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ジョジョラビット ママ・ロージィのハットを作る 1/2

■今回の映画と帽子


タイカ・ワイティティ監督作『ジョジョラビット』
第二次大戦下ドイツを舞台に、立派な兵士を目指す10歳の少年の話です。

タイカ監督自身が主人公ジョジョのイマジナリーフレンド「アドルフ」を演じています。ロシア系ユダヤ人との血を引いている彼ががヒトラーを演じるとはなんて皮肉!
しかも、10歳の男の子の「ぼくのかんがえるさいこうのヒトラー」なのでなんともお間抜けで憎めません。

子ども目線で戦争を描いている前半は、なんだかウェス・アンダーソン味もあってポップでコミカル。楽しいルック。
気の弱いジョジョ少年が「立派な兵士」に憧れている様子をポップミュージックに合わせていきいきと見せていきます。(ビートルズの『抱きしめたい』がドイツ語!)
ジョジョの親友ヨーキー(なんてカワイイいきもの!)、サム・ロックウェル演じる将校キャプテンKも最高です。(この人はどうしてゲイの役が似合うのか)

しかし、そこは子どもたちだけを集めて戦闘訓練をするヒトラーユーゲントの合宿。愛国心という名のもとに、淡々と洗脳されていく子どもたち。戦争の酷さは戦場だけでなくて、こんな風に人の心に憎悪を吹き込んだりする「教育」にもあります。
ナチズムに反する本を嬉々としてキャンプファイヤーの火に投じる姿は、悲惨な場面でないのにぞっとします。

このものがたりに光を照らすのは、スカーレット・ヨハンソンが演じるジョジョのママ、ロージィ。彼女は戦時中にもかかわらず、とってもおしゃれ。
生活の中にもこだわりが見えます。親子でお揃いの可愛いパジャマ、アール・ヌーヴォーの家具、テーブルクロス、ステキな食器、食事は粗末でもとっておきのワイン。物資や食料も足りていない中、生活を美しく、なんとかして楽しもう、楽しませようとしています。

「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくしてそれに執着することである」 吉田健一

ピチカート・ファイヴの小西康陽氏にも引用されている言葉です。ロージィを見ていてこの言葉を思い出しました。
「立派な兵士になること」に夢中なジョジョを、いつもの生活とたっぷりな愛情でなんとか守ろうとしているのです。
明るくて強くて勇敢で、愛情深いママ、ロージィ。

彼女ががかぶっていた素敵なハット、今回はこれを作ります。


■考察


メンズのソフトハットをレディースに落とし込んだ粋なデザイン。女性らしい、でもハンサム感のあるハットです。ママ・ロージィにぴったり。

映画は第二次大戦末期なので時代的には1945年くらいです。でも、この帽子はロージィの青春時代、30年代のものなんじゃないかと思います。
資料でしかわかりませんが、40年代前半はファッションもかなりミリタリー寄りだったり、質素な感じです。ヴァイマル共和国時代に少女期〜青春期を過ごしたママ・ロージィはリベラルで自由なファッションを楽しんでいたはずです。


こちらはドイツのものではありませんが、30年代の通販カタログ。
このちょっと小ぶりなマニッシュハットをご覧ください。すっぽりかぶるのでなく、頭に乗っけてヘアスタイルの一部にする感じ。

この頃の帽子ははバラエティに富んでいます。帽子がまだファッションの一部としてしっかりとした地位を築いていた時代です。


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ここで帽子の作り方についてちょっとだけ説明します。

帽子の作り方ははすごーくざっくり分けると「型入れかそうでないか」です。
布を縫い合わせて作るものと、帽体と呼ばれるものを木型に入れて形作るもの。(布を縫い合わせてあっても型に入れたものや、『ブレード』と呼ばれるテープ状に加工した材料をぐるぐると帽子型に縫い合わせたものもあります↓下図をごらんください)

このハットはフェルト素材の型入れですね。
これを作るには木型が必要なので、先ずは木型を作らねばなりません。

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ここでちょっとわかりにくい箇所が。
男性らしいデザインの帽子を女性向けにリデザインした際、下図のように後ろ頭をなだらかにする場合があります。(軍や警察組織のハットにも時々見られるので気になっているのですが、理由はよくわかりません)
フロントのデザインと後ろ側のデザインが、かけ離れているので、どう繋がるのかイメージしにくいのですね。

このようなデザインの帽子を触ったことが無いので……推理しつつ作っていきますね。ファイッ!

注意点

・レディースなので固く作らない。
・かぶった感じから見て、サイズ(頭囲)は54くらい?
・うしろなだらか〜トップはかなりとんがり?
・前から見ると後ろのデザインが想像できない普通のソフトハット
・前部分の凹み(ピンチ)はとても柔らかく上品。これは丸く作ってから凹ましたのでは?
・ツバは下げたスタイルで型入れしたのち、上げたと思われる。

ここで立てた「丸く作ってから凹ませたのではないか」仮説に基づいて、木型を作りましょう。(『木型』と呼んでいますが、今回は一点物なので、もっと柔らかいもので作っています。毎回木を彫っていたら手が死にます…涙)


■制作


何個か彫ってみましたが、写真が残っていたのが↓これだけでした。

あまりにもざっくりなので画像をモノクロにしてごまかそうとしています。彫りすぎたところはパテ盛り修正しているので、カラーにするとまだら模様が…。

いきなりフェルトを使うと失敗した時のショックと材料費が痛手なので、先ずはいらない紙やらガムテープやらで簡単に型をとってみます。そのつど木型を修正しつつ、最後にバクラム(紙でできている繊維)で型取りして最終確認。ふむふむ、いいんじゃないかな。

ツバのかたちはハイバック…後ろがはねあがっているスタイルです。↓こんなふうに型入れしたのち、上に上げます。 

※ここまでさっくり出来たような書きっぷりですが、かなーり試行錯誤をくりかえしております。

型入れしてから、全体の形を見て、くぼみ(ピンチ)を入れ、後ろツバを上げました。スチームやらプレスやらでかたちも整えます。

型入れができました。

………ナンカコレジャナイ感。

フロントスタイルのハンサム感が弱い。後ろツバの上がり方の「タメ」のない感じも違うし。
ツバが広すぎるのはカットすればいいのですが、サイドの角度が開きすぎています。

サイズ54センチというのも微妙でした。
アンティークの小ぶりなサイズ感でなく、子ども用の帽子みたいになってしまいました。もうすこし思い切って小さくしないと伝わらない。

デザインとして悪くはない気がしますが、ママ・ロージィの帽子とは別物ですね。

…作戦変更です。
泣きながら次号に続きます。

2/2 できました!↓

ジョジョラビット ママ・ロージィのハットを作る 2/2

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