「ローリング・サンダー・レビュー」 ボブ・ディランのフラワーなハットを作ろうと思った。
コロナ禍による引きこもり推奨期間も延長戦に突入した2021年新春。いかがお過ごしでしょうか?
このおこもり期間に何か学びを得たり、人様に報告できるような有意義なことをしていたら良かったのでしょうが……思いつくままにあれこれとロクでもないことに時間を溶かしてしまった2020。反省しつつ、せめて年内にnoteにひとつ上げておこうと思ったものの、こうして年が明けてしまう私です。あけましておめでとうございます。
映画に帽子が出てきたら作ってみよう記録。今回はボブ・ディランの伝説的なコンサートキャラバンを記録したマーティン・スコセッシ監督作品「ローリング・サンダー・レビュー」で参ります。
2020年4月に来日公演が予定されていたボブ・ディラン。ご存知の通り来日は中止に。チケットは払い戻しになりました(涙)このやりきれない気持ちをかたちにするべく、映像としてよくみられる、ボブ・ディランの、あのフラワーなハットを作ろう!と思いたったのは2020年春(おい!)……さっそくNetflixで再鑑賞しました。
遅れてきた世代にとって、こうして過去の素敵な時代を切り取って映像で見せてもらえるのは嬉しいですね。あらためて観ると特に女性アーティストのカッコよさよ!ジョーン・バエズ、パティ・スミス、ジョニ・ミッチェル……こんな風にアクトするんだー!という発見と感動もあります。
そんな女性アーティストの中でどうしても印象的なある人物、その帽子から目が離せなくなりました。
じゃん。バイオリニストスカーレット・リヴェラのかぶっていたボウラー。クラウン高めで(多分メンズ)ちょっとミステリアスな彼女の雰囲気にすごく合ってます。彼女がソフトハットをかぶっているシーンもあるのですが、そちらも高さのあるカッコいいハットです。好みもあると思いますが、帽子の見せ方が上手い。かぶり慣れてるのがわかります。
今まで何度となくボウラーハットを作ってきましたが、私の作っている型とも少し違います。見ているうちにボウラー魂に火がついてしまいました。今回は変更してこのボウラーハット、主にクラウン(頭の入る部分)の形をなるべく正確に再現したいと思います。当初の目的からだいぶ外れてますが……それでは、ファイッ!
こちらがウチのボウラーのクラウン基本型です。
なかなか自分好みの木型に出会えなかったので、古い木型にパテ盛りなどして作りました。サイズが小さかったのでフェルトを1枚被せています。その後手に入れた木型もありますが、ちょっと見た目の悪いこの型には愛着があって今でもよく使います。この型でも近い物は作れそうですが、より近いものを作るために、型から作り直していきます。
先ずかたちをしっかり意識します。できれば真正面、真横の写真を用意してデザインやサイズをよく検分します。頭の大きさ、耳の大きさなどを頼りにブリムの幅、クラウンの高さ、それからカーブのアールを割り出して「設計図」をざっくり作っておきます。スカーレットのボウラーはクラウンの丸みが若干キツめでしょうか。そして写真からはわかりにくいですが、奥行がありそうです。長頭。西洋系の頭のかたちです。
私は建築資材の断熱材(硬い発泡スチロールのようなもの)を使っています。説明不要と思いますが上図の通りです。カッターで削りあげたら紙やすりで丁寧に調節していきます。
できました。カーブもきれいにできたと思いますが、試しに型取りしてかたちを確認したいと思います。試作のために新しい帽体(型入れ用の帽子材料)を下ろすのはもったいないので、形が緩んでしまった自分の帽子を使います。(高さが足りない時は↓「弁」を足します。こんな感じ)
試し型取りをしている間にブリム(ツバ)のおはなしを。
このクラシックなボウラーに欠かせないのが、サイドがクッと巻き上がっている狭いブリム。「ドルセイカーブ」または「ドルセイブリム」と呼ばれます。トップハットやボーラーハットにはこのかたちが(個人的に)好ましいですね。ワタクシこのブリムのかたちがもう…本当に……好きで…もう……好きすぎて…はあ…ほんとに……もうはあはあ…s(語彙力)
Hendraのボウラーやトップハットはほとんどこのブリムです。
上のような木型を使って型入れをします。(実際に使うときは上下が逆です)真ん中があいている木型はその形状から「ドーナツブリム」「中抜きブリム」などと呼ばれています。(写真の木型はコンディションも良く大変美しいのですが、残念ながらサイズが大きすぎるのでほぼ観賞用です。持っているドーナツ型の中で1番カッコイイので自慢するために出しました)
試し型が取れました。前横確認。
クラウンの形はコレでOKですね。少し巻き上がり過ぎたブリムは修正しましょう。
この試し型ハットは私のお出かけ用にします(笑)余談ですが……帽子作家が普段かぶっている帽子は9割方このような試作品やサンプルです(Hendra調べ)デザインのチェックだけでなく、時には耐久テストも自分の頭でやってます。
このまま断熱材木型で制作に入ってもよいのですが、今回はもう一歩踏み込んで「木」を使った「木型」を作ることにします。
アンティークの木型は硬くて重い無垢材でできています。割れたり歪みが出たりしないように何年も乾燥させたものを使っていたそうです。(近年は集成材のものも多いです)
1つの木型から何百個も作るため、丈夫で硬い木型を必要としていた時代と違い、Hendra Hat Makerならそこまで硬くなくても無問題!(何百個も作らないからね!…涙)なので作りやすさ重視、素材はコレです、ばばーん!
自分にやさしく。
桐板で作るの?バカなの?と思いましたね?ノーノー、桐は柔らかいけど耐水力もあるし、変形や歪みも少ないよ。本当だよ!
断熱材の木型をスライスして桐板に写し、糸のこ盤で切ります。板目はタテヨコ交互にすると良きです。柔らかいのでノンストレスで切れます。
木工用ボンドで貼り付けます。
下三段くらいまで真ん中に穴を開けておくとスタンド台に挿せて便利です。前後左右そして垂直、位置は正確に。クランプで固定しながらていねいに。
完全にボンドが乾いたら、カクカクしている部分が滑らかになるようにカンナやサンダーで削っていきます。たーのしーい!
テテーン!木型の完成です。
なんか地層感すごいけどできました。型入れしやすいようにウレタンニスで仕上げています。桐なので軽い…けれど意外と重量も硬さもあります。作業しやすそうないい重さです。
途中サンダーで削る作業があまりにも楽しくて、ガリガリやっていたら削りすぎました……。色が違う部分はパテ盛りして削り直したところです。ちょっとかっこ悪い。けどかたちは正確!大丈夫!(自分に言い聞かせ)
では!この木型を使って「スカーレット・リヴェラが1975年頃かぶっていたボーラー」再現!
できまし…た?あれ、なんか素材が違う…えーっと…フェルトでなく夏素材で作りました。じつは作ったの夏なんです…すごく…暑かったんです…(冬素材のフェルトは蒸気を使って成形するので…とても暑い…見た目も暑い。でも冬帽はだいたい夏に作っています。つらい)
ほぼほぼ再現できてきているかと思います。ブリムはまだちょっと上がりすぎ。これは好みが出てしまっていますね。反省。
リボンの結びは元画像からはよくわからなかったので、ベーシックに「紳士飾り」。ツバ先はグログランでパイピングしました。ドレス感がアップします。
ボウラーはハードハットなので、糊はかなり硬く入れてあります。
ところで、この「ローリング・サンダー・レビュー」。ツアーの記録映画と思いきや、観ていくうちにたくさんのウソに気がつきます。
虚構と現実、あの時代にあの場所にいるはずのない人、実在しない人、嘘の人格……。初見では混乱しましたが、これは歴史的資料でなく、「ローリング・サンダー・レヴュー」を再構築したフィクション。どこまでが本当なのかウソなのかわからないボブ・ディランその人そのままの感じがします。嘘をほじくり出すよりも、作られたドラマを楽しむ。そんなスタンスで観るのが良さそうです。
それから。帽子屋的に気になる点はこの映画のポスターが逆版な点です。
紳士帽の飾りはかぶった時に左側に来るのが一般的です。これは15世紀のヨーロッパ、紳士帽からさかのぼって鉄兜のあった時代。兜の大きな羽飾りが左側にあったことの名残といわれています。剣を持つ右手の邪魔にならないよう左側にと配慮されたからなのでした。
2002年に発売されたアルバムの写真を逆にしたのだと思いますが……モヤッとしてしまう帽子屋でした。
しかし……
映画におけるボウラーハットを語るならばわざわざこの映画でなくてもよかったじゃん。たとえば大好きなこれとか……
映画に出てくるボウラーについてはまたあらためてやりたいです。
ひとまずはお粗末さまでした。
そもそもどこに向けて書いているのか謎な読みものなので、読む方がいるかどうかはわかりませんが(涙)映画で気になる帽子のこと、今年はもうちょっと定期的に書けると…いいなあ。
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