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【ランド・オブ・ニンジャ】

 1987年に米国で販売開始された、アバロンヒル社のTRPG『ルーンクエスト』のサプリメントのひとつ。ホビージャパン社が日本に輸入・翻訳して発売を予定していた。
 TRPGに詳しくない方に分かりやすく言うと、要するに「ルーンクエスト」というゲームを日本(古代~中世くらいの時代がモデル)を舞台として遊ぶための追加セットである。アメリカでは1980年代から小説『ザ・ニンジャ』、映画『燃えよニンジャ』、コミック『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』などの作品がヒットし、忍者ブームが過熱していた。

 1990年12月、差別用語や差別的な用語・設定が含まれているとして部落解放同盟が問題化した。解放同盟は調査団を販売元アバロンヒル社に乗りこませ、同社は在庫放棄して、ホビージャパンが予定していた日本語版の発売は中止。すでに日本に輸入されていた分の原語版も回収処分となった。

 本サプリメントの特徴として、過去の日本の身分制度をルールに取り入れており、プレイヤーがなれる立場として「公家」「武士」「平民」「忍者」などと並び「エタ」「ヒニン」「アイヌ」などが存在していた。また、この身分の上下関係がルールと絡み合うシステムが採用されていた。
 高木正幸『差別用語の基礎知識’99』によると内容は

「プレイヤーブック」に「エタ・・・不賤民。もっとも低い社会的身分。彼らは死体や糞便・汚物を扱ったり、畜殺を行うからである。また、それら一般社会の外に忍者、盗賊、芸人といった形式でも存在する」「ヒニン・・・エタの中でももっとも低い身分。葬儀屋や死刑執行人のように”死”を扱う」「アイヌ・・・毛深い」などの説明がなされていた。サイコロの目が6だったら「エタ」、「公家」と「武士」には多額の収入があり、身分が低い役柄になるとほかの役の参加者は「おねげーでございますだ、お侍様ぁー」などと尊敬や畏敬の言葉を献上しなければならない

高木正幸『差別用語の基礎知識’99』土曜美術社出版販売

 といったものであった。
 上記のほかに朝日新聞の報道ではアイヌを「野蛮人」(英語のbarbarianか)としている記載もあったという。

 当時のアバロンヒル社長は「米国ではニンジャへのあこがれが強いので、このゲームをつくった。ゲームは空想の世界で楽しむためのもので、人を傷つけるつもりはない」と明言している。また「さっそく調査し、もし、だれかに迷惑をかけたのなら、問題点を直していきたい」とも述べており、日本語訳の発売を計画しているホビージャパンの栗田祥男制作課長も「訳では差別語の部分を削除することを検討している」などと調整に意欲的であったが販売停止に追い込まれた。

 ちなみに本作が過去の差別を扱っているものではあっても、侮辱的に誤って描かれているのではないことは、有志による和訳同人版を実際に見たという人から発信されている。

 また、本作を含む『ルーンクエスト』のWeb小説を執筆している「規定千尋」氏なども、むしろよく調べているがゆえの「事実陳列罪」的な叩きによるものであったと感想を述べている。

 なお、本件のバッシングの発端となった北口学という人物は、本作を糾弾する『朝日ジャーナル』の記事(1990年12月28日号)で、【ファイナルファンタジーⅢ】をも槍玉に上げている。

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大流行の米ゲーム「ニンジャ」に差別語 部落解放同盟調査へ【大阪】
  米国で大流行し、日本にも輸入されているテーブルトーク・ゲーム「ランド・オブ・ニンジャ」の説明書の中に複数の差別語とその解説が掲載され、「アイヌは野蛮人」という記述もあることが分かり、部落解放同盟中央本部は世界人権デーの10日、渡米調査に乗り出すことを決めた。封建時代から現在まで、多くの人を傷つけてきた差別的な制度や用語がこのゲームの基本ルールの一部をなしていることから、同本部は「日米の若者に与える悪影響があまりにも大きい」としている。一昨年から昨年にかけて「『【ちびくろサンボ】』やカルピスの『黒人』マークは人種差別」という指摘が国内外からあり、日本人の人権感覚が問われたが、今回は、米国で日本の人権問題への理解が欠けていることが明るみに出た形だ。
 問題のゲームは、参加者が登場人物になり、怪物などと戦いながら目的地までの旅をするロールプレーイング・ゲーム(RPG)の一種で、1987年、「ザ・アバロンヒル・ゲームカンパニー」(本社・米国メリーランド州ボルティモア)が売り出した。これまでに売れたセット数は公表されていないが、映画などのニンジャ・ブームにも助けられ、全米で10代から20代の若者、大学生を中心に大流行しているという。1、2年前から日本にも1セット4500円で輸入され始め、ゲームの大手輸入販売会社によると、1000部近くが日本に入っているらしい。
 ゲームは日本の封建社会が舞台になっており、3、4人の「プレーヤー」が、武士、農民、僧りょ、神官、忍者などの職業のどれかになる。ゲームの進行役を務める「ゲームマスター」の指示に従いながら持ち点とサイコロを使い、忍者やよう怪の襲撃などの苦難と戦いながら旅をして”若君”や”姫”を救出する。
 ゲームのセットに入っている資料は、日本の社会制度、宗教、怪談などを詳しく解説している。問題になっているのは、あらゆる職業が公家、武家、平民、「エタ」の4つの階層に属する、としている部分など。
 また、資料の導入部でも、これら差別語について記述を加えている。
 「差別と闘う文化会議」(野間宏議長)のメンバーで部落史を研究している北口学さん(31)の調べなどからわかり、部落解放同盟中央本部はゲームの翻訳を始めた。衆議院議員(社会)でもある小森龍邦書記長は、調査団をつくり来月にも渡米し、アバロンヒルの調査などをする予定。「日本の差別への取り組みを米国にも理解してもらえるよう、現地の人権団体とも相談して対策を考えたい」と話している。
 アバロンヒルのジャクソン・ドット社長は「米国ではニンジャへのあこがれが強いので、このゲームをつくった。ゲームは空想の世界で楽しむためのもので、人を傷つけるつもりはない。さっそく調査し、もし、だれかに迷惑をかけたのなら、問題点を直していきたい」。来年8月、日本語訳の発売を計画しているホビージャパンの栗田祥男制作課長も「訳では差別語の部分を削除することを検討している」と話している。

 ●差別への理解、米国でも不足
 亀井俊介東大教授(アメリカ文化)の話 人種差別に敏感な国で、差別を助長するようなゲームができたことは意外だ。日本で多くの人がカルピスの「黒人」マークは差別でない、と思っていても、米国人が差別と感じたように、米国で日本社会に対する理解が足りないことがこのような形で表れたといえる。
    ◇    ◇    ◇
 <テーブルトーク・ゲーム> ロールプレーイング・ゲームには「ドラゴンクエスト」に代表される家庭用テレビゲーム機タイプとは別に、画面は使わず本に描かれたストーリーや会話、想像を楽しむテーブルトーク・タイプがある。参加者がゲームのシナリオに出てくる人物になって、持ち点を使って怪物などと戦いながら冒険する。

『朝日新聞』1990年12月10日夕刊

米国製ゲームに差別語 封建社会舞台の忍者もの 解放同盟が調査へ
 米国で大流行し、日本にも輸入されているテーブルトーク・ゲーム「ランド・オブ・ニンジャ」の説明書の中に複数の差別語とその解説が掲載されていることが分かり、部落解放同盟中央本部は12日までに、渡米調査に乗り出すことを決めた・差別的な制度や用語がこのゲームの基本ルールの一部をなしていることから、同本部は「日米の若者に与える悪影響があまりにも大きい」としている。
 問題のゲームは、参加者が登場人物になり、怪物などと戦いながら目的地までの旅をするロールプレイングゲームの一種で、1987年に「ザ・アバロンヒル・ゲームカンパニー」(本社・米国メリーランド州ボルティモア)が売り出した。
 1、2年前から日本にも1セット4500円で輸入され始め、ゲームの大手輸入販売会社によると、1000部近くが日本に入っているらしい。
 ゲームは日本の封建社会が舞台になっており、3、4人の「プレーヤー」が、武士、農民、僧りょ、神官、忍者などの職業のどれかになる。サイコロを使い、忍者や妖怪(ようかい)と戦いながら旅をして『若君』や『姫』を救出する。
 ゲームの資料では、日本の社会制度、宗教、怪談などを詳しく解説している。問題になっているのは、あらゆる職業が公家、武家、平民、「エタ」の4つの階層に属する、としている部分など。
 「差別と闘う文化会議」(野間宏議長)のメンバーで部落史を研究している北口学さん(31)の調べなどからわかり、部落解放同盟中央本部は調査団を来月にも渡米させ、アバロンヒルの調査などをする予定。
 アバロンヒルのジャクソン・ドット社長は「ゲームは空想の世界で楽しむためのもので、人を傷つけるつもりはない。さっそく調査する」といい、来年8月、日本語訳の発売を計画している「ホビージャパン」(東京)の栗田祥男制作課長も「訳では差別語の部分を削除することを検討している」と話している。

 〇足りぬ日本への理解
 亀井俊介東大教授(アメリカ文化)の話 人種差別に敏感な国で、差別を助長するようなゲームができたことは意外だ。日本で多くの人がカルピスの「黒人」マークは差別でない、と思っていても、米国人が差別と感じたように、米国で日本社会に対する理解が足りないことがこのような形で表れたといえる。

『朝日新聞』1990年12月13日朝刊

差別語使用のゲーム、米で販売中止に 国内でも回収
 米国で若者らに人気を呼んでいるテーブルトーク・ゲーム「ランド・オブ・ニンジャ」のルールに「エタ」「ヒニン」などの差別語が使われている問題で、製造元の大手ゲーム会社ザ・アバロンヒル・ゲームカンパニー(本社・米国メリーランド州ボルティモア)は18日までに、このゲームの製造・販売を中止した。
 部落解放同盟が調査を始めたことを知り「人を傷つけるのは本意ではない」とすばやく反応した。
 日本国内でも輸入代理店が回収を始めた。

『朝日新聞』1990年12月19日朝刊

参考リンク・資料:

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