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  赤坂アカ原作、横槍メンゴ作画。
 原作漫画は2020年4月23日から「週刊ヤングジャンプ」「少年ジャンプ+」で連載、アニメは2023年4月12日から放映中。単純に明るいアイドル物ではなく、芸能界の暗部も描いた攻めた作風が特徴である。

 同作のアニメ版に対して、ツイッター上でクレームをつけたのが木村響子氏だ。実在のリアリティショー『テラスハウス』の炎上事件で誹謗中傷を受け、2020年5月に自殺した木村花さんの母親である。
 本作のアニメ版5話から(原作では21話から)始まる「恋愛リアリティショー編」が、彼女の事件の「丸パクリ」だというのである。
 響子氏は本作について「売るため話題になるためなら手段を選ばないやりくち」「心から軽蔑します」と糾弾している。

 まず、特定の事件をモチーフにフィクション作品を作ることそれ自体に、まったく問題はない。このそもそもの原理原則からして、木村響子氏の意見は失当である。

 しかもこの発言は全くの誤認識に基づいており、同作の恋愛リアリティショー編は別に、木村花自殺事件をモデルとしたストーリーではなかった。
 その根拠はネット民の情報収集によって瞬く間に集められた。

 前提として本作の原作漫画の連載開始は2020年4月、木村花さんの自殺は同年5月23日、恋愛リアリティショー編の開幕は同年10月である。
 が、作画の横槍メンゴ氏が同年1月2日に資料のため恋愛リアリティショーを見せられていたツイートが発掘されている。花さんの死の4か月以上前である。

 6月3日には原作の赤坂アカ氏が、偶然に事件と作品内容がかぶったことを告げている。

 さらに9月9日には、同じく赤坂氏がインタビューで「恋愛リアリティ―ショー編の構想は連載開始前(4月23日以前)からあった」とインタビューに答えたことが記事になっている。

大石昌良 恋愛描写の王道感もそうですけど、芸能界だとリアルでこういうことが繰り広げられているんだろうなって思えるほどのドキュメンタリー感がいいんですよね。
恋愛リアリティーショーの描写もそうですし、アイドルフェスでの合同楽屋の風景なんてもうどれだけリサーチしたんだろうってくらいにリアルに感じました。結局、現実に勝る、面白いドラマはないのかなとも思います。
加えてSNSでの誹謗中傷とか現代的なテーマを取り扱っていて、現実でも同じような事件が起きている中でもあったので、かなり攻めてるなと思ったんです。

赤坂アカ あれは連載前から描くって決めていたネタだったので、同じ時期に似たようなことが起きていたのは完全にアクシデントだったんです。

インターネット以降のクリエイティブの現在地」(太字は原文ママ)

 また作中でも明らかに恋愛リアリティショー番組について、世界的な状況を参考にしていることが明らかな描写もある。

『推しの子』

 さらに作中の経緯や、誹謗中傷を受けた人物像も大きく異なっていることもまとめられた。

https://twitter.com/ChamSunCro/status/1660848383165100033?s=20より

 なおテレビ朝日の女性向けサイト「logirl」でのみ「2020年に『テラスハウス』で発生した自殺事件を下敷きにストーリーが展開されてい」るとあるが、これは上記の複数の証拠に反し根拠もなく、アニメ『推しの子』もテレビ朝日の番組ではない。ライターが勝手に書いた誤情報のようだ。
 ちなみに、このlogirlの記事も元ネタが木村花自殺事件だと誤認しているだけで、それがいけないことだとは全く見なしていない。悪いことでもなんでもないから当然だ。

 また「週刊女性PRIME」は木村響子氏に非常に迎合的な記事を出したが、作中の黒川あかねと木村花さんが共演者にビンタして炎上した点が共通しているという、事実無根の話を記載している(現在は削除済み)。実際には、どちらもビンタなどしていない

 そしてこのインタビュー中で響子氏は「登場人物に浴びせられた言葉が、花が浴びせられた言葉そのままなんです。私たちが取材などで語って公にしてきた部分です。」と主張したというが、こちらも実際に作中の言葉と、響子氏の過去のインタビューで触れられた言葉を丁寧に比較され、否定されている。

 つまり時系列から言っても作品内容から言っても、同作が木村花自殺事件を元ネタに(木村響子氏言うところの「丸パクリ」)していた事実はないのである。
 また冒頭で述べたように、本当に元ネタにしていたとしても、そのことに非は全くない。

 いっぽう木村響子氏は「(作品を)見るなと止められている」とと言い張りながら「前後とかストーリーとかの問題ではないです」と類似点の明言を避けるようになり、情報を遮断して外部からの諫言をブロックしまくっている。

 いくら「被害者遺族」といえど、さすがに褒められたものではない言動である。
 ネット上では、娘の件における彼女の弁護士が、よりによって悪名高いフェミ弁護士の神原元や伊藤和子であることなどから、そちら方面からの煽動を危惧している。
 これについて響子氏は本件について「デマの修正」と称し、煽動者の存在を否定。また「自分の『推しの子』叩きは「やり方」に対する軽蔑なので誹謗中傷ではない」(そんなわけあるか)という意味不明な弁解等に加え、アニメ版の恋愛リアリティショー編が娘の命日を挟んでいる以上、偶然ではないと主張。制作者への確認を行うとしている。

 はて。当初は響子氏は「実際に貼った話をそのまま使う」ことを叩いていたのではなかったか。それはまさにストーリーそのものではないか。それなのに今になって「軽蔑するのはストーリー(略)ではない」とはどういうことか。

 また『推しの子』は、『ドラえもん』や『サザエさん』のような、回の順番を入れ替えても成立するような一話完結型の作品ではなく、一続きの物語である。そのような時期の調整が容易に効くとは思えない。下手に前後の回の尺を調整して花さんの命日に合わせようとすれば、作品のクオリティに響くデメリットの方がはるかに大きいだろう。
 そもそも花さんの命日にそのような「宣伝効果」があると考えるのは、酷な言い方になるが娘の事件に対する響子氏の過大評価である。3年も前に死んだ芸能人の命日など、無関係の作品の宣伝になるほど一般人の心には残っていない。
 響子氏自身、過去に自殺した芸能人の命日をいったい何人そらで言えるというのだろうか。おそらく自分の娘以外、かぎりなくゼロに近いはずである。


 2023年5月25日現在、本件について公式・作者側からのアナウンスはない。
 集英社は古くは【燃える!お兄さん】、近年では【僕のヒーローアカデミア】【「神様」のいる家で育ちました~宗教2世な私たち~】などで圧力に容易に屈した恥ずべき前例がある。
 しかし今回に関しては、『推しの子』の作中自体で「謝罪は悪手である」という確たる認識が述べられていることから、作者側が抵抗するであろう以上、そうそう同様にはいかないだろうと考えられる。

 これは筆者の推測であるが、木村響子氏は多くの指摘に対しブロックしたものの、その前に読んでしまって事実に気づいてしまった。が、引っ込みがつかなくなっているのだろう。
 この後の展開としては、おおかたこのまま「命日」の件に食い下がるふりをしながら、拳を振り上げたポーズのまま批判が過ぎ去るのを待ち、フェードアウトを考えているのではないだろうか。

参考リンク・資料:

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