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返り討ちにあった真っ向勝負 〜J2リーグ第27節 柏レイソル vs レノファ山口FC 振り返り〜

2019年Jリーグ第27節 柏レイソルvsレノファ山口FCの試合は,4-1で柏レイソルの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

この試合のプレビューはこちらです。

前回の試合の振り返りはこちらです。


真っ向勝負を挑んだ山口の狙い

首位を走る柏レイソルに対して,山口は真っ向勝負を挑んでいきました。霜田監督のコメントからもそれは読み取ることができますが,ピッチ上のプレーからもそれは伺うことができます。ですから,まずこの試合の山口の狙いというものを考え,どのように真っ向勝負を挑んでいったのかを見ていきたいと思います。

山口は,3-5-2のシステムでこの試合に臨みました。これまで3バックに対しては1トップのシステムを採用することがほとんどだったのですが,この試合は工藤と宮代の2トップを採用しました。

まず,このシステムが柏に対して真っ向勝負を仕掛ける意思表示になっています。単純に,1トップより2トップの方が前線の人数が多いため,相手のディフェンスラインの選手に対してプレスをかけやすいということです。

さらに,山口の中盤の選手の守り方からも真っ向勝負の意識が見られました。山口の中盤はアンカーに佐藤,右に三幸,左に山下という並びで構成されていました。その中でも,アンカーの佐藤が前に出てくることはほとんどありませんでした。ですが,佐藤には山口のディフェンスラインの前で相手の攻撃の選手を捕まえる役割があるためそれは当然です。一方で三幸と山下は,相手のボランチの選手を捕まえるために積極的に前に出て行きました。1度ボランチの選手を捕まえると簡単にマークを離さず,マンツーマン気味について行くのです。これが,真っ向勝負を体現する中盤の選手の守り方だったと思います。

(*三幸と山下は三原とヒシャルジソンにプレスをかけられるポジショニングを取る)

なぜこの守り方が真っ向勝負を体現しているかというと,当然三幸と山下が前に出て行くからという面もあるのですが,それよりも1度捕まえると後ろに戻ってこない面が大きいと考えます。三幸と山下が戻ってこないことによって,佐藤の両脇に大きなスペースができることになります。ただ,山口はこれを許容していたと思います。ですから,そのスペースで受けようとする選手には,3バックのサイドの菊池やドストンが前に出て対応する守り方を選択していました。

つまり,この試合の山口の守り方は,2トップで前からプレスをかけ,中盤の選手もそれについていき,3バックのサイドの選手も前に出て対応するというものだったと思います。これは,柏の強力なFW陣に対して山口のDFは局面を1vs1で守ることを意味します。柏に真っ向勝負を挑むためにあえてこのような挑戦的な守り方をしたのではないかと思っています。

(*佐藤の周辺にスペース)

*そのスペースは菊池やドストンが前に出てきて防ぐ
→菊池やドストンは1vs1での対応となる。


柏の攻撃のキーワード「アンカーの脇」

柏は山口の守り方に対して序盤も序盤はプレスを嵌められる場面がありました。50秒のゴールキックや4分40秒の場面です。しかし,柏は次第に山口が許容している佐藤の脇のスペースを使い始めます。柏はこのスペースを使うために序盤に種を蒔いていました。それは,山口ディフェンスラインの裏へのロングボールです。佐藤の脇のスペースを使うためには,山口の菊池やドストンに前に出てこられてはいけません。後ろを気にさせて前へ出ることを躊躇させる必要があります。そのために裏へのパスは効果的でした。柏が立ち上がりに裏へのロングボールを使っていたことは後に効いていたと思います。

そして,15分前後から佐藤の脇を謳歌するようになります。山口にとって厄介だったのがやはり江坂でした。プレビューでも江坂については言及していましたが,彼はこの佐藤の脇のスペースを使うのが非常にうまく,山口はなかなか捕まえることができませんでした。14分30秒のサヴィオのミドルシュートのシーン47分の高木とクリスティアーノが走り合ったシーン49分27秒あたりのサヴィオのパスがクリスティアーノに当たってしまいミスになったシーンは,江坂が佐藤の脇で受けたところが起点になっています。

さらに,江坂だけではなく前線の強力な外国人選手が入れ替わり立ち替わりこのスペースに入ってくることも,山口が難しい対応を強いられた要因です。24分のクリスティアーノのロングシュートの場面も佐藤の脇で受けてから山下の外側のスペースでフリーになってのシュートでした。

このように,山口の狙いを受け止めて柏の方も対応を見せていたと思います。


ただ単に札束で殴ったわけではない柏のゴール

柏の2点目,3点目は先ほどの狙いの中で生まれたものだったと思います。

2点目は柏のスローインで山下と高木の裏,佐藤の脇でクリスティアーノが受け,前に出てきて菊池が潰そうとしたところをクリスティアーノが華麗にかわしたプレーがきっかけとなりました。この得点シーンは柏の外国人の個人能力にしてやられたようにしか見えないのですが,実はこの前に似たようなスローインからの場面があったのです。つまり,柏は狙いを持って2点目の場面を作ったのだと思っています。

その似たような場面というのが,49分の川口のスローインをオルンガが受け江坂に展開した場面です。山口の選手の距離感など異なる点もあるのですが,共通している点が山下の裏,佐藤の脇のスペースで受けることが起点になっていることです。このスペースでスローインを受けてチャンスになるという認識が柏にはあったのだろうと思っています。後ろに戻らない山下の裏で受け,相手を寄せて広いスペースに展開する流れが,オルンガとクリスティアーノという起点となった選手は異なれど,共通しているように見えました

3点目は柏の完璧な崩しでした。5-3-2のシステムではプレスがかけづらい中盤3枚の外側のスペースを使いながら右に左にボールを動かし,最後はアンカーの三幸を脇を使い,大外に展開しクロスでゴールという形でした。

まずこのシーンで柏の良かったことは,SBを使って右に左にボールを動かす中で山口の2トップの距離を広げたことです。これによって,68分丁度にヒシャルジソンが山口の2トップの間でボールを受けることができました。そして,ヒシャルジソンがこのスペースでボールを受け,宮代を引き寄せたことで右サイドが空き,68分10秒に三幸の脇でサヴィオがボールを受けることに成功しました。

次に良かったことが,このようにサヴィオが三幸の脇でボールを受けられたことです。結果的には,サヴィオがこの局面でボールを奪いに来た三幸を出し抜いたことがターニングポイントになりました。ここのデュエルでサヴィオが三幸に勝ったことで逆サイドに広大なスペースができ江坂がフリーでクロスを上げる時間ができました。

こう見ていくと,柏の狙い通りに奪った2点目3点目だったと言えるのではないでしょうか。ただ単に強力な攻撃陣の個人の質の高さで奪ったゴールではないことが読み取れるかと思います。


山口の狙いが体現されたゴールシーン

山口が柏に対して真っ向勝負を挑んだのは「やれる自信」があったからだったと思います。実際にやられっぱなしというわけではありませんでした。山口の得点シーンは山口がこの試合で狙っていたことの全てが出たような素晴らしいゴールでした。

まず,この得点シーンは先ほどから書いている守備の狙いが体現されたシーンでした。2トップが柏のCBにプレスをかける,そして中盤の脇でボールを受けようとするクリスティアーノを菊池が前に出ていくことで対応し,ボールを奪い切ることができました。

次に攻撃の狙いです,これも見事に体現されました。1つ目は柏のハーフスペースにポジションを取っている山下にボールが入ったことです。この試合の山下は終始,柏のSBとCB,CHとSHの四角形の間のスペースでボールを受けようとしていました。しかし,ここにいることでチャンスになりかけた9分のようなシーンはあったものの,山下が受けてからの展開でチャンスを作る回数は多くありませんでした。それが,得点シーンは山下が三幸からパスを受け前を向けたことで吉濱につなぎ,スピードアップをすることができました。

2つ目はプレビューで書いた,柏の4バックに対して山口がWBを含めた5枚で数的優位を作って攻撃する形が出たことです。まず,工藤が柏の左SBの宮本を引っ張っていることが大きいのですが,最終的にはWBの高木のクロスに大外からWBの石田がヘディングで合わせゴールを奪いました。

このように,守備の狙い・攻撃の狙いが見事に体現された素晴らしいゴールでした。何度でも観れるゴールです。


1-4の差を埋めるために

山口から見ればこの試合は1-4の大敗です。もちろん,3分や29分などの良い攻撃もありましたし,90分の楠本や菊池の手塚に対するディフェンスなど良い守備もありました。しかし,現状の柏からは1点しか取れないし,4点取られてしまうという力の差があることは認めなければなりません。改めて,対抗できる部分はあるもののこれだけの差があると認識できたことがこの試合の収穫だと思います。

では,この差を埋めていくためにどうするのか。

まずは,1vs1のデュエルで負けないといった個人の質を高めること,これは不可欠な要素です。攻撃陣で言えば3分の宮代のシュートを枠に入れることだったり,終盤のクロスをしっかりと味方に届けることであったりという質が求められるでしょう。守備の面でも2点目のシーンで「菊池がクリスティアーノを潰していれば」であったり,3点目のシーンでも「三幸がサヴィオからボールを奪いきれていれば」という個人の質で防げる可能性も大いにありました。

それから,戻るべき時は戻ってスペースを埋め,埋めたところから前に出て行くというプレーも必要になってくると思います。この試合は,中盤の三幸と山下が押し込まれないようになるべく高い位置にとどまることを意識していたように見えました。もちろんこの狙いも良いと思いますが,何でもかんでも前にとどまることも難しいのではないかと思います。例えば,アンカーの佐藤がサイドのスペースまで出て行ってボールを奪おうとした時です。この時に佐藤が元いたスペースに中盤の片方の選手が戻って埋めることは必要だと思います。

また,後ろに戻るから前にプレスをかけられないということはありません。埋めるべきスペースを埋めてから前に出て行くことはできます。この試合でも中盤の選手ではありませんが,工藤はこの動きを繰り返していました。31分から32分にかけてのシーンや38分30秒あたりのシーンなど,相手のCHの選手へのパスコースを切ってから前へ出て行こうとする動きはさすがでした。

このように,相手の遅攻の時に埋めるべきスペースをまず埋めるという動きがもっと出てくれば,前からのプレスがさらに効果的になると思います。相手の速攻の時に一目散に戻ることはどの選手もできているので,遅攻の時の戻りが差を埋めていくには大切だと思います。


自動昇格を争う相手との関東アウェイ3戦(大宮,横浜,柏)は見事な返り討ちにあう結果となりました。この差を受け入れてどのように成長していくのかを見守っていきたいと思います。自動昇格を争う相手との対戦は,あと10月の京都戦を残すのみになっています。そこまでの2ヶ月の間にどのような積み上げを見せ,京都との真っ向勝負でどこまでできるのかを楽しみにしたいと思います。


*文中敬称略




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