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#小説
私の日は遠い #17
心が揺れ動き続けて定まらないような状態はとても疲れるなとシズオは思った。人の心なんてわからないものであるということはあまりにも分かりきったことだろうけれど、現実にはあまりにもそういったことが多すぎて心がすぐに許容範囲を追い抜かれてしまう。ただ取り止めのないような日々を過ごしているだけなのに、それでへとへとになることはしばしばある。スッと、自分が一番思っていることを伝えたり、分かりやすい言葉で胸の
もっとみる私の日は遠い #16
「豊かな想像力」というものはどこからやってくるのだろうか。シズオはいつも自分の脳みそが渇いているような、潤いが欠落したような状態で生きているようなイメージを日常において覚えることが多かったので、そんな無にも等しい状態から何かが勝手に湧き出てくるようなことは起きないだろうと考えていたし、実際そうだ。何もない。あるのは地味な積み重ねだけ。その先に光るものがあるのかはわからなかったが、少なくともシズオ
もっとみる私の日は遠い #15
タケオに彼女が出来たという噂を聞いたシズオはある日彼の住む二階建てアパートの近くを通りかかったときにベランダの窓ごしに家の中をのぞいてみた。するとそこにソファに横になって眠っている女性の姿が見えたので、あれがあいつの彼女かなんて思いながらその顔を拝んでみようと思いシズオは周りに人がいないか一度確認してから、その女性の顔に目を凝らしてみた。
シズオは目に飛び込んできた事実を受け入れることに数十
私の日は遠い #14
湿度の高い空は雲に覆われていて、たまに雨が降ったり止んだりしている。そんななかで誰がやる気を起こしてなにかに取り組んだりするのだろうか。とは言いつつ今日も街は動き続けている。シズオには理解し難い摂理によって大量の人間の生活や心がかきまわされている。そこに加わりたいとは思わなかったが、一定時間はそこに潜り込んでいかなければ彼の生活にサイクルは崩壊してしまう。自由とはなんだったのだろうか、いつ売り渡
もっとみる私の日は遠い #13
お腹を空かせたアリサとシーラがふたりで話し合っていたのは、どこで食べ物を万引きするかということだった。コンビニは狭いけれど人手が少ない深夜などを狙えば目当てのものを取れる確率は高そうだし、スーパーは広いけれどその分人目を誤魔化しやすいかもしれない、などとずっと意見を出し合っている。しかしそうしている間にも腹が減っていくのでイマイチ頭も冴えない感じがするなとアリサはなんとなく思っていた。
「金
私の日は遠い #12
真昼のジャングルにそびえたつ名前も知らない高い木々たちはまるで摩天楼のように遥か上空から汗をかいた夏樹と隼人を見下ろしていた。涼しさという概念が天まで吸い込まれていってしまったかのような暑さに加え意味不明な湿度の高さを誇るこの場所において夏樹たちはもはや呼吸をすることすら億劫に思え始めていた。普段何気無く手に取っていた冷えたコカコーラの2リットルボトルを今すぐにでも抱きしめてやりたいと夏樹は思わ
もっとみる私の日は遠い #11
朝から雨が降っていた。普段よりも落ち着いた空気の中を涼しい風が通り抜けてきて、ベッドで横になっていた達夫の肌をスッと撫でた。朝食まではまだ少し時間があるからということで、彼はしばらく寝転がりながら濡れた窓と景色を眺めていた。それは達夫にとってなかなか快適なひとときだった。まるで曇り空のグレーに自分の心を浸して潤いを取り戻していくような感覚を彼は覚えていた。どこまでも満たされて透き通るイメージと共
もっとみる私の日は遠い #10
どこまでも真っ直ぐに伸びていくような渇いたアスファルトは真夏の太陽の熱に晒されて蜃気楼にボヤけた空間を生み出していた。その揺らぎを切り裂くように法子は、明るめのブルーの塗装が施された67年型のインパラを走らせていた。カーステレオからはラジオが垂れ流されていて、今はボサノヴァのような音楽がかかっていた。法子はボサノヴァに詳しくはなかったが、涼しげな音が気持ちいいので機会があればいつかレコードを購入
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