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お父さ〜ん、こっち、こっち!!


5年ほど前のはなしです。

わが家の近くに、人気のパン屋さんがありまして、当時は良く通っておりました。
土日ともなれば、駐車場もいっぱいで、かなりの混雑ぶりです。

店内には、小さなテーブルが5〜6のイートインスペースがあり、セルフコーヒー無料ということもあって、常に満席状態。

いつもなら私が席を確保して、嫁さんがパン選び & 会計なのですが、その日は何故か「お父さん、好きなパン選んできやぁ〜 (名古屋弁) 」となり、私がトレーを持ってパンをチョイス。

ふと見ると、嫁さんは隣りのテーブルの年配ご夫婦と、めちゃめちゃ話がはずんでます。
ウチの嫁さん、まんまる体型 (しぃぃ〜) だからなのか、よく人に話しかけられるんですよ。

で、私が会計済ませたのに気づいて、でっかい声で・・・。

「お父さ〜ん、こっち、こっち!!」


そんなに広い店でもないんだから、見れば分かるつっ〜の!!

ああいう場で、大きな声出すヤツは、空気読めない or 人の目が気にならないタイプ。 笑

そして、そんな時の周りの反応といえば・・・。

まずは、声の出どころである嫁さんを見る、その後すぐに声をかけられた方の私を見る。
なんなら、私が見られている時間の方が長いのだ。

もぅ〜恥ずかしいからやめてくれ〜!! って感じで嫁さんの方に歩いて行くと・・・。

いきなり、隣りのテーブルの奥様が、さらにデカい声で、

「えぇ〜ウソ〜、おとうさんなの?? わか〜い!!」


店中に響き渡るご婦人の声!!
これには、他のお客さんも反応し、確認するかのように皆さん私の顔を見る。 恥
そして、さぼてん主婦さん風に言うならば、何人かの肩が小刻みに震えている。


「お父さん」を「夫・ダンナ」ではなく、リアルお父さん「実父 or 義父」と勘違いしているのは明らかだからだ。
そりゃぁ、若いに決まっとる。

言うても、嫁さんとは同じ歳、正確には向こうが半年お姉さんなのに・・・。 涙


このご夫婦には、きっと子供がいないんだろうなぁ。
さて何て言えば、角が立たず、恥をかかせずに訂正できるか・・・。
コンマ数秒で、ポンコツコンピューターがフル回転する。


と、ご婦人の後ろでダンナさんが
「お父さんって、ご主人のことだろ」
って呟いてる。
お〜いダンナさ〜ん、もっと声を張って!!
全く奥様に聞こえてないから・・・。 笑


間髪入れず、第2波が来た。

「お父様って、ウチの主人と同じくらいかしら? 昭和25年寅年!!」


ちょっ、マジで何言ってるんですか・・・。
そもそも、ウチの嫁さんが何才に見えてるのか??

もう、皆さんこっち見てるし・・・,
肩を震わせてる人、さらに増えてるし・・・。

ここで嫁さんが口を開いた。

「ははは、ピンポ〜ン、寅年!! だけど、ひと回り下ですよ」
「主人、主人!! ダンナ!!」
「こんな顔してますけど、同じ歳なんですよ〜」


それは、嫁さんなりのフォローだったのだと思うが、いかんせん声がデカい。
他のお客さん全員の視線を感じる。


そして奥様は、ビックリ顔で私と嫁さんを見てる。
とうとう肩の震えでは収まらず、あちこちからクスクスと笑い声が・・・。


やっと気づいたであろう奥様は顔が真っ赤になって、謝るでもなく笑うでもなく、黙って下を向いてひたすらパンを食べだした。
ホントに間違えてたんだなぁ・・・。 汗

あぁ〜なんか、ささいな単独事故で済んだのに、複雑な多重衝突になっとる!!。


隣りのテーブルの方と一期一会の出会い、お喋り、楽しいランチかと思ったが・・・。
ううっ、空気が重い。

何とかこの空気を打破したい。
精一杯にこやかに、あちらのダンナさんへ世間話を振ってみる。
向こうも同じ感情だったのだろう、すぐ話にのってきた。

寅年の話 (笑)、知多半島の話、新美南吉の話・・・。
それなりに会話は出来たんだけど、なんかお互いに浮ついているというか、たどたどしかった。 笑
まるで、急ごしらえの漫才コンビのように、取り繕った言葉の往復。

やがて奥様がパンを食べ終わり、優しそうなダンナさんは、
「じゃあ、行こうか」と、声をかける。

目を合わすコトなく、ペコリと頭を下げた彼女は足早に店から出て行った。
よほど恥ずかしかったんだろう。
でも勘違いして、真っ赤になってるオバアチャンちょっと可愛いなぁ〜。


そしてダンナさんは、おもむろに立ち上がり

「大変、失礼しました、謝ります」

と、深々と頭を下げてくださった。


咄嗟に私も立ち上がり、

「いえいえ、そんな事お気になさらず」

「奥様にも、気にしてないからとお伝え下さい」

そう言って、こちらも頭を下げる。


大声のおばさん2人の後は、おじさん2人が頭を下げ合うという、シュールな光景。

パン屋さんでの、ほんのささいな出来事。
ホントに気にもしていないし、平凡な日常にこんなスパイス嫌いじゃない。
こうして、話のネタにもなるし・・・。 笑


ただ少し厄介なのは、嫁さんと喧嘩した時に

「何言ってんの、わたしの父親に間違えられたくせに!!」

って、台詞がひとつ増えたコトだ。



クレージーケンバンド

Dad's Lullaby (パパの子守歌)



では、では、また次回。 ありがとうございました!!