恋に恋して、#1
私は「好き」がわからない。
今まで恋愛経験がなかったわけではない。中学生のころは淡い片思いもしたし、お付き合いもしたことはある。
でも、私は、わからない。
みんな私に「好き」をくれる。そして、あなたは特別の「好き」をくれた。
あなたの「好き」は特別だった。
ふたつ年上の優しい人。
とにかく優しくて、話すことが上手。自分にちゃんと芯があって賢い人。褒めるのも上手で、友達もたくさん。
「あー、モテるな」と、最初に思った。
あなたからLINEをくれたね。
普段連絡を取り合うのが苦手な私だったけど、あなたとのやり取りは新鮮で、楽しく、ドキドキするものだった。
「これが好きってことなのかな」
なんて、柄にもなく考えたりして。
何度か二人で食事をして、あなたは私に初めての「好き」を言った。
好き、なのかはわからない。でも、これが恋だと信じたくて、私は笑った。
「私も、好きだよ。一緒にいよう」
私は確かに幸せだった。
それからいろいろな場所に行った。たくさん話をした。苦手な通話もあなたがしたいだけした。手をつないだまま、離したくないと思った。溺れるほどの、キスをした。
私は幸せだった。
もっと褒めてもらいたくて、メイクの練習をした。あなたが私の長い髪が好きと言ったから、ヘアケアにはより時間をかけた。ダイエットも始めた。
うんざりするほど甘ったるい「好き」を、あなたは私に浴びせ続けた。
私はそんな気持ちに応えようと、あなたの好きそうな「彼女」を装った。
私は、満たされてしまった。
私は、疲れてしまった。
私は、ワタシは、
あなたのことが「好き」なのか、わからなくなった。
あの日、あなたが私にくれた「好き」に、私はとっさに「そう、」と返した。
今あなたに「好き」を返したら、それは嘘になってしまうから。
その瞬間、ピン、と張っていた糸がプチっと切れる音がした。
熱湯に入れた氷が溶けていくように、あなたへの気持ちが、興味が、すーっと消えていくのを感じた。
このままだと私の中のあなたがゼロになってしまうから。
だから私はあなたに「さよなら」を言った。
あなたの「なんで?」の疑問には答えられなかった。
だって、今までの気持ちが嘘だったなんて、
そんなこと知ったらあなたは悲しむでしょう?
哀しいほどに優しい人。
あなたの「好き」は特別だった。
あのとき私は確かに幸せだった。
だから、
「私はあなたのことが好きだった」
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