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【ZEHは意味ない?】ZEHの嘘と本当の話

つい先日、複数の住宅会社の役員や営業の方々と今後の住宅業界について話をする機会があったのですが、そのとき話題に上がったのが「※ZEH基準義務化」でした。※ZEH基準以上の省エネ性能を持つ住宅しか建てられなくなり、遅くとも2030年までには義務化されることです。
既にZEH基準を標準化している会社も少なくないため当然対策を考えているものと思っていましたが、驚くことに「ZEHって意味ないですよね」と話す人がいて、ネットでも同様に「ZEHは意味がない」という記事がいくつもありました。
そこで今回は、なぜZEHは意味がないと言われるのか、さらにZEHの嘘と本当の話についてお伝えしていきます。

ZEHとは?

net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略で、2014年から使用され始めた言葉です。ZEHの定義(改訂版)によると、「太陽光発電等を導入することにより、年間の一 次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」とされており、簡単に言えば「住宅でつくるエネルギーと使うエネルギーの収支がゼロになることを目指しましょう」ということです。
なぜ「目指した住宅」と表現されているかというと、ZEHは「断熱性能を大幅に向上させ、高効率な設備を導入することで大幅な省エネルギーを実現すること」を念頭に置いており、その上でエネルギーをつくって収支をゼロになることを目標にしているためです。都市部の狭小地や積雪地域では太陽光発電設備等を十分に設置できない、十分な効果が得られない場合があるのでそういった事情を考慮した定義になっています。(現在では太陽光発電以外の創エネも認められていますが、わかりやすく以下では太陽光発電とします。)

ZEHは意味がないと言われる理由

ZEHが始まった当初は「エネルギー収支が正味ゼロ以下の住宅」とされており、断熱性能を上げて高効率な設備を導入し、さらに太陽光発電設備が必須だったのでZEHの認定には多額のお金が掛かっていました。
多くの住宅営業は「安い方が売りやすい」「予算内で収めた方が契約しやすい」と考えているため、基本的にコストが上がる&予算を超える提案は避ける傾向にあります。そこで、不動産&住宅会社が得意とする「不利なことはトークで潰す」という手段に出ます。

「ZEHにすると金額が高くなりますよ」
「住宅性能はそんなに変わらないですよ」
「売電金額が低いので補助金を入れてもトータルマイナスです」

このような「ZEH潰しのトーク」で意味がないと話をしているわけですが、目先のお金の部分だけを考えるとメリットを感じにくい一方で、ZEH自体に意味がない訳ではありません。むしろ、ZEH基準の義務化も含めて今後は必須条件であると言えます。

ZEHの嘘

・住宅性能は変わらない
ZEHの主な要件の一つに断熱等級(地域ごとに設定された断熱対策の程度を1~7で示すもので7が最高等級)があり、これを5以上にすることが求められます。

国土交通省HPより

断熱等級は主にUA値(熱の損失を表す数値)で定められており、実は等級4と5の差は地域によって大きくなります。例えば、東京の等級4と5の最低UA値の差は「0.27」ですが、札幌では「0.06」と差が小さいことがわかります。たった0.06の差でもZEH認定されないことを考えると、その数値の差が与える影響は大きいことがわかり、住宅性能が変わらないとは決して言えないことがわかります。
具体的なイメージとしては下記のようになります。

国土交通省資料より

上記は2地区(札幌等)の断熱のイメージです。
等級4と5では、窓を複層(2枚)ガラスからトリプルガラス(3枚)に変えるだけでも等級が上がることがわかります。たったそれだけと思われるかもしれませんが、窓などの開口部から熱が逃げる(入ってくる)割合は約60~70%と大部分を占めるためとても重要になります。
等級6になると、トリプルガラスに加えて付加断熱(ダブル断熱)が必要になってくるためより一層熱損失を抑えることが可能になります。

これを見ると、2地区(札幌等)では等級5でも物足りなさを感じてしまう訳ですが、2地区(札幌)と6地区(東京23区など)の断熱等級で比較するとより一層その違いがわかります。

東京(等級4)       ⇒ 建築不可レベル(札幌)
東京(等級5、ZEH基準)⇒ 約30年前の省エネ基準未満(札幌)
東京(等級6)       ⇒ 2000年の省エネ基準(札幌)
東京(等級7)       ⇒ 2022年に新設された基準(札幌)

ZEHにすると住宅性能が変わるのは明らかで、それよりもこれからの時代に等級5以上は必須であると言えるでしょう。

ZEHの本当の話

・建築コストが高くなる
太陽光発電設備は、導入費用が加算されるためその分の費用は確かに高くなります。但し、当時よりも発電効率の良い商品が安価に販売されており、リースによる導入も広まっているため太陽光発電の設置はハードルが下がっており価格も昔より抑えられています。

資源エネルギー庁の資料より

また、建築費用についても断熱性能を上げたり、高効率設備の導入など1次エネルギー消費量を抑える必要があるためその分の価格は上がります。特に1~3地区(夕張~盛岡等)を除く地域では、断熱等級を4から5にするために断熱性能を大幅に上げる必要があるため価格差は大きくなります。
但し、会社によってその差額は大きく異なります。ZEH水準の省エネ性を標準としている会社では価格差はなく、ZEH水準を満たさなくてもそれに近い省エネ性を標準化している会社では差額が小さくなります。反対に、コストが大幅に上がると説明をするような会社では標準の省エネ性が低いことを意味しているため価格差は大きくなります。

トータルでプラスになる可能性が非常に高い?

ZEHは、住宅性能が上がったり太陽光発電によって光熱費が抑えられるメリットがある一方で大なり小なりコストが上がるという構図で比較され、結果的にトータルプラスかマイナスかで判断する(提案される)ことが多いでしょう。その構図で考えた場合、「カーボンプライシング」によってトータルでプラスになる可能性が非常に高いと言えます。

カーボンプライシングは温室効果ガス削減に向けた具体的な対策の一つで、詳細についてはこちらの記事に記載していますが省エネ性の低い住宅は税金や光熱費など支出が多くなります。その結果、給湯・暖房設備等の入れ替えを余儀なくされることが十分考えられ、さらにZEH水準を満たさない住宅は既存不適格建築物となるため増改築・リフォーム時にZEH水準の省エネ化が必須とされることも考えられます。

カーボンプライシングの本格化は進んでおり、2026年頃から少しずつスタートされますので遠い未来の話ではありません。このようなことも考慮した上で、それでも「意味がない」と言えるのか問うてみたいものです。





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