『表現の自由の問題としてのプロゲーマー炎上事件』2022-02-28
※本ページはセンサイクロペディア【たぬかな】の項からも転送されます。
2022年2月の後半、いわゆる「表現の自由界隈」にまた大きな論争が生じている。
2022年2月15日、日本では2番目(登場順的な意味で)の女性プロゲーマー・たぬかな氏の「身長170㎝以下の男に人権は無い」という発言が炎上し、契約事務所であるブロードメディアeスポーツ株式会社や、スポンサーであるREDBULLから「縁切り」されたという話である。
日本ではゲーム大会の賞金に法的制限があるなどの問題があり、現実的ににeスポーツを「プロ」としてやっていくにはスポンサーの介在がほぼ必須になるらしい。
つまりたぬかな氏は実質的に失職したと言って良い状況のようである。
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この事態をどのように評価するかで、ふだん「表現の自由」を掲げ、フェミニストなどの理不尽な難癖を批判している層においても意見が分かれている。
特にこの騒動を「キャンセルカルチャー」と評価するか、という点が問題になっているのだ。たとえば手嶋海嶺氏やとつげき東北氏はこれをキャンセルカルチャーとして批判しているが、トゥーンベリ・ゴン氏などは否定している。
表現の自由の問題ではない、という人までいるようだ。
結論を先取りして筆者の意見を言わせてもらえば、まさにこれはキャンセルカルチャー問題であるし、表現の自由の問題でもある。
人権発言とはなにか。
だがその理屈を説明する前に、まずは本人の当該発言を再確認しよう。
話の流れとしてはまず配信中に「UberEatsの配達員から商品受け取り後、もう一度チャイムを鳴らされて連絡先を聞かれた」という回想があった。その憤りがおそらく話しているうちにエスカレートして件の配達員の身長ディスりに発展。そしてリアルタイムでついた視聴者コメントに対し、話の流れでヒートアップして件の「人権」発言に繋がったという流れである。
そして以下が、上記発言をリアルタイムで観ていた視聴者のコメントに対する反応である。コメントそのものは現在すでに確認不能で、たぬかな氏本人の発言しか残っていないようである。
ムキムキでもお客さんの個人情報聞き出そうとする男は止めた方がいいのでは。
あとどうせ骨延長手術の話とか情報源『バキ』とかやろ。その手のマンガ知識しかありそうにないわこの女。
――という素朴な感想はともかく。
現在ネット上で出回っている動画や情報の拡散状況には極めて問題がある。動画の切り取りも「人権発言」から始まっているものが多く、Uber配達員に対する憤りからの流れであることを認識しないまま叩いている者は極めて多いと思われる。
このあたりは失言報道あるあるだが、そのような形で拡散しているネット民は、自民党政治家などに対する左派系マスコミの「切り取り」をまったく笑うことができないだろう。
また、Aカップ発言についても、同じ配信中での「男にだってルッキズムあるでしょ?いいじゃん私にあったって」という意味合いでおっぱいを例に挙げただけのようである。(本当に男の大多数がそう思っているかの当否はさておき)Aカップの人が否定されるべきだと本人が思っているわけではない。
しかしどうやらAカップを後述のまとめなどの影響で「積み重ねられた過去の暴言」だと思い込んでいる人が多いようだ。
ちなみに私のようにフェミニスト女性の暴言などに普段触れていると、こうした「被害報告的な口ぶりでの私モテるのよアピール見え見えナンパ体験談」の類が全く信用できなくなってくるのだが、ここではそれは措こう。たぬかな氏のUberの話が全くの作り話……という可能性は大きくないと筆者は考えている。
この後、批判を受けて彼女は謝罪を2度発表している。一度目が批判を受けたので、二度目により「まじめくさった」表現に直したようである。
この後、16~17日にかけて、彼女が所属するプロゲーマーチーム事務所による謝罪メッセージや、スポンサーであるREDBULLからの彼女の紹介ページ削除、事務所からの契約解除と、彼女の「切り捨て」が進行していく。
「過去の暴言」の正体
それと同時進行して行われたのが、彼女の「過去の暴言」と称する要約情報の拡散だ。
この流れについては丹羽薫ちゃん氏のnote記事に詳しいが、まずは拡散ツイートを見てみよう。
Aカップ発言がここでも「過去の発言」ということになっているあたり、まとめた者拡散した者がいい加減に彼女の情報を取り扱っていたかわかる。
これら「発言まとめ」は英訳版まで作られて世界的に拡散されている。
そして、実際にネット世論において彼女を叩くというか、擁護派の口封じをする決定的な役割を担ったのは、人権発言ではなくむしろこれらの過去発言の方であったという。
しかし、よく内容を読み直してみると、どうもおかしい。
黒人、実家暮らしの男、30過ぎの女、LGBT、鬱病……と、嫌っているらしき属性に一貫性がない。節操なく、しかしながら「叩いたらマズいことになりそうな相手」ばかりを叩いていることになっている。
170㎝発言の動画とだけ照らし合わせても不自然に思える。
高身長やムキムキへの偏愛を口にしているのに黒人が嫌いなのだろうか?
ハゲには優しいって言ってなかったっけ?
挙句の果てに「羊水が腐っている」など、明らかに別人の発言を引っ張ってきたものまで混じっている。
そう。
実はこれ、ほとんど全部が事実無根なのだ。
例外としては「自殺しろ発言」というのが今回の170㎝以外のほぼ唯一の実在発言だが、これはそもそも視聴者コメントで「この世から消えろ、ブス死ね」などと書き込まれたことに怒ってのもの。だとしても褒められたものではないが、内容としては同じことを対等に言い返しているだけである。
というかこの動画は彼女の誕生日の配信であったらしく、まあ人様のバースデーパーティーにそんなこと言いながら乱入してくる奴は、そのぐらい言い返されてもしょうがないのではないだろうか。
もちろん、これ以前の情報はない以上、この言われた人物とたぬかな氏の間にこれに先行する何らかのやり取りがあって、たぬかな氏に先行する非があったという可能性もなくはない。が、それはあくまで理屈の上での話。これだけ大勢が掘り返そうとしまくっているのにそんな情報は出てこないのだから、それがある可能性は低いだろう。
韓国人はゲイと言った?
ちなみに丹羽薫ちゃん氏が触れていないデマもある。
拡散要約では「韓国人はゲイ」と書かれているのがそれだ。
韓国人はゲイ――まるでたぬかな氏が韓国人という属性そのものとゲイを結び付けたかのようだ。「みんな」とまで付けているものまである。
しかし、真相はまるで異なる。
ゲイ話の出典は、コッコマ氏という特定の韓国人ゲーマーとの動画なのだ。
この動画では確かに彼がゲイ呼ばわりされて怒っているシーンが映っているのだが、「韓国人はみんな」などという主語の大きい話ではない。あくまでコッコマ氏個人の話だ。
しかも、たぬかな氏が言ったのは「Really?(本当?)」「Everyone say kokkoma is gay.(みんながコッコマはゲイだって)」という言葉に過ぎない。おそらくコメントに書き込まれたものに応答しただけだ。
また「コッコマ たぬかな」で検索すると興味深い情報が出てくる。
「コッコマ氏とたぬかな氏は元々仲の良い知り合い」「コッコマ氏はゲイネタとキレ芸の持ち主」……これらの情報を、件の動画に当てはめてみると、こういうことになるだろう。
1.コッコマ氏は以前からゲイネタを用いて笑いを取っていた。
↓
2.それを知っている視聴者たちが、たぬかな氏と彼の動画でコメントにそれを書き込んだ。
↓
3.たぬかな氏が動画内で「ほんと?」「みんながコッコマの事ゲイって言ってるよ」と発言。
↓
4.コッコマ氏、得意の「キレ芸」を披露。
これが「韓国人はゲイという差別発言」にされてしまったのだ。
そもそも一連のゲイ話に、コッコマ氏が韓国人であることは何の関係もない。しかしこの件をたぬかな叩きに用いる記事や動画タイトル、ツイートに至るまで、執拗に「韓国人」を強調している。たぬかな氏を差別者に仕立て上げるために、彼の韓国人という《被差別属性》が利用されているのだ。
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