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ドイツ帝国が第一次世界大戦で協商国になった世界


はじめに

 現在のドイツでは、欧州連合の中心として欧州の経済、エネルギー、人口、環境問題などを仕切っている印象があるだろう。これは、現在に限ったことではない。フランク王国から神聖ローマ帝国、そしてドイツ帝国といういずれの時代においてもドイツは欧州の中心として君臨していた。そしてドイツは歴史的にオーストリアやフランス、ロシアの影響を受け継いでいた。しかし、フランス、ロシアとの違いはもちろん、同じドイツ語圏であるオーストリアとも宗教観の違いや、領土問題から歴史的に対立をしていた。史実では最終的にドイツはヴィルヘルム2世の即位以降オーストリアの考えを飲み込み、二度の世界大戦に挑んだが敗戦した。では、もしもドイツ帝国がオーストリアの国家方針であるパン=ゲルマン主義を放棄し、第一次世界大戦にて協商国の立場になったら、世界はどう動いていくのか考察していこうと思う。

前史

 神聖ローマ帝国崩壊以降、ウェストファリア条約締結により、ドイツ人構成国はいくつかの国に分裂した。特にその中で当時力を持っていたのはオーストリアであった。神聖ローマ帝国の王家のうちにオーストリア出身のハプスブルク家があり、その家の婚姻政策によりスペインやスイス、北イタリア、ナポリ王国、オランダなどで勢力を広げたため権力が強かったからである。また東方植民にてドイツ騎士団を中心とした国家であるプロイセンもシュレージエンをはじめとする領土問題から反ハプスブルクの立場に立って領土を広げていき、オーストリア継承戦争や七年戦争にて巧みな外交や戦略を駆使してオーストリアを打ち破り強国としての地位を獲得した。
 ナポレオン戦争中、ドイツやオーストリアはナショナリズムが発生しロシアや英国と共にライプツィヒにてナポレオンの師団を追い詰めた(ウィーン会議中に始まった百日天下もこれに同じ)。その後にウィーンにて会議が開かれ、英国・ロシア・ドイツ・オーストリア(後にフランスも加入)によるウィーン体制が成立した。その一方で市民革命前の神聖ローマ帝国の領土を復興させることは出来なかったため、ウィーンやベルリンでは市民革命が発生した。フランクフルト国民議会にてプロイセンでは、小ドイツ主義を掲げドイツ帝国を統一しようとするが、オーストリアは大ドイツ主義による神聖ローマ帝国の統一を掲げているため、対立をすることになった。またフランスもアルザス=ロレーヌ(エルザス=ロートリンゲン)による領土問題から対立することとなるが、プロイセンはその両国に勝利し、ドイツ帝国を再興させることに成功した。

史実

 ドイツ帝国成立後、普仏戦争で得た賠償金やエルザス・ロートリンゲンの石炭・鉄資源を用いて産業革命を進めて、軍備を増強した。一方政治ではプロイセン皇帝ヴィルヘルム1世が帝位に、オットー・フォン・ビスマルクが宰相に就き、北ドイツ連邦から続く連邦制を採用しつつ、ビスマルクの掲げた帝国憲法によりプロイセン首相が皇帝を兼任する立憲君主制を掲げつつ、帝国主義を掲げた。
 ビスマルクは社会主義者鎮圧法や保護関税法などの鉄血政策による内政を進める一方、外交ではロシア・オーストリアと同盟を組みフランスを孤立化させ、主催したベルリン会議にてアフリカを植民地化しつつ、列強諸国の仲介を行っていった。しかしその後に即位したヴィルヘルム2世はパン=ゲルマン主義者であり世界政策を掲げたため、社会主義者鎮圧法や外交方針により対立、ビスマルクは宰相を辞任させられた。これにより、英国やフランス・ロシアとの対立も深まっていった一方、ドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー帝国は無条件の支援を約束した。これにより、民族問題によるバルカン戦争から始まった第一次世界大戦ではパン=ゲルマン主義を掲げたドイツ・オーストリアとロシアへの対抗を掲げるオスマン帝国・ブルガリアで構成された中央同盟陣営とパン・スラヴ主義を掲げたロシア・セルビアや世界政策や建艦競争で対立していた英国、そして領土問題への復讐心を持つフランス・ギリシャ・ルーマニアなどによる協商国陣営に分かれ、欧州を中心とした戦争が発生した。しかし、ドイツ帝国側は英国に対する潜水艦無差別攻撃を行った際国力の高いアメリカを敵に回したことにより、第一次世界大戦で敗北した。ではドイツがこの世界大戦で協商国の立場を取っていたら世界はどう変わっているのだろうか。
※パン=ゲルマン主義はなぜ生まれたのか。
→https://note.com/hiyer7629/n/nab79084cd921

ドイツとオーストリアの関係悪化

 おそらくこの世界線の分岐点はドイツ帝国建国後になるだろう。ビスマルクはおそらく、三帝同盟を結ぶ際オーストリアに対してロシアやセルビア、ブルガリアへの不可侵を要求するよう圧力をかけるだろう。もしかしたら、国内、または貴族に関するパン=ゲルマン主義を禁止する憲法を制定するかもしれない。(そうなった場合反感を買いそうではあるが)こうなれば、ヴィルヘルム2世は即位されないか、即位されたとしても史実とは大きく考え方が異なるだろう。この出来事がうまく実現されれば、二度目の外交革命となることが予想される。英国・フランス・スペイン・イタリア・ロシアなどの国はこのニュースに驚き、オーストリアはこのニュースに激怒しドイツを敵対視すると考えられる。しかし逆に英国はドイツ貴族との結び付きが強いため建艦闘争がなくなればオーストリアに対抗する協定を結ぶ可能性がある。仮に英国と関係が悪化したとしても、スペインやスウェーデン、ロシアが味方してくれる可能性もある。どちらにせよドイツ帝国が中立の立場を取れば、英露間のグレート・ゲームから第一次世界大戦が発生することは確実だろう。ここでオーストリアに対抗するため英国と「戦争には介入しないが、軍需品を支援する」と約束したとしよう。ロシアはオーストリアやフランス、東欧諸国との結び付きを強め、ドイツを攻撃しようとするだろう。英国やスウェーデン、オスマン帝国はこれを脅威と見なし、協商国側として動き出すだろう。また日英同盟により日本も協商国側に参戦。そうなれば、このような構図になるだろう。

陣営図

展開

まずドイツとオスマン帝国がオーストリアの分割に動き出す。その時にイタリアに対して秘密協定を結び、協商国側で参戦。英国もロシアに対する攻略作戦を中東や日本に対して実施。日本もシベリアに出兵するだろう。オスマン帝国によりセルビアに陥落するのも確実だ。この場合ロシアは西方の英独土、東方の日本を二正面作戦で同時に戦わなくてはならず苦戦する。ここで二月革命や十月革命が発生するだろう。そして戦後はヴェルサイユではなく、ロンドンまたはベルリンで行われる可能性が高い。

おわりに

 当初はもしも第一次世界大戦にて、ドイツ帝国が中立であるかを議論するつもりであったが、どの事象を巡っていてもあり得ないため、このIFの形になった。しかし第一次世界大戦前の欧州の状況はまさに

欧州情勢、複雑怪奇也

平沼騏一郎

この言葉に尽きるので、私も正直考えにくかった。

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