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 近代絵画創始者の一人と言われるスペインの巨匠、フランシス・デ・ゴヤによって1797~1800年にかけて制作された名画。西洋絵画史上初めて「女性の陰毛を描いた」として知られる。
 2022年現在、姉妹作「着衣のマハ」とともにマドリードのプラド美術館に収蔵されている。

西洋絵画美術館より

 当時、通常描かれることのなかった制作当時においても、堂々と公開されていたわけではなかったらしい。「裸のマハ」には対になる「着衣のマハ」という作品があるが、一説によると以下の経緯があるらしい。

女神の名を借りて描かれた裸体画を私的な空間に展示する場合であっても、客人などの目に不用意にふれないように、時としてエロティックな絵画はカーテンのような幕によって隠され、その作品の主が望んだ時にだけ覆いが取り払われたのである。
スペインの巨匠ゴヤが1800年頃に描いた《裸のマハ》の場合はより手の込んだ偽装工作がおこなわれている。一説によると、ゴヤは実在した女性の裸体、しかも普通は表現しない陰部の毛まで描かれたこの横臥像を隠すために、作品依頼者の命によって同じ女性が服を着た《着衣のマハ》を制作したといわれている。

加藤志織「芸術と美術館と検閲」 

 実際、本作の当初の所有者はスペイン首相マヌエル・デ・ドゴイであったが、彼は自宅玄関に「着衣のマハ」が「裸のマハ」を隠すように重ねて掲示しており、「裸のマハ」は滑車式吊り下げ機械によっていつでも公開できるようになっていたという。

ペンシルヴァニア州立大学撤去事件

 アメリカのペンシルヴァニア州立大学では、美術史の講義に使用するある教室に「裸のマハ」のレプリカを(他の名画とともに)展示していた。
 しかし1992年、ナンシー・スタンホーファーという女性教授(英語学)が「裸のマハ」は自分や女子生徒を「不快にさせる」ものだと抗議した。同大学ではセクシャル・ハラスメントを「性的なことがらについて人を不快にさせるすべてのもの」と定義していた。
 大学側はスタンホーファー教授に対し、

・教室の後方など教室内の目立たない位置に移動させる
・スタンホーファー教授の授業時間に本作を外す
・スタンホーファー教授の講義を別教室に移動させる

 といった案を出したが、彼女は「裸のマハ」をキャンパス内のどの教室からも完全に撤去しない限り納得しなかった。大学は彼女の要求に屈し、この名画を撤去した。(ナディーン・ストロッセン『ポルノグラフィ防衛論 アメリカのセクハラ攻撃・ポルノ規制の危険性』による)

 なおこの直後、スタンホーファーは同学内で同じような裸婦画が多数掲載された書籍【イメージ 視覚とメディア】を「啓蒙」のためにコピーして配布した結果、男性職員からセクハラで訴えられた。

「絶滅への反逆」の抗議事件

 2022年11月5日にプラド美術館で、環境保護団体「絶滅への反逆」の活動家2名が、本作と「着衣のマハ」両方の額縁に自らの手を接着剤で貼り付けて抗議活動をする事件があった。こうした環境問題関連のアピールのためのテロ行為を【エコテロリズム】と呼ぶ。
  両名は双方の作品のあいだの壁に「+1.5℃」とも落書きをし、気候変動への抗議をアピールした。
 両名は逮捕され、絵画本体に損傷はなかった。

参考リンク・資料:

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