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J2リーグ 第31節 レノファ山口FC vs V・ファーレン長崎 感想

2021年シーズンのレノファ山口の31試合目、V・ファーレン長崎との試合は1-3で敗戦となりました。今回はその試合の感想です。


意欲的な試合の入りと見せつけられたゾーンディフェンス

完敗となってしまった試合になりましたが、試合の入りとしてはここ最近の文脈通り、前への推進力が見られる展開でした。試合最初のプレーでは、長崎がキックオフで繋いで行こうとしたボールに対して桑原の出足でボールを奪いました。続けて2分には前から奪いに来た長崎に対して、菊地から河野へのパスで中盤の背中を取りスピードアップができるシーンを作りましたし、右サイドのスローインから田中陸を経由し、眞鍋から島屋で中盤の背中を取り、河野が抜け出しかけるシーンも作りました。

ただ、長崎も簡単に流れは渡さずに山口のゴールに迫るシーンを作ります。そして、守備も2トップの1人がアンカーポジションを取る田中渉をマークし、両SHがサイドの菊地と眞鍋からの縦パスのコースを消しながらアプローチしていました。長崎の先制点は菊地からの縦パスを引っ掛けてのショートカウンター、2得点目は吉満のパスがズレたところをゴールに流し込む形でした。

得点後も長崎が守備面で山口のビルドアップを上回る時間が続きました。山口とすれば真ん中を見せながらWBへボールをつけたところで、相手のSBを釣り出してその背後を狙う姿勢を出そうとしていたかと思いますが、なかなかうまく打開することはできませんでした。長崎の真ん中を消した立ち位置からサイドへ誘導し、WBがボールを受けたときには、前から後ろから横から包み込んでしまうようなゾーンディフェンスは見事でした。


長崎の誘導の中で迫られたリスク

長崎は攻撃でも山口のプレスをうまくいなしていました。長崎は4-4-2の立ち方を基本的には崩さずに前進を試みていました。それに対して山口は、1トップの草野でコースを限定し、タイミングを見計ってシャドーの島屋か河野の1枚がボールサイドと逆の相手のCBへ出ます。ここでスイッチが入ると相手のSBにはWBがジャンプをして、ボランチがボランチを消し、ボールを引き出すために下りてきたSHか2トップの誰かを菊地や眞鍋が前に出て奪うような形がありました。もちろん長崎がサイドからやり直してCBにボールを返した時も、同じようにスイッチを入れようとします。

試合を見ていて、菊地や眞鍋のところではボールが奪えそうなイメージを描くことができたのですが、それ以外で奪うのは厳しそうだと感じていました。また、長崎も上記の形で奪われないような立ち位置を取っていたように見えました。

ポイントは狙われている選手から距離を取ることでした。まず長崎のCBはサイドに大きく開くのではなく真ん中で近い距離を取って山口のシャドーに近づきすぎない立ち位置を取ります。次にSBは大外のレーンに立ち、低い位置を取ることで山口のWBから距離を取ります。すると、長崎のCBとSBの間に距離が生まれてしまいますが、その間の位置ぐらいにボランチが顔を出していざという時に備えます。これは、山口のボランチから距離を取ることにもなっています。

上記のような立ち位置を取ることで、山口のシャドーはCBに出るタイミングを伺いたいけど距離があるし、低い位置に立つSBもチェックしないといけない状況になりますし、WBも前へ出たいけれど距離と背後スペースのことを考えないといけなくなります。そして、草野の1トップに対して長崎の2CBが数的優位を作り、何度でもやり直しができる状況が作られていたと感じました。

山口としてはそれでも前へ出ていけばボールを奪えるかもしれませんでしたが、それにはチーム全体でプレスのタイミングを合わせる必要がありましたし、距離がある分誰かが少しでもズレれば背後の広大なスペースを使われる危険性が高まります。常にアクションを起こして積極的に奪いにいくというは、この試合においては高すぎるリスクだったのではないかと、だからこそなかなかアクションを起こせず受け身のように見えていたのではないでしょうか。

このように、攻守両面において長崎が単純に山口を上回っていたことが内容と結果に表れたのだと思います。それ以上でもそれ以下でもありません。唯一気になることとして挙げるとすれば、大きな変化が試合の中で見られなかったように感じたことでしょうか。後半の入りはフルスロットルで積極的に前へ出るであったり、長崎の2CBのところでうまく息をされてしまうのであれば5-4-1でのプレスから5-3-2に形を変えてみたりはできたと思います。

ただ、それができなかったのには何かしらの理由があったと思います。私は試合の中でそれを推測するため材料は見つけられませんでしたが、変化しようとしていたが出させてもらえなかったといったこともあるでしょうし、それも含めて長崎が上回っていたに尽きると思います。


長崎との噛み合わせ、そしてJ1昇格のための指標

シーズン最初の試合も含めて、長崎には力の差を見せつけられましたが、この結果には噛み合わせの部分も大いにあると思っています。山口は昨シーズンが最下位だったこともあり、戦力面ではJ2の中で上位とは言えないでしょうし、それをチームとしての練度で補おうとするチームだと言えます。長崎もゾーンディフェンスというキーワードに象徴されるように非常に整理されたサッカーを長所として持ちながら、そこにJ2でもトップクラスの戦力が合わさっているチームだと思います。

山口は戦力差で上回られているチームに対しても、チームとしての練度の部分で良い勝負に持ち込むことができるのですが、長崎に対してはそこの部分で上回ることが難しいため単純な戦力が露呈しやすい側面があるのかもしれないと感じました。

これが私が考える噛み合わせの部分です。

また、同じような文脈で山口がストロングにしたいポイントが長崎の嫌がることになりにくいという側面もありそうです。特に攻撃の部分がそうです。山口には1人でどうにかできてしまうようなアタッカーはいないと思いますし、だからこそ論理的にチーム全体で一歩一歩着実に相手を剥がしていって、ゴール前まで前進し、ようやく得点を奪えるかどうかの局面に持ち込むことができるはずです。

ですので、山口は論理性・再現性の部分を押し出してチャンスシーンを数多く作り出すことをストロングにしたいのだと理解しています。しかし、長崎もゾーンディフェンスで相手の選択肢を少しずつ削っていって気づいた時には相手が囲い込まれている状況を作り出すことに長けていますから、山口がストロングにしたい攻撃には真っ向から勝負を挑むことができます。

私が勝手に考えている長崎が嫌がる攻撃というのは、上記と対極にある一人で数的不利の局面でも打開できてしまうようなウインガーの突破や真ん中の狭いスペースでも素早いパス交換からの強行突破の形です。ある意味カオスを作り出して押し切ってしまおうという攻撃の方が嫌なのではないかと思います。

この試合の中で例えばのシーンを挙げると69分の川井がクロスを上げた場面です。山口として一度真ん中にボールをつけながらサイドへ展開し、川井に時間を作りキーパーとディフェンスの間にアーリークロスを上げて勝負できたシーンです。このように、山口はやることをしっかりやって着実に前進することをしたいのですが、長崎も山口の論理の中でやられる分には、最後のクロス対応のところで逆のSBがエラーを起こさずにしっかり絞ってくれば跳ね返せると思っているはずです。山口としては悪くないシーンなのだけれども、長崎が嫌がっているかというとそうとも言い切れないシーンだったのではと感じました。

そういう意味では最後の山口のゴールは、山口の中ではカオスを作って奪ったゴールだと思います。時間がない中で前線に人を集め田中陸からある程度アバウトにボールを入れていた中で、田中陸→島屋、島屋から浮き球を大槻に当て、近くでサポートした池上が追い越して奪ったゴールでした。

このゴールはただで終わらなかった、そして残留争いで重要になる得失点差のことを考えると大きなゴールですが、山口が目指す方向性の中でvs長崎ということを考えた時に非常に重要な意味を持ったゴールと言えるのかは個人的には疑問です。

山口が本気でJ1昇格を目指す資格を得るには、松田監督の長崎を相手に少なくとも内容面で五分の勝負に持ち込み、どちらに転ぶか分からない試合で勝利を得られたときなのではないでしょうか。それほど単純な力の差を感じましたし、今シーズンの残りと来シーズンの戦いを考えた時に山口にとっての重要な指標を与えてくれた試合になったと感じました



と感想を書いておこうと思っていたところで渡邉監督の退任が発表されました。今後の山口の戦いがどうなるのか、大いに注目したいと思います。まずは残留という重要なミッションを達成するために残り11試合を戦い抜いてもらいたいです。


*文中敬称略

*この試合のハイライトはこちら


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