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私の朝のお決まりセット

 ピピピピピ、と夢の中の私を現実に戻そうとして耳元でスマホが鳴る。『うるさい…。』と言っても鳴り止むことのないスマホに目もくれず、大体の位置を手探りで探し出して音を止める。これでもう少しだけ寝れる、と思いつつ夢の中に完全に落ちそうになった頃に、ピピピピピ、とさっき聞いたばかりの音が聞こえてくる。嫌になりながらスマホの画面を見ると、『準備しなきゃ!』と焦る時間。おかしいなぁ、5分も二度寝してないのに、と本気でそう思うのだが、確実に5分以上は寝ていたらしい。

 体温で温まっている布団から抜け出すと朝特有の寒さを感じる。寝室はまだいいのだが、玄関へ向かう途中にあるキッチンがやたら寒く、とても素足で歩けたものじゃない。スリッパを履き忘れてキッチンに来てしまったことを後悔しながら安物のケトルに水を入れセットした。お湯の準備ができるのを待つ間に、履き忘れたスリッパを求め寝室に戻る。スリッパという味方を身に着けキッチンに行くと、さっきセットしたばかりのケトルが既にお湯を準備し終えていた。
『安物なのになかなかやるじゃん』と話しかけても返事なんかあるはずもないのに偉そうに褒めてみた。
一番手前に置かれたマグカップを食器棚から取り出し、インスタントコーヒーの粉末を目分量で入れてケトルが準備してくれたお湯を注ぐ。猫舌なので熱々をすぐ飲めないのだが、毎朝コーヒーのいい香りと湯気がもくもくとしているのを見て『朝だなあ。』と覚醒する。

 食器棚の一番手前に置かれたマグカップにインスタントコーヒーの粉末、安物のケトルで準備したお湯、キッチンに充満するコーヒーの香り、熱さを物語る湯気、特別何にもないのだけれど、どれか一つでも欠けてしまうと私の朝は始まらない。

このお決まりセットのおかげで、明日も気持ちの良い朝を私は迎えることができるだろう。