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泥になったり、ハチミツになったり。

ロンドンは、先週の金曜日からロックダウンになりました。
僕はまだ居なかったので分かりませんが、3月の時ほどは厳しくはないそうです。とりあえず『屋内での社交的な集まり』が完全に禁止ってことみたいです。でも、屋外で6人以内で集まる分には大丈夫らしい。自然の力、過信してない?と思う。
僕が通っている大学では、来週から対面での授業が始まる予定だったんですけども、今回のロックダウンの影響を受けて、今月いっぱいはキャンセルになりまして、もうしばらくオンライン授業のままです。この1ヶ月の間に、おい冗談だろ?ってペースで感染者数が上がり続けて、今週は毎日2万人近く出てるんで、来月からも厳しいと思います。
このままオンライン授業が3年間ずっと続くってなったら嫌ですけど、しばらくは仕方ないかなって気持ちです。あと平日中は、授業 → 昼ご飯食べて、さっきの復習 → 晩ご飯食べて、明日の予習 → 風呂入って寝るって生活なんで、外に出られる状況でも時間作れなさそうですし、ロンドンで生活してるってだけで楽しいんで別に良いです。
授業は、週4です。来期から週3。授業時間は科目によって違うんですけど、2時間〜4時間って感じで、1日1科目だけです。だいたい、昼過ぎに終わります。最初は、1日1科目で、週休3、4日って少ないなって思ってたんですけど、ホントもう勘弁してくださいって量の課題図書があって、それ読んでるだけで一生かかってるんで、今はピッタリ時間が足りてないです。

授業は、ほぼディスカッションです。ディスカッションっていうか、教授から「これ、どう思う?」って質問が、ここはバッティングセンターですか?ってペースで出されてきて、それに対して意見を言うと、教授がその意見に対する指摘とか補足とか、教授の意見を言ってくれるって感じです。だから、予習しておかないと、そもそも何の話かすらも分からない。しかも、課題図書のここが印象的でした程度の感想しか言えないと、「それで、君はどう考えてるんだい?君の意見を聞かせてくれよ。」って追撃されて死ぬか、「なるほどね。」って流されて死にます。1クラス15人くらいです。なんだかんだ出席率は60%くらい。

そんな生活の中、最近は泥になったり、ハチミツになったりしてます。

僕が行ってるのは演劇学科なんで、ディスカッションばっかやってるわけじゃなくて、演技の授業があります。演出の授業もあります。そんで僕が泥になったり、ハチミツになったりしてるのは、演技の授業です。
あの、うさん臭いアレです。「さあ、心、探究しよ?」みたいな、「ある!?そこにリアルな感情、ある?!」です。
僕は、日本で10年近く演劇をしてきて、こういう鼻クソみたいな、ハッキリ言って新興宗教じみたのには一切手を付けず、そして、これからも指一本たりとも触れずに暮らしていこうと固く誓って歩んできました。しかし、今、僕は30歳を目前にして、この後に及んで大学生になり、しかもロンドンに留学をし、「今までの人生で、逃げてきた事や避けてきた事と向き合おう。ハッシュタグだって付けるし、初対面の人ばっかり居るオンライン飲み会にも出席しよう!」ってそんな覚悟ですから、なれと言われれば泥にもなりますし、やれと言われればハチミツにだってなります。

まず、普通に歩きます。歩いていると講師が、「さ、足の指の先まで全神経を集中させて〜。集中が行き渡ったら、今度は自分の身体に触れている空気に集中しましょ〜う。」と、催眠術みたいなセリフを言ってきます。これ、オンラインで、家の廊下で一人でやってますから、なんか、まあ奇妙なわけです。講師も、「考えないよ〜。」と言ってるんで、あ、そうだよね、みんな考えるよね、だってこれ完全に変だもんね、という気持ちになってきます。

「さ、そうすっとね〜、今度は床から、どんどん水が滲み出てきて〜、だんだん足が重くなってくるよ〜。さ〜、イメージして〜。」

よし、始まった。こっからだぞ、小林。と、自らに言い聞かせながら、床から水が滲みてくるイメージをしていきます。「水くるよ〜。はい、足首ね〜、膝ね〜、腰ね〜、胸ね〜、顎ね〜。」と容赦なく、水が滲みてきます。え、これ、そろそろ息できへんやん。と思ったくらいで「息は出来るからね〜。」と言われ、この辺りで一つの疑念が僕の心をかすめます。

まさか講師、俺の感情、先読みしてる?

「は〜い。心ひらいて〜。」

・・・・・・はっは〜ん。いや先読みというか、そうだよね。そもそもこれ、よく知らんけど有名なメソッドっぽいもんね。しかも、毎年やってるんだから、こういう言葉を掛けたらやりやすいとか決まってるんだろうね。・・・や、そうじゃないぞ、小林。・・・さ、心ひらいて〜。と、理性と本能がせめぎ合いをしていると、

「さっきまで綺麗だった水が、ドンドン泥水になっていくよ〜。ドンドン、ドロドロに重たくなって、君はその中で浮いているのか、留まっているのか、もう分からない〜。そんで〜、気付いたら君は、泥になってるよ〜。もはや泥だよ〜。」

気付いたら、私が泥になっている、だと?
考えたらダメだ考えたらダm。え、どういうこt・・・?気付いtたらd。いy、泥になるわk、と思っていると、間髪を入れずに「さ、気持ちつなげて〜。泥だね〜。ほ〜ら、泥だ。」と追い討ちを掛けてきます。
いや、小林。向き合うんだろ?ハッシュタグだって付けるし、初対面の人が居るオンライン飲み会にも出席するんだろ?だったら泥にだってなれるはずだ!とグッと集中して、泥だよ〜、俺は泥だよ〜と、狭い廊下で一人、泥になりたい僕は心を無にしてフワフワと漂います。

「さ!一旦、終わりましょうか。はい、リラックスして〜。」

という講師の声で、僕たちは、泥から人間に戻ります。ちなみに、30分くらい続きました。そして、それぞれ、感想やら何やらを言い合います。各々が一頻り、好き勝手な事を言い合った後に、講師が一言。

「よし、じゃあ、もう一回やりましょうか!」

「次は、泥じゃなくて、ハチミツになるよ。」とのこと。いや、むしろ、みんなで一緒にハチミツになろ?みたいな、僕は不思議と穏やかな気持ちで、第2ラウンドが始まりました。
それでですね、そうですね、流れ的にはさっきとほぼ全く同じだったんですけど、2回目はホントに僕、素直にハチミツになれたんですよね。もうね、プーさんもビックリ。いや、わかります。自己満足なんですよ、こんなもんは。
でもですね、あ、俺、今、ハチミツかも・・・・・・。って思う瞬間があったんですよ。まあもう、ちょっとしたトランス状態みたいなモンですから、そりゃハチミツにもなります。

そんでも僕は、役者としては、片手に収まる程度の出演歴しかないですし、その中の半分は自分の団体に自分で出ただけなんで、演技の経験はメチャゴリに浅いんで、この実感が面白かったんです。なんつーか、「演技の基礎中の基礎」に触れさせて貰った感じがありました。いや、たかだか1日で、役者の気持ちが分かっただなんて傲慢は言いませんけど、あ、こういう感じの事を役者の皆さんは感じてらっしゃったんですか?あ〜、そうですか、そうですかって思ったんです。

そんなこんなです。

では最後に、最近とった写真載せときます。ツイッターにもインスタにもチラホラ載せてるんで良かったら気にしてください。さよなら!

家の近くのスーパーに向かう階段。

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家の近くにあった外飲みの形跡。

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地下鉄の入り口は、スペースマウンテン味ある。

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 OPEN SESAME! ! 開いた

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歩道に作られたテラス席。

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