドチェンジによって,町田の圧縮と戻りの速さを打ち破ったことが山口の勝利につながったのだと思います。
レノファ山口の目指すサッカー2019
この試合の山口は,相手が町田ということもあり,スピード感のあるサッカーを見せていました。ただ,町田に引き出された形であるとはいえ,このテンポ感のサッカーが山口の目指すところなのではないかと思います。
素早い状況判断から相手よりも先に動き,ボールをつないでいく。そしてゴールを目指していくというサッカーが山口の目指すところでしょう。
この試合の後に今シーズンのこれまでを振り返ると,なかなかそういった面が出せていなかったと言えるでしょう。新加入選手がかなり入った中で,1人1人がボールを受けてから出しどころを探すシーンが多くあったと思います。その中でミスが起きて失点を喫し勝ち点を落としていくという流れになってしまい,融合がなかなか進んでいかない状況になってしまったのだと感じます。
そういった状況で3バックに変更し,後ろの土台が整い,前へ出て行く矢印が強くなり,だんだんと目指すサッカーが披露できるようになっていきました。そして,新加入選手との融合が進み,結果も出るようになってきた。そこに町田という相手との対戦が重なった結果がこの試合のパフォーマンスだったのだと思います。
霜田監督のコメントでもチームに対する手応えが読み取れます。
-今日で前半戦の21試合が終わった。前半戦の戦いはどうだったか?
去年と全く反対のスタートになってしまったので、もう少し僕らは準備してきたものをちゃんと出せれば、こういう試合を早い段階でできれば良かったと思います、スタートで躓いた分、それを修正して立て直して、自分たちがどういうサッカーをやるのかを、結果を伴いながらチームの形を作っていくというところにちょっと時間が掛かってしまったかなと思います。たまたまシステムを変更しましたが、システムではなくて、今日みたいなサッカーが僕らがやりたいことで、やはり全員でハードワークして、ピッチを広く使って、相手にプレッシャーを掛ける。僕らのプレーモデルをちゃんとやって結果に繋げていこうという戦い方が、前半戦最後の5試合、6試合できるようになってきた。後半戦に向けて、いい形で前半戦を終えたというのが正直な気持ちです。
-良くなってきた要因は?
選手たちが本当に成長してくれている。そして、去年からいる選手と今年初めて入ってきた選手との融合が、思ったよりも時間が掛かってしまいましたが、今は本当に、去年いたか、今年来たかが分からないくらいに、誰が出ても僕らのサッカーをやれるようになってきた。そういう意味では前半戦の途中からやりたいサッカーができるようになってきたという実感はあります。
「誰が出てもやりたいサッカーができるようになってきた」
この言葉にチームに対する手応えを感じます。実際,この試合でも途中出場の選手達が良いプレーを見せました。パウロ,工藤は3点目に絡みましたし,小野原も久しぶりの出場の中,攻撃に守備に申し分ないプレーを見せました。また,水曜日にあった天皇杯でも勝利を収めました。チームは良い流れで進んでいっているのでしょう。
個人的な感覚ですが,この試合のサッカーは昨シーズンの前半戦の時のワクワクがありました。皆さんはどのように感じられたでしょうか。
さて,次節からは後半戦が始まります。チームが良い流れで来ていることは間違いありません。ただ,良い流れできているからこそ,応援する側としても霜田監督のこの言葉は頭に入れておきたいところです。
-後半戦ではどのように戦っていきたいか?
去年、僕らは天国も地獄も経験したので、いま勝っているからといってこれからずっと勝てるとは思わないし、あの14試合勝てなかった時期を絶対に忘れてはいけないと思っています。今はたまたま負けない時期が続いていますが、明日からまた急に勝てなくなるかもしれないので、そういう意味では常に謙虚に真面目にハードワークしながら、レノファのサッカーを確立しながら勝ち点3を取りに行きたい。目の前の試合のことだけを考えてやっていきたいと思います。
この言葉を胸に次節の栃木戦,グリスタで私自身も精一杯後押しをしたいと思います。
*文中敬称略
*霜田監督のコメントはレノファ山口の公式サイトから(http://www.renofa.com/archives/result/19machida-h/)
*相馬監督のコメントは町田ゼルビアの公式サイトから(http://www.zelvia.co.jp/match/game/134420/#report)
*三幸のパスの部分については後日改めてグラフを挿入するかもしれません。その際はよろしくお願いいたします。