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ミュージカル「Try Again」 台本

劇団・燦グリア 第7回公演
ミュージカル「Try Again(トライアゲン)」
作・演出 湯川史樹

(Opening①オン。ゆっくり暗転。BGM・FO。店内BGM②オン。ゆっくり明転。晃がシャルトリューズトニックを作っている。かき混ぜてから一口すする。亜沙美がソーダを3本持って入ってくる)

〈一日目〉

〈シーン➊〉

亜沙美  お兄ちゃん、もう営業開始でしょっ!何飲んでるの?
晃  ん?(シャルトリューズのボトルを見せながら)シャルトリューズトニック。
亜沙美  ああ、明日香が好きだったやつね。(ソーダを冷蔵庫に入れる)
晃  うまい・・・あの歳でこの味を覚えるなんて生意気だよな。
亜沙美  確かにね。
晃  なぁ、亜沙美。
亜沙美  ん?
晃  あいつが死んでから何年経つ?
亜沙美  ・・・どうしたの急に?
晃  いや、ただどれぐらい経つかなぁと思って。
亜沙美  えっと、3年半ぐらいじゃない?(厨房に花を取りに行く)
晃  3年半か・・・。となると俺がこの軽井沢のペンションに来てからちょうど3年ってことだ。早いもんだな。
亜沙美  (花を持ってきて)・・・お兄ちゃん、大丈夫?
晃  何が?
亜沙美  んーん、何でもない。(トイレに花を持っていく)
晃  ・・・亜沙美、ごめんな。
亜沙美  (戻ってきて)何が?
晃  ほんとは辞めたくなかったんだろ?東京の花屋。
亜沙美  そんなことないよ。私、このペンションも、このバーでのお手伝いも好きだから。
晃  そっか・・・。
亜沙美  お兄ちゃんが明日香のことをきっかけに精神科医を辞めて何もかも投げ出したときは本気で心配したんだから。あのときはどうなることかと思った。
晃  迷惑かけてすまなかった。
亜沙美  んーん。お母さんを連れてこっちに落ち着いてくれることになってほっとしたの。私も勿論打ちひしがれてたけど、お兄ちゃんの方が明らかに深刻だったから。
晃  そうだったかな。
亜沙美  私は力になりたいと思ってここで働かせてもらうことにした。私の意思だから気にしないでね。
晃  (小さく頷いて)・・・夢中でバーテンダーの仕事を覚えなきゃいけなかったのがよかったんだろうな。やっとふつうの人間に戻れてきた気がするよ。哀しみや憎しみが消えることはないけど・・・。
亜沙美  ・・・明日香のこと、ふとしたときに思い出しちゃうよね。兄妹の会話とかも。
晃  ああ。俺にとっては娘みたいなものだったからなぁ。
亜沙美  お兄ちゃんとは十歳も離れてたんだもんね。
晃  (シャルトリューズトニックをもう一度口にして)生意気だったなぁ・・・。

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