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羊の魅力を、最大限に楽しんでもらうためには?

部位ではなく産地ごとに提供する理由


「この羊肉、牛肉みたいにガツンとした旨みがあるんですよ」。

アメリカから届いたコーンフェッドラム。出荷の1ヶ月半前からトウモロコシで肥育された羊肉で、独特のクセはほぼ皆無。脂は甘く濃厚で、まるで牛肉のように旨みが凝縮された味わいです。

5月中旬。新たに取り扱いを始めた羊肉が、アメリカから空輸便にて店に到着しました。

ひつじアンダーグラウンドではアメリカのほか、オーストラリア・アイルランド・フランス・イタリアの海外産と国産の羊肉を提供していますが、こうしてあらゆる産地のものを扱っているのにもちゃんと理由があるんです。

「焼肉って、たとえば牛ならカルビやロースなど、部位の食べ比べを楽しんでもらうスタイルが多いですよね。じゃあ羊肉を楽しんでいただく場合は?と考えたときに、羊をあまり食べる習慣がないのに『羊の肩ロースです』と提供しても、お客さまにとってはあまり感動がないのかなと思うんです。でも、羊は諸外国では広く愛されているポピュラーなお肉。だったら、世界の羊の味わいの違いをお店で表現して、楽しんでいただけたらいいなと考えたんです

「羊肉は固体の大きさ自体が小さいので、あまり部位が取れないという理由もあります」と森保。

ただ、羊は非常に扱いが難しいという課題も。「鮮度の“鮮”という漢字って、魚に羊と書きますよね。これは、魚と羊は新鮮さが必要だという成り立ちなんだそうです。羊を冷凍庫などで雑に保管すると、脂が酸化して一気に独特の臭みが出てしまうんですよね」。

だからこそ、海外産のものは冷凍ではなくチルド状態で空輸できるものに限定。最高の状態で味の違いを食べ比べしていただいています。

「自己満かも」とメニューを刷新、国産羊に着目


こうした方向性にたどり着くまでにはもちろん試行錯誤がありました。そして、タイトルにある「羊の魅力を、最大限に楽しんでもらうためには?」という問いへの答えは、もちろん現在でも日々模索しているところなのです。

「実はオープン当初は、オーストラリアの羊肉をグラスフェッドやグレインフェッドといった餌の違いで提供していたんです。でもなんだか、お客さまの反応が薄いのが観察しているとわかるんですよね(笑)。『そもそも羊肉をあまり食べない人からしたら、味わいの違いについて来れないんじゃないか?これってもしかして、自己満なんじゃないか?』と気づいて、メニューを見直すことになったんです

時期はちょうどコロナ禍に差しかかった頃。流通量の多いオーストラリア産と、1%以下しか流通していない希少価値の高い国産羊に力を入れる方向へシフトチェンジを決めました。

羊も夏バテ!? 生育状況をこまめに確認 


その希少さゆえ、これまで国産羊の取り扱いはレストランやホテルなどがメインでした。ところがコロナ禍ということもあり、羊飼いさんたちの状況もガラリと一変。SNSを通じてダイレクトにつながり、お取り引きが始まることになったんです。

「国産羊の場合は、羊飼いさんの“人となり”をかなり大切しています」と森保。

「羊飼いさんって、本当に三者三様なんですよ。たとえば羊を食材として扱う方もいれば、羊に名前をつけていらっしゃるような方もいます。お仕事を応援したくなるような考え方やお人柄、そしてもちろんおいしさの部分も含めて、総合的に判断してお取り引きをさせていただくようにしています。また、日本では行政の支援がない分、生業として羊を扱うというのは本当に大変なことです。僕たちが取引先をコロコロ変えると羊飼いさんの収入も不安定になるため、長いお付き合いがしたいという想いも強いですね

現在ひつじアンダーグラウンドでお付き合いがあるのは、北海道恵庭市の「えこりん村」さん、美唄市の「西川農場」さん、士別市の「しずお農場」さん、知床市の「五味渕ひつじ農場」さん、佐呂間市の「めぇ〜めぇ〜牧場」さん、占冠村のトマムにある「トマムシープファーム」さんです。

現地へお伺いさせていただくほか、電話で生育状況のお話を伺うこともあります。「昨年の夏、みなさんの羊肉の肉質がいつもと少し違うなと思ったんです。『北海道、なんかあったんですか?』と聞くと、どうやら北海道も暑すぎて羊が餌を食べなくなったそうなんですね。そうなると水をたくさん飲むので、これまでと肉質が全然違うのが一目瞭然でした。そんなことも羊飼いさんたちとお話しています」。

牛・豚・鶏は国から大規模な冷却設備の導入がありますが、羊の場合は自費になるそう。生育に非常にコストがかかるため、味わえる場所がかなり限られるという課題もあります。しかし裏を返せば、私たちにとっては貴重な国産羊を提供できるという強みにもつながるとも考えています。

羊を楽しむための名脇役

香りが控えめで上品な味わいの国産羊には、同じ北海道の土地でとれたまろやかな海塩を添えたり。もう少し香りの強い海外産の羊にはパンチの効いたヒマラヤ岩塩を添えたり。羊の味わいを際立たせるために、それぞれに合った焼き方はもちろんのこと、塩にもこだわっています。

産地ごとに香りや味わいの違いがハッキリとしている羊肉は、まるでワインのように楽しめますよね。ワインといえば、羊にまつわるエピソードも楽しいこんな一本も人気。

Vermentuzzo (ヴェルメントゥッツォ)

こちらは、なんとイタリアの羊飼いさんが手がけている”羊飼いのワイン”。農場の牧草から作られている素朴なワインラベルも印象的です。

Oveja Negra(オヴェハ・ネグラ)

スペイン語で「黒い羊」を意味するチリワイン。「変わり者」「みんなと同じ行動を取らない」という意味もあり、実はこの生産者は、チリで最初に環境保全型生産を認定されたのだとか。まさに群れからはみ出した一頭のように個性的。

こうして、お肉以外の部分にもたっぷりこだわって、羊の魅力を全力でお届けしてまいります。


この記事がちょうど公開された頃、私たちは北海道の牧場視察を終えて神戸に戻ってきます。次回のnoteでは、現地でのエピソードもお伝えさせていただければと思いますので、ぜひお楽しみに!

▶︎「ひつじアンダーグラウンド」は、神戸で飲食店を展開する株式会社ファイブスクエアの運営するお店です。系列店舗のnoteも、ぜひご覧ください!


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