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旅のきおく
年の瀬から旅をしている。ここはどこでもない、どこかの島。だれも知らないまま、少しだけの情報交換。野良犬が4匹、一緒にいるところを何度か見かけた。発泡スチロールのふたに重なるように丸くなるねこたち。猫の多い島だ。いや。野良犬が暮らしにくい世界ということだろう。
食べなれない料理を選んで食べると、新しい風景が見える、とだれかが言った。透明で、なぜだかふしぎに青い海。波は何度打ち寄せただろうか。白い泡。だれも知らないことが、そのままのかたちでここにはある。ウミウシのランデブー。海鳥のゆううつ。
鳥が鳴いた。なにかの合図だろうか。古びた店が多く、活気はない。すっかり年を取った女性のしわが印象的だった。ポストの赤と、名前の知らない花たちだけがあざやかに揺れている。
わたしを思い出す人がひとりいるだろう。もうひとり、ちいさい人もいるかもしれない。絵葉書をかく。帰る場所。くすりゆびにはなにもない。
風が強いから、帽子をかぶって外へ出よう。
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