2023年11月分_400文字読書感想文まとめ
X(@HitujiSix)にて400文字の読書感想文をポストしています。
2023年11月分のポストをまとめました。
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小説家になるために必要なもの/差し出したもの「高瀬隼子 市川沙央」
対談名:小説家になるために必要なもの/差し出したもの
対談者:高瀬隼子 市川沙央
掲載誌:文學界 2023年11月号
羨ましくて血涙が流れ出てしまうめえ
当事者性とはなにだろうか?
思い出したのが、若者向け小説を巡る問題だ。百合小説をシス男性が書く。この当事者の欠如が問題になっている。
当事者性は尊重されるべきだ。一方で、当事者性が必要ならば、代弁すらできなくなる。声にならない心を言葉に代えるのも小説家の仕事だ。
怒りはとてもエネルギーに満ちた感情だ。
小説を書かなければ怒りで狂ってしまう危機感は羊にも覚えがある。
対談の中で分人主義が触れられた。
書くと、怒る分人を文章と関わる。そのため、怒る分人と問題の癒着が弱まり、狂わないのだろう。
昔からずっと小説が好きだった二人が小説家になった。
羊には、コバルト文庫の背表紙すらわからない。
羊が読んできた本はブルーバックスばかりだ。
代わりにマンガをよく読んだ。小説を書くきっかけも、日本橋ヨヲコのマンガ展に感動したからだ。なぜマンガを描かなかったかはわからない。
ドーン「平野啓一郎」
題名:ドーン
著者:平野啓一郎
出版社:講談社
誰かもしくは何かとの分人
分人主義を含む物語を述べることで、分人主義を説明しようとしている。
羊は簡単に分人主義を受け入れられずに入る。分人を管理するなにか、羊は無意識だと思っている、が一つだけいる感覚を覚えるからだ。それが一つなら、それは個人になってしまうと思う。
君主論では君主の才覚として、信頼すべき人を見抜く力と話を聞く力が上がっていました。
この力は、どのような人にも必要な技能かもしれない。
なぜなら、誰もが多数の分人を持っているからだ。問題が置きた時、重要な分人たちの反応に耳を傾けて、解決へと歩みだす方法が一番賢明だからだ。
隔離された場合、分人の更新が限られる。この状況はつらい。
入院患者の1〜3割はせん妄を体験するという。更に限られた状態で健康なのは、逆に不自然だとも言える。
機械やペンにたいする分人を生み出して回避する人間もいる。南極ではルンバはペットになったそうだ。
夏への扉「著者:ロバート・A. ハインライン 翻訳:福島 正実」
書名:夏への扉
著者:ロバート・A. ハインライン 翻訳:福島 正実
文庫レーベル:ハヤカワ文庫SF
未来に捨てられ、過去に攻め込み、未来へスキップで向かう。
時間移動は文明の夢である。
夏への扉は近い距離での時間移動が書かれており面白い。特に、現在と未来が影響し合いながらも、矛盾なく因果が紡がれているストーリーが素晴らしい。
読んでいて、映画のサマータイムマシン・ブルース(四畳半タイムマシンブルースもそうだ)を思い出した。
夏への扉は時間移動モノに新しいスタイルを生み出した作品だ。
例えば、元祖の小説タイム・マシンでは、はるか未来へ飛び、まったく現在とは異なる世界を旅する。未来と現在はそれほど接点を持っていない。言い方を変えれば、現在と未来が離れすぎていて因果が遠い。
バック・トゥー・ザ・フューチャーも近い距離の時間移動が描かれている。当然、現在と未来(過去)の因果は強い。だが、現在が変われば未来が変わる世界が描かれている。因果が繋がっていない。
最後に、夏への扉のキッチリと納められたストーリーの完全さには感動を覚える。やはり面白い。
列「中村文則」
題名:列
著者:中村文則
出版社:講談社
列に並ぶ快楽
列。前後があって、順番があって、ゴールがある。
列に並ぶ理由は体内から滲み出てきた欲だ。
質が悪いのはその欲は夢や希望である事実だ。
さらに質が悪いのは列に並び続けた先に理想郷があるとは保証されていない疑惑だ。疑ってしまう、それはつまり、夢や希望を捨てる行為である。
大量の情報にアクセスできるようになった。
結果、人の縄張りが細分化し、縄張り争いが続く。
更に悪いことに、縄張りの中でも序列、そう、列ができる。
情報社会だから、どうできれば頂点へ行けるかわかる。そして、その「どう」に追いかけられる。「どう」は夢や希望かもしれない。
世の中には列に並ぶために列に並ぶ者がいる。縄張りにいたいからだ。
しかし、その縄張りに居続ける必要があるのか。
列に並ばなければ夢や希望は叶わない規則か。
夢や希望は叶えなければならない義務か。
楽しく満足な生活をしたいから叶えるならば、叶えずとも楽しく満足な生活をすればいい。
シャンシャンパナ案内「古川真人」
題名:シャンシャンパナ案内
著者:#古川真人
掲載誌:#すばる 2023年 12月号
素潜り遊び
文字を書き続けた経験はありますか?
学生のころ、無地のレポートパッドが流行った。数式やグラフを書くのに罫線が邪魔だったからだ。あの頃、ひたすら数式を弄り倒していた。
ふっとした瞬間に引き戻されて、唐揚げ弁当の安い日を思い出す。
シャンシャンパナ案内はそうやって書かれたのだろう。
改行の殆どない文章はなめらかに過去へと沈んでいく。
そして、沈みすぎ、息がもたなくなると、今に引き戻される。
引き戻された証のように改行が挟み込まれている。
文章が曖昧で、でも記憶ってものはそもそも曖昧で、なら思い出していく文章が曖昧なのはそのとおりなのだろうか?
ラストがシャンシャンパナ案内という小説の自己紹介になっている。
そして、ラストまでの道中がシャンシャンパナ案内の構造と重なる。
あのサザエはシャンシャンパナのモチーフである。
たぶん、思い出しただけ、いっぱい出るのだろう。
我が手の太陽「石田夏穂」
題名:我が手の太陽
著者:石田夏穂
出版社:講談社
肉体がままならぬ
自身の肉体を自由に扱う。動かすと念じなければ自由だ。念じれば不自由だ。
自由にできなくなる要因は様々ある。精神、成長、老い。本当は生物すべても肉体を自由に扱う経験がなく、常に不自由ではないか。
この不自由に気づいてはならない。念じてしまえば、不自由の不快感を見つけてしまう。囚われてしまう。
「ケーキの切れない非行少年たち」の中に、自分は優しい人間か? という問いに非行少年たちがイエスと答えた話がある。溶接にプライドを持つ主人公を見て、この話を思い出した。
自分は常に善で特別だ、そして、根拠を外から引っ張ってくる。主人公にとってそれが溶接だった。
溶接のいろははわからない。わかってもらおうとすれば説明的になるのに、それがちょうど良い塩梅になっている。うまい文章を書く人だ。羨ましい。
述べるように書き、感情を表す。「〇〇がヒューム肺」より、「ヒューム肺なら危ない。〇〇ではないか」とかけば心配が表れ出る。
すごい。
二人の合言葉は本「名倉有里 逢坂冬馬」
対談名:二人の合言葉は本
対談者:名倉有里 逢坂冬馬
掲載誌:文學界 2023年12月号
人の内、人の外
女が書けていない!
小説書きの中でまことしやかに噂される脅し文句だ。
もし、女が書けていないの評が真実ならば、女とはそれでなければならない。そんなことは生物なのだからありえない。
それ、は人の外の社会が作る型だ。人の内は誰も変わりないのではないか。
属性程度で型が変わる。不自由だ。
BLMの本を読んでいるなかで賛成できなかった部分があった。
警察は不要、我々は許し会える。どうしても警察が不要とは思えなかった。
だが、権力という方向から見ると、警察(自衛隊)と市民の関係は歪だ
前者だけが暴力を持ち、後者から暴力を取り上げる。前者の暴走は後者には止められない。
ショック・ドクトリンは今後の世界を見る重要なツールになる。
仕方ないが規制を許し、権力が奪われていく。日本を見てみよ。コロナのショックのうちに増税がまかり通っている。
増税より酷い悲劇が巻き起こっている。どうにかしなければいけない。が、増税は軽いから良し、としてはいけない。
「新しき村」の百年 〈愚者の園〉の真実「前田速夫」
題名:「新しき村」の百年 〈愚者の園〉の真実
著者:前田速夫
出版:新潮新書
はいはい、若者とスマホが悪い
新しき村は小説家の武者小路実篤が発起人となって作った共同体だ。
メンバーの殆どが芸術畑の者だ。普段、喧々諤々と理想を述べ、学ぶ彼らが理想を行うところである。
新しき村が日本の芸術界に与えた衝撃は大きく、昭和の思想を語る上で欠かせない。
この新書を読んで、オウム真理教が頭によぎった。
というのは新しき村で高齢化が問題に上がってきた際に、武者小路実篤の思想を一層勉強し崇める規則が生まれたからだ。
ユートピアがディストピアに落ちる。その一歩手前だったのではないか。武者小路実篤がビッグブラザーは止めて欲しい。
今の新しき村の余裕の無さは、現代社会を生きる人は共感するだろう。
人間から労働を搾取する現代社会と何が違うだろうか。
どちらも「生きる」ではなく「生かす」へ立ち戻るべきだ。
本書ではニート、フリーター、パラサイトが人生を疑っていないとあるが、彼らのこそ自身を「生かす」に苦闘する者だ。
水路「渡谷邦」
題名:水路
作者:渡谷邦
掲載誌:文學界 2023年12月号
過去であり未来、ではない
過去の自分と今の自分が同時に存在できたならどうする。
羊だったらもっと勉強しておけといいそうだ。
この小説の中では過去の自分を現在の自分が愛している。
それはつまり、過去の自分が愛されたいと無意識で思っているからだ。
過去の自分を愛することで、現在の自分は満たされる。エコである。
日々の生活は単調な繰り返しだ。
一方で転機もある。これを掴むと幸せになれる。
この転機は日々の生活に埋もれてしまっている。転機を掴んだのかもわからない。
過去の自分に現在の自分が転機を教えることはできない。
間違いを教えてしまえば、過去の自分は不幸に転がってしまう可能性もある。
自分は自分にも(もしかしたら自分だから)わからない。
しかし、自分がもう一人の自分を見たらわかるだろう。
子供の描く赤い太陽があるから、本物の太陽が白いとわかるような関係だ。
自分が幸福だと実感するには、不幸な自分が必要なのかもしれない。
不幸な自分を体験してみるのも効果的だろう。
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