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【日本テレビビデオテープ押収事件】

【取材の自由】と、捜査機関による差押押収の権限との比較衡量が問題となった著名判例。【博多駅テレビフィルム提出命令事件】では提出命令を出したのは裁判所の権限であったが、捜査機関でも同様に差押による「取材の自由の制約」が認められるかが争われた。直後の類似事件に【TBSビデオテープ押収事件】がある。
 
 押収されたビデオテープの内容は、1988年に大きな話題となった疑獄「リクルート事件」に関するものである。
 同事件は、川崎駅(神奈川県川崎市)前の再整備に伴い、リクルートコスモス社の未公開株が政官財界の著名人に賄賂として譲渡されたというもので、譲渡を受けた政治家には中曽根康弘・竹下登・安倍晋太郎・渡辺美智雄・森喜朗といった現在まで著名な人々が多くいる。
 余談ながら、よく政治家批判で戯画的に言われる「不祥事に際し『秘書が秘書が』と言い逃れる政治家」というイメージは、本事件報道における政治家の対応のそれが由来となっている。
 この疑獄を追及していた楢崎弥之助議員(社会民主連合)に対し、リクルートコスモスの社長室室長松原弘氏が、追及の手を緩めて欲しいと贈賄を持ちかけた。しかし楢崎議員自身が依頼していた日本テレビによる隠し撮りによってその行為が露見した。これが本件のビデオテープである。
 その後、松原氏が刑事告発され、1988年11月1日に東京地検特捜部は本件ビデオテープを証拠として押収。
 この押収に対し日本テレビ側が準抗告したのが経緯である。

 最高裁は、博多駅テレビフィルム提出命令事件の要旨を踏襲し、

国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。同決定の趣旨に徴し、取材の自由が適正迅速な捜査のためにある程度の制約を受けることのあることも、またやむを得ない

本件最高裁判決

 と述べ、

差押の可否を決するに当たつては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによつて報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることはいうまでもない

本件最高裁判決

 としている。すなわち、捜査機関による押収の場合でも裁判所の提出命令と同じく、取材の自由との比較衡量で差押えの可否を判断するとした。

 その上で、本来ビデオテープが楢崎議員自身が刑事告発と自身の潔白主張を見据えて、依頼の上で撮影されたものであり、取材対象者との信頼関係の問題が本件においては発生しないこと。また放映はすでになされていることを勘案して、現金供与の趣旨解明の必要性が高く、差押えを可とした。
 これについては、一次案を超えた将来にわたる取材の自由が妨げられるおそれについて軽視しているのではないかとして、島谷六郎裁判官が反対意見を述べている。

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