心を開く
家族でちょっとドライブ。
普段行かない森の中のソフトクリーム屋さんへ。
お店はお姉さんが一人でやっているみたい。
入口と、ソフトクリームの受け取る場所が違っていて、最初ちょっと戸惑いつつ、「こちらへどうぞ~」の声に促されて店内へ。
店内はお風呂の桶が置いてあったり、古いラジカセがあったりして、海の家みたいな雰囲気。
食券を出すと、お姉さんが話しかけてくれた。
こんなとき、さっと身構える自分がいる。
斜に構えるというか、ちょっと心の中の壁を出して、相手が入れなくするような感じ。
たぶん、傷つきたくないんだろうね。
なんとなく、相手が華やかな人だったり、大きく見えるような人だと、無意識にガードしたくなってしまう。
で、こういうときいつも出していた壁を、今日はなんとなく網戸ぐらいの感じにしてみたくなった。
がっちりガードじゃなくて、風が通るくらいの感じ。
お姉さんが話しかけてくれた言葉を受け止めて、それに自分の気持ちを少しだけ乗せて答える。
相手がまた返してくれた言葉を、ちょっとだけユーモアを入れて返す。
たった数回のやりとりで、相手のことをちょっと好きになる。
身構えていた気持ちがなくなって、垣根がなくなって、フラットな感じ。
そのとき、「心を開くってこういう感じだな」と思った。
「心を開いた」と意識して思ったのは、今大学生の長男が赤ちゃんだった頃。
混んだ地下鉄の中で、急に知らないおばあさんに話しかけられたのだ。
おばあさんは、長男をかわいいとほめてくれて、私のこともねぎらってくれた。
その日、いつもは閉じている壁を「開いてみよう」と意識したのだ。
開かないでいた、いつもの世界では、こんな風に話しかけてくる人は、ちょっと困った存在というか、疲れてるのにわざわざ話さないといけないのか、面倒だな、っていう感じだった。
それが、その日開いてみようと思ったとき、おばあさんはあたたかくて、私たちのことを優しく見守ってくれる存在になった。
用事を済ませたあとの混んだ車内で、体は疲れていたけれど、開いた心の中におばあさんのあたたかさが入ってきて、とても満たされた気持ちになった。
毎日生活していると、ちょっと疲れたり、人と接するのがおっくうになったり、自分を出すのが怖くなったり、心は閉じたままのほうが安全だと思ったりする。
わざわざ人と話すのなんて面倒だし、関わらないほうが楽だし、知らない人なんて適当にあしらっておけばいい、もう二度と会わないんだし……と思うこともある。
でも、時々、ちょっとだけ心を開いて、相手の言葉を心の中に入れてみたり、受け止めた言葉をまた返してみたりすると、閉じていたときよりも少しだけ心があたたかくなったり、つながりを感じられたりする。
いつもじゃなくても、たまには心の壁を網戸ぐらいにして、ちょっとの関わりを楽しめる余裕があったらいいなと思う。