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【燃える!お兄さん】

※【サイボーグ用務員さんの巻】からも転送されています。

 1987~1991年に『週刊少年ジャンプ』に連載された佐藤正によるギャグ漫画作品。
 都会の学園に通うことになった、超人的な体力を持つ野生児ケンイチとその家族・友人たちが巻き起こす騒動を描く。

 1990年第45号に掲載された「サイボーグ用務員さんの巻」において、それまで教師としてたびたび登場していた「早見先生」というキャラクターが校長の指示で用務員をすることになり、主人公のケンイチにバカにされたり悪口を言われるシーンがあった。
 この回は、全日本自治団体労働組合などから抗議を受ける。同自治労の大阪府本部は「学校用務員に対し、本コミックは全編において用務員の仕事と存在を否定しており、全国の用務員及びその家族に侮辱を与えている」と決めつけた。

「サイボーグ用務員さん」の一部

 見てのとおり、作中で早見は決して「用務員」ないし清掃業者であること自体をバカにされたわけでは《ない》

 彼はあくまで「教師でなくなった」ために生徒であるケンイチに対する権力を失い、そのせいで「今までいばってた分おもいしればいいのだ」と仕返しされているに過ぎず、その後に就いた仕事が何であるかはどうでもいいのである。仮に早見が校内の用務員ではなく民間企業のサラリーマンに転職したとしても、ケンイチからすれば同じことであっただろう。

 これらの描写の読解にあたっては、1980年代当時には学校教師を権威者としてみる社会的雰囲気があり、ある程度の横暴や体罰を容認する空気が少なくなかった時代背景を勘案する必要があるだろう。用務員であることが「低い身分」なのではなく、教師が誇大に生徒に対して過剰に「高い身分」であり、その特権を失って「一般人」になったという話なのである。

 そもそもケンイチは本作の主人公であるが、ギャグ漫画の主人公らしく一貫して大馬鹿者という扱いであり、その言動が作中正しいとされる人物像では全くない。少年漫画の類型によく見られる「インテリではないが本質をズバリとつく人格者」的なキャラクターでもない。「オレ、バカだから難しいことは分かんねえけどよ……」などと前置きして感動発言をしたりは断じてしない、一貫してバカな笑われ者なのである。
 用務員はバカにしていいものとして描かれているわけではないことは、「船木先生」などの良識的なキャラクターは用務員となった早見に対しても、笑顔で丁寧にあいさつしていることでもわかる。

 そして決して早見の方もケンイチに対して「やられっぱなし」であったわけではない。副題にもある通り、彼は体をサイボーグ化して、素の体力では圧倒的にまさるケンイチに反撃するのである。最終的に、早見を散々バカにしたケンイチは逆に用務員にこき使われることになってしまうという因果応報的な終わり方となっている。

 以上の内容から、作品に「用務員はバカにしていい」などというメッセージがないことは確実である。

 そもそも本当に用務員自体を侮辱する意図であったら副題は「サイボーグ用務員『さん』の巻」とはならないであろう。

 しかしこのような正確な作品内容を踏まえての議論は抗議においては顧みられることはなく、集英社側はジャンプ当該号の回収と、抗議側に服従する内容の『お詫び』を出すことによる決着を図った。

『お詫び』

 小社発行「週刊少年ジャンプ」第45号(10月22日号、10月9日発売)に掲載した「燃える!お兄さんサイボーグ用務員さんの巻」は、学校現業職員(学校用務員)さんの仕事を教師の仕事より低く描き、当作品全体が、明らかに差別と偏見そのものでした。
 これにより、学校現業職員(学校用務員)さんとそのご家族の方々に、多大なご迷惑をおかけしましたことを、心からお詫び致します。
 これまで、皆様方が、教育現場における職務内容の明確化、職名の民主化、法的位置づけ等のため、長期にわたりご努力を続けられてきたことを、日教組、自治労等のご指摘もあり、恥ずかしながら新たに認識致しました。
 これを踏まえて、?@自治労大阪府本部現業評議会(用務員部会)の方がたをお招きして、全編集部の責任者を対象とした緊急研修会を行い、?A「週刊少年ジャンプ」第51号(11月20日発売)誌上で、お詫びと読者への呼びかけ、回収のお知らせを掲載し、?B11月21~23日の読売新聞全国版の「週刊プレイボーイ」の広告スペースをさいて、お詫びの社告を掲載させていただきました。
 今後、人権・差別の意味を正しく認識し、出版活動を通じて、平等な明るい社会環境づくりに微力をつくすことを、改めて決意し、努力してまいる覚悟です。
 追伸なお、当該号の回収本が、当初の予想をはるかに上まわる数量に達したため、その対応に忙殺され、このご案内が遅れましたこと、重ねてお詫び致します。

株式会杜集英社
週刊少年ジャンプ編集部

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