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【スパ銭レビュー】両国湯屋 江戸遊

平日朝10時に来店。通常プランで2,970円。
都内の銭湯やスパ銭に精通する立場から、「平日でこの値段かよ。高いな」と一瞬思ったが、これには裏がある。少しGoogleをサーフィンすれば分かるのだが、お高い料金には各サイトからのクーポンが適用でき、なんだかんだで1,800円まで下げられそうだ。2,970円なぞ、所詮ははったり、張子の虎、虚仮威しの類であったのだ。

令和のおじさん名探偵として、はったりを看破し入場。張子の虎がしっかり虎として機能しているのか、一見して館内は人もまばら。平日10時過ぎではあるが、盛況とは言い難い様相となっている。
哀れ、2,970円という相場浮きした価格に駆逐されたインパラどもを背に、フロントに向かう。

初回利用ということで、フロントの女性から館内説明を受けるが、そこで驚愕の事実が明かされる。「2Fは男,4Fは女」という具合に、男女で利用できるフロアは完全に分けられているようだ。温泉はもちろん、作業スペース、休憩スペースにまで徹底されている。3Fのレストランフロアを境に男女は完全に袂を分かつのである。
「混浴」
両国・湯屋・江戸遊という昔情緒の溢れる店名から演繹的に導き出される入浴形式は混浴しかありえない。関ヶ原の大戦以後、江戸の民が紡いできた銭湯文化・混浴文化を完全に無視しながら、言葉だけは頂戴しブランディングに活用する抜け目のなさに辟易しながらも、心は独りでに回想を始めてしまう。
「混浴文化を紡いできた江戸の潮目が変わったのはいつだったろうか。」
井伊直弼が結んだ日米修好通称条約により、領事として赴いたハリスは日本の混浴文化に驚愕したという。
「汝、姦淫することなかれ」
不平等条約の改正に迫られ、禁欲文化を持った列強にへつらう立場になった江戸が混浴文化を自ら手放すのは無理もないことだったのだ。こうして江戸は混浴文化とともにその名も捨て、東京となったのである。
「混浴は本当に淫らなのか?」
あの条約から1世紀半が過ぎた今、江戸を捨てた東京人たちもこう問い直す時期に入ったのかもしれない。

いらぬ回想を振り解き銭湯へ。銭湯は内湯と外湯に分かれており、全部で7つほどの浴槽がある。内湯には炭酸泉やサウナ、あつ湯、外湯には温泉や寝ころび湯などが揃い、バリエーションに富んでいる。内湯に広々と浸かりながら周囲の顔ぶれを見渡す。利用者はあわせて7名ほどといったところか。顔に髭を蓄えた仕事盛りの30~40代が多いようである。どうも最近は髭が流行りつつあるように見える。近年、大量の脱毛広告が電車内、YouTubeなど、我々の身近を席巻しつつある。スパ銭に並んだお髭たちも、そうした社会の反動の表れなのかもしれない。

お湯であったまったところで洗い場へ。洗い場も席数が多く、人数も少ないために広々と使える。備え付けのシャンプー類の質は悪くなさそうだが、良くもなさそう、つまり普通だ。普通の洗い場をそれなりに満喫したのち、作業場へ向かう。

銭湯から出て奥に向かうと、作業場は現れる。意外にも広く、快適な作業空間が広がっている。何より、店員が全くと言っていいほど来ないので、プレッシャーがないのである。顧問・コーチのいない部活の練習のように、お祭り気分でこのくそレビューを書き散らすことができる。近年のインスタ女子を真似て、おじさんも記念の1枚を。

2F作業スペース

作業が続いたところで興味がてら、3Fへ向かう。驚いたことにこのフロアにも作業可能なスペースが広々と展開されていた。コーヒーマシンも備わっており、200円と少し安めの価格設定だ。混浴詐欺には怒り心頭の私だったが、この作業スペースの充実度には感嘆するほかはない。

が、令和を生きる老害として1点文句は述べさせてもらう。
「なぜコーヒーは現金がないと出てこないのだ(下記写真参照)」

3Fのコーヒーマシン

決済の煩わしさからユーザーを解放するために多くのスパ銭ではリストバンドで全ての決済が可能になっている。無論、この施設も多くはそうなっているのだが、このコーヒーのように、所々リストバンドで決済ができないスポットがあるのだ。スマホのQR決済ならまだしも、現金である。キャッシュレス化が進んだ令和において、現金はスマートな決済方法を知らない愚者を判別する踏み絵としての機能しかない中、現金決済オンリーとはなんとも間抜けである。
レジを混雑させ、人の時間を奪う妖怪。バイト・パートのおばちゃんの手間を激増させて憚らぬ鬼。それこそが令和の現金ユーザーの正体である。
なるほど、江戸といえば怪談。鬼や妖怪の影を感じるからこそ、ここは「両国湯屋 江戸遊」という名を冠しているのだろう。おじさん探偵の名推理である。





あとがき

このレビューは実在の人物とは一切関係がありません。とあるレビューから着想を得て作られたフィクションです。

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