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【イメージ 視覚とメディア】

 イギリスの美術評論家ジョン・バージャー(John Berger)の1972年の著書。原題"Ways of Seeing"。

 イメージが氾濫する時代において、「ものを見る」とはどのような意味を持つのだろうか。今日もなお視覚論の中核でありつづけるこのテーマに、様々な角度から新たな問題提起をしたのが本書である。メディアとしての油彩画のありよう、裸体の持つ意味と〈富=所有〉の関係、美術館の成立経緯、古典的絵画から現代のコマーシャル・フォトへとつながる系譜とは? 美術市場の名画や巷に流布する広告など、多種多様なイメージ群を提示しつつ、それらを等価に論じ、「見ること」そのものの再検討を迫ったロングセラー。

『イメージ 資格とメディア』ちくま学芸文庫版裏表紙紹介より

 同書は特に女性の描かれ方について相当の紙数を割いているが、相当数の裸婦画の写真を掲載している。

 1992年、女性教授ナンシー・スタンホーファー(Nancy Stumhofer)が【裸のマハ】をペンシルヴァニア州立大学の教室から撤去させる事件があった。
 が、それからほどなくしてこのスタンホーファー本人が男性職員からセクハラで訴えられた。この本を「啓蒙」のためにコピーして配布したためである。
 彼女自身は次のように述べている(文中の『絵画の見方』とは同書のことである)。

 教職員に芸術の新しい鑑賞方法を説明するつもりで、ジョン・バージャーの『絵画の見方』〈Ways of seeing〉の一部を配布し、これをもとに皆で一緒に語り合うつもりだった。バージャーは女性の肖像を男性の視線の永遠なる対象としてみなし、様々な裸体の女性の絵を紹介している。しかし芸術において女性がどのように描写されているかについて人々を啓蒙しようとする私の試みは、思いも寄らぬ結果を招いた。大学の教職員と用務員の男性二人が、アファーマティヴ・アクション・オフィスに私の行為をセクシャル・ハラスメントだと抗議したのだ。二人は、私が裸体の女性の写真で彼らを虐待していると主張した。

ナディーン・ストロッセン『ポルノグラフィ防衛論 アメリカのセクハラ攻撃・ポルノ規制の危険性』での引用より

 この2名の男性職員が彼女への意趣返しとしてそうしたのか、セクハラによる虐待を受けたと本気で思っていたかは不明であるが、彼女は見事にしっぺ返しを食らったわけである。
 それにしても、自分で伝統的芸術に属する絵画をやり玉に挙げておきながら、まさにそのようなものが多数転載されている本のページをコピーして配布するという彼女の「自分への甘さ」は驚くべきことである。
 この彼女の脇の甘さは、30年後の【ツイフェミ】達が「子どもに見せられない」はずのセクシーな萌えイラストを、子どもが見ることのできるツイッターで【拡散】するあの愚行と、まったく同種のものである。

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