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10_忘れられない出会い

これまでの人生で忘れられないこと。かれこれ6年ほど前、バイト先での一人の彼との出会いが今の私につながっている。

大学1年の秋、和食居酒屋でホールスタッフのアルバイトを始めた。運転免許を取りに行く資金のためが一番の目的だったが、求人を見て、時給の良さとか、楽しそうとか学生らしい直感でそう深くは考えず決めた。大学生活にも慣れ始め、少し日常に物足りなさを感じていたこと、中高時代は部活に明け暮れていたので、何かを打ち込める自分の居場所が欲しいと感じていた。

職場は想像通り、体育会系で部活のような、バイト同士の団結感と社員さんの手厚いフォローでチームプレーで店を回す現場だった。親切で仕事に熱い社員さんの教育のおかげで少しずつ仕事を覚えた。友達が欲しいなと思いかけていたとき、先に春から働いていた同い年の男女4人のグループがあったが、歴は彼らの方が先輩だったことに遠慮し、その輪の中には入れなかった。

そのグループの中にいた一人の男の子。綺麗な顔立ちで優しそうな雰囲気、どこか影があり口数は少ない、私のタイプだった。せめてLINE交換、、なんて思っていたものの、積極的に聞くことができず、間もなく彼は専門学校を卒業するタイミングでバイトも辞めていった。一瞬のときめきだったなあと大学1年の恋にも及ばなかった想いは終わってしまった。

それから数年が経ち、間もなく大学4年になる頃。地道に続け、バイトでも後輩を教える立場になっていた。もうすぐ就活が始まる。バイトは社畜だったが、同僚は皆家族みたいな存在。やりがいもあって自分の社会人への訓練の場でいい居場所になっていた。そんなある日、仲の良い女の先輩が「〇〇(彼)帰ってくるらしい!」と言ってきた。

・・・・!!!あのときの彼が。まさかまた会えるなんて。就職した会社を辞め、再就職をするために短期でバイトとして戻ってくるという。

数年ぶりにバイト先に戻ってきた彼は、あの頃より少し大人びてて、社会に揉まれた感はあったが、社会人経験がない私からすると何倍も大人に見えた。1年生の頃は全然話したこともなく、「お疲れ様です」を交わすぐらいだったが、私のことは覚えてくれていた。それだけでも嬉しかった。そこから普段は全く自分からいかない私が全力を出してLINEを聞き出し、彼とやりとりをするようになった。LINEをしながらどちらかが止めてて、バイト先で顔を合わすドキドキ感がこれまでにない感覚だった。

好きなバイト先、同僚たち、彼の存在、あの頃の自分は好きに囲まれていた。純粋に毎日が楽しかった。朝起きたら彼からLINEが来ている、そんな日課が幸せだった。たわいもない同僚同士の世間話だったけど私のモチベーションの全てだった。デザイナーになりたくて、大学の課題も頑張れた。もし彼ともっと仲良くなったら、きっと就活も頑張れそう。未来は明るかった。

そして彼の短期バイトが終わるバレンタインが近づいた頃。パッケージから手作りで彼をイメージしたデザインとチョコを夜な夜な完成させた。勇気を振り絞って彼をご飯に誘ったところ、快くOKしてくれた。初めてバイト以外の場で2人で外で飲んだ。お酒も入り、普段見せない表情も見れてあっという間に時間が過ぎ、私から誘ったのに彼が多めにお会計を出してくれていた。その日の帰り、コートの中に隠していた手作りのパッケージのチョコをプレゼントした。そこで告白はできなかったけど、きっと察しの良い彼には伝わっていると思った。

それから数日後、チョコだけ渡して想いを伝えなかったのがどうも心残りだったため、夜彼に直接電話で告白することにした。こんなにも積極的になれたのは人生初。自分で自分が信じられないくらいだった。LINEを聞き、ご飯に誘い、チョコもあげて十分想いは伝わっていたと思う。

めちゃくちゃ緊張の末、「好きです」とシンプルに言えた。そのあとの彼からの返事の第一声は「ありがとう」だった。その瞬間涙が溢れた。

返事は「ごめん」だった。やんね、最初からそんなこと分かっていた。再就職のことでいっぱいでそれどころではないこと、今まで家族や友人に迷惑をかけてきてもうこれ以上失敗できない、と話してくれた。それは彼なりの優しさである裏に、私に気がなかったことも理解できた。それでも返事の第一声が「ありがとう」だった優しさに涙が止まらなかった。

彼のバイトの最終日。その日は私もシフトを入れていたはずが、運悪いことに休みになっていた。彼に最後バイバイを言えるかな、、シフト表を見に来ましたを装って店の事務所に顔を出し、彼の最後のお別れの挨拶に行った。その日のバイトメンバー皆で写真を撮り、そのあと奇跡的に休憩室で一瞬彼と2人きりになった。そのとき、「これ、こないだのお返し、ありがとう」とチョコのお返しをくれた。もしこの日私が来ていなかったら、貰えてなかったかもしれない。行って本当に良かった、彼の律儀さに感動した。

私もこれから就活頑張るから!〇〇(彼)も頑張って!

振られたことは悲しいけど、彼の優しさや紳士な対応に救われた。もう会えないけど、、まだ好きでいいかな、、きっぱり諦めることなんてできない。


彼がバイト先を辞め、会えなくなって数ヶ月。上手くいかない就活と多忙なバイトを続けながらの日々を送っていたが、彼を忘れることはなかった。そんなある日、彼と仲の良かったバイト先の男女のグループの女の子から連絡があり、久々に会うことになった。(その女の子は私が彼に告白したことは知らない。)話の流れで、共通の彼の話になった。私は彼の近況が気になっていたこともあり、もともと仲の良かった彼女づてに元気かどうか知れるチャンスだと思っていた。すると彼女の口から

「〇〇(彼)さ、もともとは、、」

衝撃的だった。その瞬間頭が真っ白になった。

性同一性障害。彼は元女性だということをその子から聞いてしまった。自分が好きで告白した人は元女性?何が起こっているのか、信じられなかった。

家に帰り、ふと我に返ると無意識に涙が止まらなくなった。そこから数日食べ物が喉を通らなかった。何が悲しいって、彼が女性だった事実ではなく、これまで苦労をしたであろう過去に勝手に同情してしまった涙だった。ずっと今まで自認は女で生きてきた自分からすると、その同情が彼にとっては大きなお世話かもしれない。誰も悪くない、責めようのない感情をどこにぶつければいいのだろう。ただ、初めて会ったときから彼は男性だった。これまでの対応も本当に紳士的で、飾らないシンプルな優しさに私は救われた。

それからいてもたってもいられず、LGBTについて私なりに調べた。5年ほど前になるが、性に関する生きづらさを抱えた若者は年々増えていることを知り、社会の認知がどのように進んでいるのか、多様化している問題だと理解できた。神様はいじわるすぎる。

たまたま、私は彼の過去を知ってしまったが、事実はただ一つ。男性を好きになって振られた、以上。それだけである。偶然にもそういう巡り合わせだっただけなのだ。彼に出会い、恋をし、優しさに救われ、私もそこからいろんなことに思いやりを持てるようになった。これまで以上に相手を気遣うことができるようになった。あれから私は大学卒業までバイトを続け、卒業ギリギリにもらった内定先に就職。紆余曲折あって社会人として働いて6年経った。あの頃から私の中に根付いている優しさでつながった社会人としての縁を大切にし、これから先出会う誰かに受け継いでいきたいと思う。彼とはバイト時代以降会っていないが、今もどこかで元気に過ごしていることを願って。

私もいつかまた心の底から笑える日が来ますように、、


長々と書いてしまいました(;;)最後まで読んでいただきありがとうございました。


#適応障害 #HSP #アラサー独身 #LGBT #恋愛 #片思い

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