スキンヘッドで半年過ごしてみたらプラス40点でオススメだった話
けさ、頭を剃った。いや、「けさも」というべきか。
電気シェーバーを頭皮の上で滑らせること約10分。生えかけてジョリジョリしていた髪の毛はつるりと剃り上げられて、ぼくは満足してその作業を終えた。
眉毛やまつ毛まで剃ることはない。いや、でもひげはいっしょに剃ってしまうことが多いけれど。
ぼくがいわゆるスキンヘッドという髪型を選択して、そろそろ半年になる。
発端は、今年四月の緊急事態宣言だ。本当は三月時点くらいから「そろそろ髪切らないと」と思っていたけれど、美容院に行くのを先延ばしにしている状態だった。
そろそろ行かなくては。でも行くのは気が引ける。
みんなどう考えているんだろう?
会社の同僚たちに意見を伺ってみた。同僚の多くは、伸びる髪のうっとおしさを許容し、当面そのまま伸びるに任せることを選択していた。
ぼくも同じ選択をするというのは、あまり面白くないと思った。というかそれ以上に「無理だ」と思った。
昔はそれほどでもなかった気がするのだけれど、歳を取って髪の毛にクセが強く出てきていた。伸ばしていると非常にみっともないことになることは目に見えていた。そして思った。
「なら、もうスキンヘッドにしちゃえばいいんじゃないか?」
ぼくの髪にクセの片鱗が出始めたのは高校生のころで、母親からの指摘で頭髪の妙な〝うねり〟に気付いた僕は、行きつけだった美容院で髪を切るついで、ちょっとチャラいけど笑顔のほがらかな美容師のあんちゃん(決してバカにしているわけではなくて、ほんとうに『あんちゃん』感のすごい人だったのだ、元気かな)に〝うねり〟のことを相談した。
ぼくの相談を聞き終えたあんちゃんは、おもむろに両手の人さし指を軽く曲げて立てて見せた。
そして、両手の人差し指の先同士を互い違いの向きで合わせる。人差し指ふたつで、まるでコート掛けにぶらさがっているようなS字フックに似た形ができた。
『これが今の髪ね、それで——チョキンと切ると』
彼は続けて、S字フックから片方の人差し指を取り去った。S字フックはなくなって、ただの弧が残った。
『クセは同じでも、短くなった方がうねって見えないよね』
見た目に無頓着な高校生にも、この上なくわかりやすい説明だった。
髪が短いほどクセは目立たなくなる。
『たしかに——』
ぼくは答えた。
『じゃあ、めっちゃ短くしてください』
『おっけー』
そういうわけで、それ以来ぼくは(たまに気分の問題で例外はあったけれど、基本的には)美容院ではずっとベリーショートの髪型をオーダーするのがお決まりだった。
この習慣ももう長い。こんな世の中だし、ちょっと変わったことがしたい。現実逃避という言い方もできるかもしれない。
とにかく、できそうだし、やっていいだろうと思った。
当時、弊社は在宅勤務になっていて、だから時間の都合は比較的簡単についた。
急ぎ、インターネットで情報を集める。
どうやらカミソリでもいいし、ちゃんとしたシェーバーがあるならそれでもいいようだ。
早速、近所の電器屋さんでバリカンと髭剃り用シェーバーを購入する。
なぜバリカンが必要なのかというと、まずは髪を数ミリ残して刈り上げた状態を作って、それからシェーバーで剃り上げるのが王道のようだったからだ。
鼻息荒く帰宅して、早速、新聞紙をベランダに敷く。その上に四つん這いになって、バリカンのスイッチを入れる。勢いが大事だと思った。
前頭部から後頭部にかけて、なんとなく当てて、動かしてみる。
思いのほかおとなしめの音と、電動シェーバーのフィードバックを数段強くしたような感触があって、それから、ぱた、と音を立てて、新聞紙の上に黒い塊が落ちた。なかなか迫力のある光景だった。
風が吹いて、新聞紙の上の髪の毛を少し動かした。頭の一部分だけ、明らか涼しさを感じる。
もう後戻りはできないぞ、と思った。
「世の中には少ない髪の毛を必死で守り抜いている人もいるというのに、こんなことをしていいのだろうか?」
「頭皮が露出するということは、頭皮へのダメージも増えることだろう。これがぼくのハゲルートへの分岐点になるのでは?」
「というか、単に『二十代にしてハゲてきたのでスキンヘッドにした人』に見られるのか?」
ここまで本当に勢いで行動してきたので、このタイミングでやっと色々な不安が脳裏をよぎり始める。
最悪、緊急事態宣言のせいにして出社拒否して、ネットスーパーとAmazon Primeで生活すればいい。
バリカンで刈り終えてしまえば、あとは、「やたら面積の広いひげ」とあまり変わりない。
だからここから先はあまり面白くなかった。根気強くシェーバーを動かして(それでも最初は慣れなかったので)数十分。
かくしてぼくはスキンヘッドのアラサー男になった。
それからだいたい半年が経った。
結論から言って、だいぶ気に入っている。いいこととわるいことがあって、両方を総合してやっぱり気に入っている。
せっかくだから、思いつくままに並べてみようと思う。括弧内には雰囲気で評価した点数を入れてみた。
デケデケデケデケデケ〜(スプラトゥーンのフェスのときのアレ)
わるいこと
・バリカンと電動シェーバーを買った初期投資額がけっこうしたので、(こっそり期待していた)お金の節約にはあまりならなかった。計算したところによると、回収のためにはもう一年ほど続ける必要がある。(-5点)
・首を突っ込むタイプのシャツ(Tシャツなどもそうだ)を着るとき、生えかけの髪の毛が引っかかって脱ぎにくい・いやな音を立てる(地味にいやなのだ)。(-5点)
・伸びてくるのは思いのほか早い。一週間も放っておけば簡単に「普通の坊主頭」になる。アイデンティティを守るためには、三日に一度は剃る必要がある。(-20点)
・剃るのはやはり手間。電動シェーバーでも20分くらいかかる(-10点)
・シェーバー内に髪の毛の粉が溜まるので、分解と清掃をこまめにする必要がある。(-10点)
・日差しの強い日には帽子がいる(-15点)
・快適なので他の人にも無差別にスキンヘッドを勧めるようになる(-5点)
いいこと
・きれいに剃れると嬉しい。上達する余地はけっこうあり、日々の趣味として楽しめる人はいそうな気配がある。(+5点)
・部屋に抜け毛が落ちない。排水溝にも髪の毛が絡まない。(+20点)
・風呂でシャンプーとコンディショナーに使っていた時間をほぼスキップできる。(+30点)
・寝ぐせがつかないので、顔さえ洗えば服を着て一瞬で出かけられる。(+30点)
・自転車通勤族なので会社に着いてヘルメットを脱ぐわけだが、ここでも汗でつぶれた(でも周辺部は汗の影響を受けていないのでぶざまな感じになる)髪型の心配をしなくてよい(+15点)
・外で「そろそろ美容院(床屋)行かなきゃ〜」と言っている人に対して謎の優越感をおぼえられる。(+10点)
結果
・わるいこと…… -70点
・いいこと …… +110点
いいこと かち!(スプラトゥーンのフェスの結果発表のときのアレ)
プラス40点の勝ち越し(?)である。ダブルスコアではないが、そこそこおすすめだと言えるのではないだろうか。
そんなわけで、
・スキンヘッドに抵抗がない
・くせ毛への対処に疲弊している
・寝ぐせを直すのが面倒
・風呂をサッと済ませたい
という方であれば、ぜひ(勢いで)「剃ってみる」ことをおすすめしたい。
いろいろ調べたところによると、まだまだ剃髪の世界は奥が深いようで、これからもう少し勉強していこうと思う。きっとガチ勢的な方もいらっしゃると思うので、そういった方に怒られない程度にオススメできたらいいのだが、と思い、本記事をしたためた次第である。
——なお、緊急事態宣言開けに久しぶりに出社してきた同僚の方に、「ミタさんwwwwハゲてるwwwwwwwwww」と爆笑され、ぼくは「ハゲてないですよ!!!!!」と、ありがちな感じにリアクションしてみせた。
久しぶりに会った同僚と、そんなどーしようもない茶番が演じられて嬉しかった。ぼくとしては、なんだかもうそれだけで元が取れたような気分だった。
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