【読書感想文】R帝国

 R帝国それがこの小説のタイトルだ。この単語は本文中に何度も、それこそ嫌になるほど出てくる。そして、Lというものも出てくる。これはR帝国と対峙する組織でいわば対の存在である。これは政治の右派(Right)と左派(Left)から取った言葉だ。本文を読めば、誰でもそう想像がつくように書かれている。このRとLとはこの小説を読み解くのにとても重要なキーワードだ。が、それぞれの視点に立って読んでも内容には反吐が出るだろう。この小説が面白いのは、内部構造にある。

 本文中でR側の人間は権力を利用し、あるとあらゆる悪行を行って、欲望を満たし、搾取している。一方、L側の人間は権力に立ち向かうも潰され、無力感に足を取られながらも、それでも進む。この小説は、R帝国というディストピアをL側の人間から書いたものだ。だから、悪のRと正義のL、という構図になっている。ここで頭を回転させてみよう。もし、悪のLと正義のRだったら、L帝国だったらどうか。言葉通り、RとLが入れ替わっただけで、権力者は搾取し、抵抗者はそれを告発するだろう。権力者が全能のように振る舞える構造、これがこの小説で重要なところだ。

 この権力構造を維持するためにR側が仕掛ける様々な操作が本文中に色々と出てくる。そして、それは「20%のチンパンジー、50%の流される人、30%のまともな人」という市民のありようを保つことが目標となっている。つまり、権力構造を維持するにはこのような市民にさせなければならない。逆に言えば、このような恐ろしい権力構造を持つ世界にしたくなければ、このような市民であってはいけない。この市民バランスをまともな人の方に傾ける必要がある。

 無気力でいるな、自分で考えろ、幸福を選び取れ、そうして、こんな恐ろしい世界は避けよう。それがこの小説が言いたいことだろう。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?