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ロンドン大学 演劇学部 1年生2学期

ヨーロッパのコロナウィルス事情は、相変わらずです。イギリスは良くなったと言っても、今までが酷すぎただけで、毎日6000人前後の感染者数。覚悟はしていたものの、まさか全部の授業がオンラインになるとまでは予想できませんでした。慌てた所で仕方ないんで、とりあえず黙って家でネットフリックス観ときます。

トップの写真は、少しでもイギリス感を出そうと必死になって、アルバムの奥底から引っ張り出してきた家の近くの道の写真です。特に思い入れはありません。

今学期の必修授業

今学期の必修授業は、演技の授業「空間の使い方」と、座学の「現代演劇論」と、「グループワーク」の3つでした。

演技「空間の使い方」

座学6、実技4くらい。タデウシュ・カントールというポーランドの演出家が何度か出てきた。今まで知らなかった人の事を知れるのが嬉しい。

タデウシュ・カントール(1915-1990)
ポーランドの演出家、画家、舞台芸術家、俳優。アヴァンギャルドな世界観。日本でいう寺山修司みたいな人。現代では主流になった「個人的な感情を表現する演劇」の確立に貢献した。舞台写真が怖い。

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第1週目『空間を読み解く』
目を閉じて、足や頬など、手以外の部分で家中を触る。次に、目を開けて、物の色、質感、位置などをしっかり見る。音と匂いに集中する。など、五感を使って空間を読み解く。イギリスの人気劇団パンチドランク(Punchdrunk)の公演映像が教材。一般公開できないので、オシャレすぎる予告映像で勘弁してください。

第2週目『空間の歴史について』
ギリシャにあるアクロポリス博物館をテーマに、「空間の歴史」について考える。

アクロポリス博物館
遺跡発掘現場の真上に建てられた博物館。その発掘現場から出土した文化財を展示している。発掘作業は今も続いていて、エントランスからは発掘の様子が見られる。 1階から出土した順に展示されているので、見学者は、上の階に上がるにつれて、地中深くにあった出土品を見ることになる。
ただし、この博物館を建設する為に、多くの住民が立退を強いられた。つまり、この建物は、『国の歴史』と『個人の歴史』の上にある。

余談ですが、この授業を担当していた教授の実家が、博物館建設の為に立退をしたらしく、そのプライベートな話も相まって印象的でした。あと、劇場と映画館が併設されているらしく、それも素敵です。

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第3週目『ウォーキングパフォーマンス
「誰がどこを歩いているか。」人が歩くだけで生まれるドラマについて考えることで、無駄のないパフォーマンスを追求する。

「Nando Messias: The Sissy’s Progress」

ナンド・メシアス(イギリス)の同性愛嫌悪に抗議するパフォーマンス。

「Walking Without Walls(2018)」

パレスチナ在住の画家 メイ・ムラドと、スコットランド在住で同じく画家のレイチェル・アシュトンによる映像作品。メイ・ムラドが暮らすパレスチナ自治区は壁に囲まれていて、危篤の病人であっても外部との行き来が厳しく制限されている。

第4週目『内部(心)の空間』
心理カウンセリングみたいな雰囲気だった。日本の「暗黒舞踏」が取り上げられていた。ワークショップでは、自分が暮らしている家を、自分の家じゃないと仮定して、どんな人が住んでいるのか想像することで、自分の生活を客観的に観察する。

第5週目『空間と政治』
1984年にイギリス北部で起きた鉱山労働者による大規模な暴動を、2001年に再現したパフォーマンスから、土地が呼び起こす感情について考える。パフォーマンスには、当時の暴動の関係者が参加して、暴動の時系列や、警察の動きなど、可能な限り正確に再現した。

これが2001年の写真。

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こっちが1984年の写真。

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第6週目『リーディングウィーク』
今までの予習復習をする一週間。授業は無し。

第7週目『期末課題の中間発表』
ここからが後半戦。期末の課題は、この授業で触れた事をテーマにしていれば、何を作っても良い。映像なら2分以内、編集可。写真・絵なら10枚以内。この日は、課題の進み具合をクラスで発表。

第8週目『期末課題の個人面談』
課題について、教授と個人面談。

第9週目『期末課題の感想言い合い』
仮の作品を提出。それについて、みんなで感想を言い合う。ワークショップでは、事前に覚えてきたセリフを、自分の中で違和感が無くなるまで繰り返す。その後、何故その言い方で違和感が無くなったのか考える。

第10週目『期末課題の提出』
授業なし。
この日の授業開始時間が、課題の提出期限。

第11週目『総括 / 冬休みの課題について』
今学期のまとめ。冬休みの課題(2000文字の小論文)のポイントについて。

『グループ制作』

イプセンの「海の夫人」のワンシーンを8人グループで作る。グループで、舞台監督、照明、美術、音響、衣装に担当を分担する。本来なら、完成した作品を、学校に併設しているスタジオで上演するんですが、今年はオンラインなので、全てのプランを画像と文章にまとめた。授業の後にグループで集まってシーン作り。

『海の夫人』
ノルウェー北部の小さな町。灯台守の娘エリーダは、初老の医師ヴァンゲルと結婚し、娘たちと穏やかに暮らしていた。エリーダは、毎日海で泳いでばかりいるので、人々は彼女を「海の夫人」と呼ぶ。そんな中、エリーダの昔の恋人が現れる。自由へのあこがれを胸に秘めていたエリーダの心は、その男の登場によって揺さぶられる。

第1週目
担当を選ぶにあたって、それぞれの分野が何をするのか説明される。この日は、グループワーク全体の流れと、舞台監督の説明。

第2週目
音響と美術の説明。

第3週目
衣装と照明の説明。照明の説明の際「役者の肌の色が違う場合、何を基準に、どちらを優先するか」というテーマに触れる場面があって、海外っぽいと思った。

第4週目
それぞれの専門分野に分かれた後、初回の授業。僕は衣装選びのセンスが無いので衣装を選びました。「春の祭典」をテーマに、色んな演出家によって、各国で再演を繰り返されている演目の衣装について考える。海外のカンパニーは、古典であっても型が無いので、演出に文脈が出来づらい。

春の祭典
1913年、初演。イーゴリ・ストラヴィンスキー(ロシア)作曲。近代バレエの傑作とされる。複雑なリズムと不協和音に満ちた作品で、初演当時は、賛成派と反対派の観客が、上演中にお互いを罵り合い、殴り合いにもなったという。再演を繰り返されて、現在では、パリ・オペラ座の定番に。

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(上: ピナ・バウシュ版、下:モーリス・べシャール版。)

第5週目
衣装の汚し加工を体験。絵の具、お茶、コーヒーで、新品の布を染めたり、ヤスリをかけて使用感を出したり。座学では、布以外の素材(ビニール、紙など)を使う方法。衣装によって、作品に付加価値を与える方法について。

第6週目
リーディングウィーク。

第7週目
紙粘土を使って仮面を作る。座学は、仮面、メイク、カツラの話。どこまでを衣装として考えるか。歌舞伎の化粧とカツラについても触れられていた。

第8週目
グループワークの進行状況について、担当講師と一対一で面談。

第9週目
学科の全員で集まって、それぞれのグループの作品の方向性とか、各部門の進行状況を発表。

第10週目
授業なし。翌週が提出締切なので、グループで最後のシーン作り。

第11週目
今学期のまとめ。

『現代演劇論』

国際的な問題と、新しい演劇論について。

第1週目『イントロダクション』
授業の進め方について。教授が、「現代の話だから、我々よりも、君たちの方が良く分かっているはずだ。」とか言い始めて好きだった。

第2週目『政治と演劇』
政治家の演説を、パフォーマンスとして分析する。政治的な背景が分からないから難しかった。

第3週目『人気=価値?』
人気投票的に選ばれるスターと、その作品の価値について。甲本ヒロトの「売れてるものが良いものなら、世界一のラーメンはカップ麺だ。」って有名なアレを紹介したんですが、誰一人ピンと来てなかったし、よく考えりゃイギリスで手に入るカップ麺はどれも旨くねぇし、甲本ヒロトの事は誰も知らない。教材として、人気オーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」の映像が使われていた。難しそうなテーマも、教材がオシャレだから楽しい。

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第4週目『アイデンティティー』
自分のアイデンティティーをどう守るか。また、その問いに対して演劇ができる事は何か。ロンドンの大学にいて実感するのは、あらゆる差別を無くそうとする覚悟が、日本と比にならないという事。

第5週目『脱・植民地時代』
前時代的な人種差別が背景にある作品を、現代でどう扱うかについて。差別がテーマの作品を作る際のバランス感覚など。

第6週目
リーディングウィーク。

第7週目『検閲の自由』
検閲が無い国であっても、自分で自分の作品を検閲する事が常識のようになっている。ただ、自己検閲のお陰で、差別的な表現やヘイトクライムが、ある程度は抑えられる。ヨーロッパのアーティストも、自粛の圧力に苦しんでいる様子だった。

第8週目『子供と演劇』
演劇を通じて、大人と子供が一緒に学ぶ方法。その他、少年院や刑務所での更生プログラムなど応用演劇について。

第9週目『土地が持つ情報』
国や地域によって街並みが違うし、時代によっても違うし、夜と昼など時間帯によっても意味合いが違う。それから、性別(トイレ、更衣室...)年齢(カジノ、風俗...)職業(病院、学校...)などの制限にも注目。このようにして、街に詰まっている情報を整理する。日本だとあまり馴染みがない話題。陸路で外国に行ける文化圏らしい着眼点。

第10週目『ネオリベラリズム』
新自由主義とアクティビズムアートについて。聞いた事も見た事も無いことばかり。新鮮だけど難しい。エクスティンクション・リベリオンという団体の活動を取り上げる。環境問題の改善に対するアクティビズムパフォーマンスをしている。こわいけど、クセになる・・・。

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第11週目『グローバライゼーション』
ヒップホップやブレイクダンスの優劣が、ストリートギャングの抗争を非暴力的な形で解決する為に発展してきた歴史から、国際化する現代社会で、非暴力的に主張する手段としてのパフォーマンスについて考える。

あと3ヶ月で、1年目が終わります。

日本とヨーロッパを比較して考える毎日ですが、ヨーロッパの演劇が進んでいるというよりも、お客さんの許容範囲が広くて、それが、土壌の違いに直結しているようです。観客が見慣れているから、日本だと『イベント』として扱われそうな作品や、作り手の攻めた表現も、芸術として受け入れられる。演劇は、お客さんと一緒に作る物だから、お客さんと一緒に発展していかなきゃダメなんだと思います。

ロンドンは、夏に向けてロックダウンが段階的に解除される予定で、5月には美術館が開きます。観光客が一人もいない美術館を巡るのが楽しみです。

おしまい!最後までありがとうございました!

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