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映画に観る整理収納vol.18   「PERFECT DAYS」編         (ネタばれ含みます)

整理収納アドバイザーひつじが鑑賞した映画を整理収納を切り口に好き勝手に語っています。

今年最後の映画館で観る映画「PERFECT DAYS」を観てきました。
舞台の一つとなった「渋谷」の映画館はほぼ満席でした。


この映画は今年のカンヌで役所広司さんが男優賞を受賞したことでも大変話題でしたのでメディアで取り上げられていることも多く、多少の前知識は頭に入れての鑑賞でしたが思っていた以上に心が揺さぶられた映画でした。


毎日同じ時間に外から聞こえる箒の音で眼ざめ、生業である公衆トイレの掃除に出かける「平山」。お昼休憩は神社でサンドウイッチを食べながらフィルムカメラで木々の木漏れ日を撮るのが楽しみだ。
仕事を終えると開店と同時に

映画鑑賞後部隊の1つとなった
鍋島松濤公衆トイレへ
(隈研吾設計)

銭湯へ行き、行きつけのお店で酎ハイと晩御飯を済ませ、寝落ちするまで読書をする。
休日はコインランドリーで洗濯をし、写真屋に寄り、紙焼きした写真を受け取り、新たにフィルムを現像に出す。
新しい本を買い、歌の上手いママの居るお店で飲む。
映画の前半はそんな平山の日々の暮らしのルーティーンを追ってゆくドキュメンタリーのようだ。

この映画は整理収納アドバイザー的にいうところの「モノと人」との関係をまざまざと見せつけられる場面がぎっしりと詰まっていました。

出かける準備とモノの置き場所

平山の家の玄関にある壁付けの1枚の棚は奥行き10㎝ほどでしょうか。
その棚の上には整然と財布、鍵、カメラ、小銭 などが並び、出かける時にはその中から必要なモノだけを選び、帰宅すると同じようにそこへ戻します。
良くモノをなくしたり、探したりするという人は最も参考になる「収納」です。
・動線上にある
・見えている
というところがポイントです。

モノの持ち方

平山の家の2階には寝室にチェストが一つ、あとは本棚とカセットデッキ、隣の部屋には育てているたくさんの植物の鉢がありました。
チェストの中には衣類やタオルが収納されているようで、どうやらそこに収まっている以上のモノはない様子です。
本は大きな本棚から少し溢れていますが、彼の毎日の暮らしには欠かせない「好きなモノ」のようですから空間全体から見ても許容範囲内と思います。
大切なことは平山が何を大切にしているのかがモノの持ち方にとても現れている点です。
服よりも本や音楽(カセット)、植物が彼にとっては大切なモノだということです。
そして注目すべきは写真です。
彼は毎日のように木々の木漏れ日の写真を撮り、紙焼きにしています。
裕福でない暮らしの中で、写真を現像し、紙焼きにするということにお金を使っています。
しかも、紙焼きされた写真をすぐに家で確認し、気に入らない写真はすぐに破いて捨ててしまいます。(まるで陶芸家が窯出ししてすぐに作品を割ってしまうようです!)
そして厳選された写真は年号の入った缶に収められ、押入れの中にしまわれます。その缶はかなりの数になっているようでした。
わざわざお金をかけて手にした写真をすぐに「要らないモノ」として処分できる。彼にとって「せっかくだから」とか「もったいないから」という理由は存在しないように見えました。

1Fの物置部屋

姪っ子のニコが家に訪ねて来た時に1Fの物置部屋が出てきます。
それまでこの部屋は映っていませんでしたが、かなり多くのモノが詰め込まれたその中で平山は幾晩か眠るのです。一瞬でしたが、ゴルフバッグもあったような。
平山の過去は一切明かされませんが、この荷物たちはいったいどこから来たのでしょう。
過去の平山のモノなのか、誰かから預かっているのでしょうか。
いずれのしても2Fの空間との差に軽く衝撃を受けながら、彼のもう一つの顔を少しだけ見れたような気がしました。
日々の暮らしを見る限り物置部屋のモノはもはや使われてはいないモノでしょう。でも、手放すことはできない。だとしたらこのように「分けて置いておく」ことで手放せる「その時」を待つことも一つの方法です。

なぜ涙が溢れるのか

なんの変化もない毎日のように見えて、同じ日は1日もないのだということを彼の小さな日々の出来事から、天気から、選ぶ音楽からじわじわと感じたからなのだと思います。
スッキリと片付いた空間を手に入れたからといってなんの悩みも考えもなく淡々とだけ生きている人などいないでしょう。
同じことを同じように繰り返しても、同じ音楽を何十年聞き続けていても、
今日、今、選ぶ音楽や本や日々の食事や写真や、それらは「今の私が選ぶモノ」です。そして、「今の私」には当然のことながら「それまでの私」が存在します。皆何かしら片付けきれないモノを抱えたまま生きているのだと思います。

平山がラストシーンで選ぶ音楽の歌詞や旋律が多分彼が意識していないほどに彼の心に沁みて、あのシーンになったのかもしれないなあ。

今年を締めくくる良き映画と出会えて、本当に嬉しい年の瀬です。
また観たい!
そして劇中の曲のリスト作ろうかな。



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