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じんのひろあき短編演劇戯曲集

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#じんのひろあき

じんのひろあき短編戯曲集 『失踪』

  明転すると役所の『すぐやる課』の部屋。
  デスクに座っている新。
  その前で直立不動の龍之介。
新「ねえ、柳沢君」
龍之介「はい」
新「そもそも…すぐやる課のモットーってのがあるでしょう」
龍之介「すぐやる課のモットー」
新「あるでしょう」
龍之介「あります」
新「なんなの? すぐやる課のモットーって?」
龍之介「すぐにやらなければならないことは、すぐにやります。市民相談室、すぐやる課です

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じんのひろあき短編戯曲集 『お天気お姉さん』

  明転すると、そこは町田海(22)ちゃんの部屋。
  カンちゃんと一緒にテレビを見ている。
  テレビにはお天気お姉さんをやっている海ちゃんが映っている(らしい)。
海ちゃんの声「今日は西日本から天気が崩れ始め、夜半には東海地方で豪雨が予想されます…」
カン「あ、これ見た」
海「これも見たの?」
カン「見た見た…この服見覚えがあるもん」
海「このスカート、すごくかわいいんだよ」
カン「(と、画面

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じんのひろあき短編戯曲集 『有吉慎太郎』

  明転するとそこは老人介護のセミナー会場。
  龍之介(36)とすみれ(48)が並べられたパイプ椅子に並んで座っている。
  マイクを使った講師の声が聞こえている。
  二人、それを聞きながらメモを取り、しきりに頷いたりしている。
講師の声「例えば、ご飯を炊こうとして炊飯器のスイッチのどこを押すのかわからなくなるのが、いわゆる物忘れというもので、ご飯を炊こうといて炊飯器ではなくガスレンジに入れて

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じんのひろあき短編戯曲集 『速読教室、夜間の部』

  明転すると、長机が二つ並んでいてパイプ椅子に座った男二人が猛烈な勢いでマンガの本のページをめくっている。
  猿渡快(さるわたりゆかし)と工藤慎一。
  二人あっという間に本を読み終えた。
  そして、同時に本を置た。
  バン!  
工藤「いいわ!」
潔「いいですね」
工藤「いやぁいいわ」
潔「いいよねぇ」
工藤「いいわ」
潔「本当、いい」
工藤「ん…いいですね」
潔「ねえ」
工藤「ねええ」

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じんのひろあき短編戯曲集 『驟雨奔雷』

  暗転中に大雨の音がフェードインしてく  る。
  風も吹いている。
  明転。
  温泉旅館の一室。
  浴衣姿の初美と龍之介がいる。
初美「すっげえ降ってきた」
龍之介「ああ、ねえ…これはね…来るね」
初美「来るって?」
  と、大音響の落雷。
初美「ぎゃあ!」
龍之介「雷…来るよ」
初美「早く言ってよ」
龍之介「わかるだろう、こんな雨降ってて、これは来るかなって言ったら、そりゃ雷だろ。なに

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じんのひろあき短編戯曲集 『It's a small world』

  公園のベンチ。
  若いママの未知が座っている。
  前に双子ちゃんの乗っているベビー
  カー。
  そのベビーカーを覗き込んでいる加寿子。
  彼女の傍らにもベビーカー。
  ゼロ歳児の真理奈ちゃんが乗っている。
  加寿子は双子のベビーカーを覗き込んでいる。
  明転。
加寿子「健ちゃーん、康ちゃーん…こんにちはー!」
未知「(健と康に)ほら、こんにちは…は?こんにちはぁって…言ってみ…

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じんのひろあき短編戯曲集 『どうにか・したい』

  明転。
  居酒屋。
  津村が生中を目の前にして、ぶつぶつ言っている。
津村「はあ……二十分だよ…マジかよ…ほんと来ねえな…え? なんでだ? なんで俺、一人で飲んでんだよ…ふう…落ちてるなあ、落ちてんなあ…落ちてる、落ちてる」
  と、やって来る吉野。
吉野「津村さん」
津村「おお!」
吉野「遅くなりました」
津村「遅いよ、遅い、遅い。…」
吉野「すいません、どうも」
津村「お疲れ…お疲れ」

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じんのひろあき短編戯曲集 『どっちにするの』

  拓弥の部屋。
  拓弥と咲美がだらだらといる。
咲美「暑い……暑い…暑いよお…クーラー…」
拓弥「ついてます」
咲美「涼しくなんないよ」
拓弥「壊れてるからです」
咲美「暑い…暑いよお」
拓弥「クーラーが壊れているからです」
咲美「暑いよお」
拓弥「暑いねえ」
咲美「溶けちゃう…」
拓弥「うん…溶けちゃうねえ」
咲美「なにか涼しいこと言って」
拓弥「涼しいこと?」
咲美「涼しいこと」
拓弥「氷

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じんのひろあき短編戯曲集 『まみりんの不倫』

  そこは工事現場。森山真美こと、まみりんが人目を忍んで入って来る。
「OK! 大丈夫、大丈夫…人いないよ…」
  と、また上手にハケて。
「はい…
 いいよ、いいよ…貰った…」
  と、言いながら、学校で使う机を持って入って来る。それを真ん中に置くと、後ろからついて来た詩子に。
「詩子ちゃん…
 詩子ちゃん…
 早智子は?
 (と、早智子遅れて来たよう)あ…来た、来た…早智子、こっち、こっち…

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じんのひろあき短編戯曲集 『休日の夜』

  フリーマーケットの会場。様々な人達が、いろいろな物を売っている所。
  早智子と詩子もここに店を出している。
  そこに早智子の姉、観奈子が来る。
  すごい人で会場はごった返している。
  観奈子はまるで、復員兵の中から夫を見つける母のように、早智子の店を見つける。
「あ~いたいた…
 ここかぁ…
 早智子の店は…
 (と、早智子の隣にいる詩子に向かって)こんにちは、詩子ちゃん…
(早智子に

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じんのひろあき短編戯曲集 『135』

  コンビニの控え室。
  だらっとパイプ椅子に貴理子がいる。
  やってくる拓弥。
  慌てて姿勢を正す貴理子。
  めんどくさそうに同じくパイプ椅子に座る。
拓弥「なに、話って…」
貴理子「えっと、えっとですね」
拓弥「辞めたいとかいうんじゃないだろうねえ」
貴理子「え?」
拓弥「バイト、辞めたいとかそういうんじゃないんだろうね」
貴理子「え…っと、当たりです」
拓弥「(うんざりする)おまえも

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じんのひろあき短編戯曲集 『百年の孤独』

  柳沢タツの家。
  喪服を来ているタツ。
  その側で、やはり喪服を着た未知がうろ うろしている。
未知「数珠は?」
タツ「もったわ、ほんなもん、持たんで行ってなにしにいくだ」
未知「ハンカチとかは」
タツ「あ、忘れたわ」
未知「香典の袋、はい、買ってきたから」
タツ「入れといて」
未知「入れといたから」
タツ「わしの名前、書いといて…」
未知「名前…名前か…名前ペンは?」
タツ「抽斗の中にあ

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じんのひろあき短編戯曲集 『合コンに行こう!』

  渋谷の街角。
  拓弥とカンが立っていて、道行く人を眺めている。
  雑踏の音がやや大きめに入る。
拓弥「さすがに金曜の夜は人の量が違うね」
カン「あ、あれがそうじゃないかな」
拓弥「え? どれどれ?」
カン「あのほら…」
  と、指さしたカンに。
拓弥「ダメだよカンちゃん、指さしちゃ」
カン「あ、あ、そうかな」
拓弥「で、どれ?」
カン「(目で追って)あ…ああ…違うみたい…あ、でも、よく見り

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じんのひろあき短編戯曲集 『別れの準備』

  喪服の拓弥。
  中学校の制服姿の朝子がベンチに並んで座っている。
  斎場のロビー。
  間。
朝子「拓ちゃんは、結婚はしないの?」
拓弥「ん……今はね」
朝子「いつかはするの?」
拓弥「うん…しなきゃあ…なんないかもしれないんだよね」
朝子「でも、もう同棲してるんだから、今更、結婚しなくてもいいってことはないの?」
拓弥「うん……うん…そういう意見もあるね。俺の中にはね」
朝子「咲美さんの

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