J2リーグ 第17節 レノファ山口FC vs 愛媛FC 感想

2021年シーズンのレノファ山口の17試合目、愛媛FCとの試合は2-2で引き分けとなりました。今回はその試合の感想です。


前節からの修正を図る愛媛の非保持に対する山口の保持

厳しい内容の試合だったと感じられた方が多かったかもしれませんが、山口の試合の入りは決して悪くなかったと思います。試合の入りをどこで区切るかは難しいのですが、少なくとも最初の2つのプレーは良いシーンでした。

最初のプレーは前半24秒あたりからのボール保持でした。ヘナンが回収したボールを池上→渡部→ヘナンと繋いで、左サイドの新保にフリーの状態で届けることができました。前を向いた新保はライン間に位置していた高井へボールを渡し、高井から右サイドへの川井へ展開、クロスで終わるというプレーでした。

2つ目のシーンは2分30秒前後からのボール保持でした。最後は池上から前線の高井へ長いボールを送る形になってしまったのですが、その前までのボール回しは相手の先手を取っていて良いプレーでした。

いずれのシーンも流れの中で回収したボールを持ち運んでいく場面であり、左サイドの新保のところでフリーの状態を作り、前進を狙っていく形でした。

愛媛はボールを奪いにくるのですが、チーム全体での繋がりが少し弱く、新保のところへのプレッシャーが遅れてしまっていました。

このように、試合の入りのいくつかのプレーでは山口が愛媛を上回ったと言える場面が作れていたと思います。


しかし、時間が進むにつれて少しずつ愛媛が上回るシーンが増えていきました。愛媛の非保持が山口の保持を上回るようになっていきます。この試合の愛媛のスタンスは前線からのプレスで嵌めることだったと思います。前線からプレスに行けず中盤で構える時間が長かった水戸戦とは大きく異なるスタンスでした。

プレスを実行するためか人選と配置も変更しており、水戸戦では吉田の1トップ起用という形でしたが、今節は藤本に加え近藤を1列目に配置する2トップの形でした。後ろを消しながら全体のスイッチを入れる役目を担え、多少外されても戻る部分でスプリントもできる近藤を最前線に配置することで、水戸戦の守備とは大きく異なる形となっていました。

それでも最初の2つのプレーはうまく嵌められませんでしたが、プレスを行うことを止めず続けたことで次第に嵌められるようになりました。特に、山口のゴールキックからのビルドアップを阻害するシーンが時間と共に増えていきました。

ゴールキックは最も良い状態で守備を始めることができるプレーですし、そのプレーで狙った通りに嵌めることができると流れを掴むことができます。それができたのもアクションが止まらない近藤を含めて、1トップから2トップに変更したこと、そして右SHの小暮やCHの選手が山口の人に対して、前へ出ていくことを続けたからという点にあったと思います。


組み合わせの変更と全体の連動の関係

では、逆に山口の非保持と愛媛の保持の関係はどうだったのでしょうか。山口として見れば、自陣からのボール保持がうまくいかないのであれば、まず敵陣にボールを送り、そこからのプレスでボールを奪ってそのまま攻めてしまう方法もあったはずでした。

しかし、敵陣での守備に関しても山口側はうまくいっていなかったように見えました。愛媛と逆で前線からのスイッチがうまく嵌まっていなかったためです。山口の2トップは高井と浮田のコンビで、このコンビは初めての組み合わせでした。

初めてだったこともあったのか、彼ら2人のプレスに対し全体の連動というものがなかなか見られず、外されていくようなシーンがいつもより多かった印象でした。

例えば、9分過ぎの山瀬から西岡にボールが渡ったシーンです。山瀬からのパスを受けてボールをコントロールできている西岡に対して、浮田が強めの矢印を出したプレスを行います。ただ。ボールをコントロールできている西岡は冷静に逆を取り、前線へパス、このパスで中盤の池上と田中が置いていかれ、背後を取られかけるシーンとなってしまいました。

20分の山瀬のシュートシーンなども、前線から奪いに行くんだけれども、嵌められず、嵌められた後にアクションが止まってしまいやり直しが効かないために、前進を許したシーンだったと思います。

前線からのプレスがうまくいかないシーンがいくつか続くと、自陣に押し込まれる時間が長くなっていきます。5-3-2で守る山口としてみれば、これが一番きついわけです。押し込まれた際に中盤が3人しかいないため、スライドが大変になり、殴られる時間が増えていくという悪循環に陥りがちになってしまいます。

このような状況では、2トップの選手がどこまで戻ってくるかということが重要になります。いつもの高井と小松のコンビであれば、高井が最前線に残って小松が少し下がって助けるという関係が多いと思います。この試合のコンビでは浮田が残って、高井が戻る関係性だったように見えました。10分から11分にかけてのシーンや21分のシーンなど、高井が自陣の守備を助けようとしているプレーが見られました。

ただ、小松の方がより献身的に助けてくれることもありますし、どう戻るべきかという点に関しては小松の目は絶妙です。そうした面もあり、押し込まれた際になかなか押し返すことが難しい状況となってしまいました。

前線からの嵌まりきらないプレス、自陣での苦しいディフェンス、愛媛に嵌められる自陣からのビルドアップという悪循環に陥ってしまい、愛媛に流れを渡す前半の戦いとなりました。その要因の1つに、先ほど記した通り、最前線の選手の組み合わせの変化を個人的には挙げたいと思いました。もう1つ挙げるとすると、小暮のところで優位性を取られていた部分でしょうか。新保にとってはなかなか厳しい試合になったかと思います。


押し込まれる時間で奪われた先制点と交代策

それでも0-0で折り返すことに成功した後半、何とか光明を見出したかったのですが、状況は変わりませんでした。特に、自陣での守備の際の2トップの助けが、前半よりも減ったように見受けられ、押し込まれる展開が続きました。

49分の山瀬のシュートまでの一連の流れ、その後50分台の波状攻撃、極め付けは51分の前田の上がりに対する反応と、8人での守備となっていると言っても良い展開でした。愛媛は前節の長崎のように明確に狙っていたようには見受けられませんでしたが、5-3の2ラインで守るのは、やはり厳しかったと思います。

そして失点シーンですが、これも52分からの流れが悪く、攻守に繋がりがなかったためにピンチになったシーンだったと思います。浮田から高井へのパスがずれて敵陣深い位置で茂木が回収、そこに浮田がプレスをかけるものの後ろはついてきていません。これは、そもそも52分からの守備がうまくいっておらず、ボールを奪った時の状態が良くなかったからだと感じました。

こうなってしまうと、敵陣でも4-4で守るしかなくなり、前田からライン間で待つ近藤に簡単にパスを通されてしまいます。そして前野に先手をとって走られ、フリーでクロス、こぼれ球に近藤という形でした。

後半入りからの流れを考えると、いつやられてもおかしくなかったためある意味当然のゴールだったかと思います。


失点後、山口は前半にも何回かあった近藤のプレスの背中を取るプレーで、チャンスを作りコーナーキックを獲得します。左サイドが澤井に変わっていたことで、ワンタッチで中へ送るパスを使うことができた点が大きかったです。

このコーナーキックの流れで小松が投入されました。ここから試合の流れが変わっていったように見えました。直後、58分のビルドアップはうまくいきませんでしたが、59分に早速小松投入の効果が感じられるプレーが続きました。

まずは戻ってボールを奪うプレーです。神垣が高井へボールを送ってうまくいかなかった後の切り替えに注目してください。小松は前田をフリーにさせないよう戻るアクションを取りつつ、ボールを受けた忽那のコントロールが少し長くなったところで足を出し、ボールを引っ掛けています。これができるのが小松です。

このプレーでは小松が引っ掛けた後にボールを奪い切ることができず、愛媛ボールのフリーキックとなってしまいますが、この後のプレスも絶品でした。

まず、下がって中盤のラインと距離が広がらないようにポジションを取っています。そして、前田に対して徐々に距離を詰め、前田がボールを下げたタイミングでスイッチを入れます。池田にプレスに行った後、外側の前野へのパスで逃げられてしまいますが、ここで小松のアクションは止まりません。前野がボールを受けた瞬間に前田へのパスコースを防ぐアクションを起こし、ボールを下げさせます。

これで全体の体勢を整え、愛媛が右サイドへ展開しようとしたところで、高井からプレスを再開、そのままの連動でボールを奪いました。

やはり大きいのは、小松の止まらないアクションと、細かなポジショニングだと思います。これによって、チームに基準を与えボールを奪う局面を作ることができるようになりました。

この2つの連続したプレーで、チームは生き返ったように感じました。もちろん、その直後に茂木に持ち運びを許したりもしましたが。

直後、愛媛が小暮に変えて吉田を投入し、近藤を1列下げることになりました。すると、今度は愛媛の2トップでの追い込みの圧力が少しずつ減っていくようになりました。62分の川井が石川のパスで抜け出し、池上のシュートとなったシーンも、まず初めに、渡部のところで大きな余裕が生まれています。近藤が最前線にいる時と比べてしまうと、プレーの連続性が少し足りないので、1つプレッシャーを外すとフリーの状態が作れるようになります。

直後の63分も渡部が余裕を持って持ち運び、縦パスを差し込んでいます。このプレーで獲得したFKから同点ゴールが生まれました。

愛媛の先制点から山口の同点ゴールまでの時間で行われたそれぞれの交代策で、トータル得をしたのは山口の方だったと思います。早い時間に追いつくこともできましたし、逆転へ向けての流れを作ることはできたかと思いましたが、そこで奪われた2点目が痛かったです。

いい流れで攻撃を続ける中で、不用意な縦パスを引っ掛けられカウンターを食らってしまいました。前線に多くの選手がポジションを取っており、縦パスを引っ掛けられただけで一気に山口の選手は置いていかれることになってしまいました。

その後、システムを変更し、攻勢を強めますが同点までが精一杯でした。先制点を奪われるまでの展開と2失点目の大きさを考えれば、同点に追いつけたことを良しとしなければならない試合だったと思います。


攻守のつながりとワンプレーの怖さ、そして…

守備は前から攻撃は後ろから」というサッカーの原理とワンプレーの怖さを改めて感じた試合でした。

そして山口にとっての小松の存在の大きさも感じる試合でした。今年の試合で言うと、金沢戦でも感じましたが、やはり彼のプレーはチームを全体を良い方向へ進めていくために必要不可欠です。だからこそ、チームを勝たせるゴールを奪って欲しいという気持ちが強まりました。

やはりFWですから得点をどれだけ多く奪うことができるかが重要になります。この試合で言えば、梅木のゴールがなければ勝点1を取ることはできていませんでした。非常に仕事量が多く、目立たないところで重要な仕事をしているのですが、やっぱりゴールが必要です。チャンスシーンに顔を出すことはできているのですから、不可能なことではないと思います。

彼はチームにとって欠かすことのできない存在です。だからこそ、チーム勝たせるゴールを挙げ、迷いなく起用される存在になって欲しいです。

最後は特定の選手へのエールのような形になってしまいましたが、たまにはこんな時もあっていいのですよね、本当に期待しています。がんばれ!!



*文中敬称略

*この試合のハイライトはこちら


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