【富裕層限定】借金して高額生命保険に入るプレミアムファイナンスを考えてみる
生命保険というと一般的には、何らかの理由で亡くなってしまったときのために、残された家族のために入るものというイメージが強いですが、多くの富裕層や我々のような小物の小金持ちにとっては、そうではありません。
太古の昔から、生命保険は、手を変え品を変え、節税商品として販売され、国税庁が見直し、販売停止になり、新たな商品が作られ・・・というまるで、酒税におけるビールと発泡酒と第3のビールみたいなことが繰り返されてきました。ビールと分類されないビールのような飲み物を各ビールメーカーが頑張って作ったものの、最終的には、まるっと税金を一律にされて終了しましたが、生命保険でも、ほとんどの中小企業オーナーがやっていた定番節税商品、逓増定期保険は、数年前の改正で抜け穴を塞がれ、販売中止になってしまいました。
もちろん、かくゆう僕も、ご多分に漏れず、逓増定期保険をやっておりましたが、改正直前に解約返戻金を受け取って無事終了いたしました。
保険屋さんに言わせれば、まだまだ、節税できる商品はありますよというのでしょうが、一般的には、法人生命保険を使った節税、利益の個人への効率的な移動は、終了したと言っていいでしょう。
とはいえ、この話はあくまで国内での話。海外の生命保険では、まだまだ、美味しい手法が残っています。
なかでもメジャーなのが、プレミアムファイナンスでの生命保険。様々な保険商品があるので、詳細は異なりますが、簡単に説明すると、自己資金+借金をして、高額の保険料を払い、高額な死亡補償金の生命保険に加入するというものです。プレミアムとは、保険の掛け金のことで、ファイナンスは、金融、金を融通するということなので、要は、保険の掛け金を融資するということです。
仕組みとしては単純で、不動産投資ローンに近いです。不動産投資ローンの場合、例えば、自己資金3,000万円の頭金で、1億円の物件を購入することを考えると、購入する1億円の物件を担保にして、物件価値の70%の7,000万円を銀行から借りて購入します。
借金なので、当然利息が発生しますが、返し方には、約定弁済と期限一括返済の2通りあります。
約定弁済は、住宅ローンと同じように、毎月元本と金利を払っていくもので、期限一括返済は、企業の借り入れなどで採用されることが多い方式で、借り入れ期限の最終日に元本の一括で払う方式で、それまでの期間は、毎月金利だけを払っていくというものです。
不動産の期限一括の場合、最終日までに物件を売却して、売却代金の中から返済するか、期限が来ても売却していない場合には、新たな期限を決めて、借り換え=再契約するということが多いです。もちろん、借り換えができるかは、その時の金融機関の判断によるので、当然借り換えできないケースもあり、その場合には、全額返済しなければならず、最悪のケースでは、物件を差し押さえられてしまいます。
プレミアムファイナンスの場合にも、約定弁済と期限一括返済の2通りがありますが、保険の解約時、もしくは、契約者の死亡時に一括返済し、それまでは金利のみを支払う方法が取られることが多そうです。
そもそも、プレミアムファイナンスは、なにを目的として実施するのでしょうか?
保険にも、毎年配当が支払われるものなどもありますが、日本人の場合のプレミアムファイナンスの目的の多くは、相続税対策であることが多いようです。ご存じの通り、日本の相続税の税率は諸外国と比較しても非常に高く、最高税率は55%です。
富裕層の多くは、ビジネスオーナーであり、不動産資産を所有しています。そして、相続税の支払期限は、被相続人の死亡からわずか10ヶ月しか猶予がありません。
自社株は、できれば売却せずに相続しても相続人に所有させたいし、不動産や債券などは、流動性に限りがあるので、10ヶ月で換金できるかわかりません。加えて、売りどきを考えずに売却しなければならないという状況はあまりにもナンセンスです。また、相続税のために家族が短期間に自宅を手放さなければならないという最悪のケースは避けたいと考えるのが普通でしょう。となると、相続人にそれなりの現金を残す必要があります。
しかし、相続人に現金を残すために、常にキャッシュポジションを高めておくというのは、せっかくの資金を寝かせることになり、投資機械の損失以外のなにものでもありません。
そこで登場するのがプレミアムファイナンスです。
実際の数値とは全くことなりますが、わかりやすくするために、金額を単純化します。
仮に、10億円が必要で、保険料3億円の一括払いで10億円の死亡保証金の保険に入れると仮定します。
一括前納で保険料3億円を支払う方法は、下記の2通り。
1)3億円を一括前納で自己資金で支払う
自己資金が3億円寝てしまいます。死亡時に10億円残る。3億円を払って、10億円の保証を受けられます。文字通り、現在の3億円の現金が死亡時10億円になります。
2)プレミアムファイナンスで一括前納
自己資金1億円、今回加入する保険証券の加入時価値を担保にして2億円を銀行から借りて、3億円を一括前納します。
期間中は、2億円に対しての金利を毎月支払い続け、死亡時には、保険金10億円の中から2億円の元金を返済し、手元に8億円残ります。
保険料のコストとしては、1億円+期間中の金利がかかったことになります。
最終精算で考えると、手元資金3億円は、
死亡時に8億円+手元にあった2億円+(運用利益-支払い金利)
になります。
死亡までの期間、2億円を運用することができるので、
2億円の運用利率>2億円の借り入れ金利
であれば、1)のケースよりお得になるということです。
そもそも保険自体得なのか?
3億円で10億円の保険料を考えたときに、得なのか?という疑問があります。そもそも、運用で考えると得なのか?これは、保険に加入してから、何年で死亡するかによって変わってきます。
この3億円で10億円の保障の保険に加入というのは、加入者の年齢、健康状態で大きく変わりますし、この数字自体わかりやすく仮で設定したものなので、実態からあまりにも乖離しているということはないものの、この数字自体に根拠はありませんが、計算の仕方を示す意味でこの数値をこのまま利用します。
3億円→10億円 +230%です。
加入から死亡保障金を受取までの期間ごと自分で3億円を複利運用した場合と比較していくために、それぞれの期間に3億円が10億円になるためには、複利で何%の平均利回りが必要かを計算します。
ここからは、高校1−2年生の簡単な数学知識で解くことができます。
平均r%利回りでn年複利運用していくと、運用元本P=3億円は、最終金額A=10億円になります。
したがって、運用元本P=3億円がn年で最終金額A=10億円になるための複利運用平均利回りはr%は、以下のように求められます。
5年の場合: 27.23%
10年の場合: 12.79%
15年の場合: 8.36%
20年の場合: 6.20%
25年の場合: 4.93%
30年の場合: 4.09%
35年の場合: 3.50%
40年の場合: 3.06%
45年の場合: 2.71%
50年の場合: 2.44%
50歳で加入して、80歳まで30年間生きた場合、利率は4.09%。キャピタルゲイン課税を20%と考えると利回り5.11%。平均5.11%であれば、なんとか運用で勝負できそうな気はしますが、保険の場合、万が一15年で亡くなった場合や、5年で亡くなったケースでは、流石に運用の平均利回りでカバーできそうにもありません。
保険なので、当然ですが、短期で亡くなった場合にも、保証金額が払われることを考えると、仮にもう少し予定利率が低かったとしても、相続時の相続税対策として、保険をかけない選択肢はなさそうです。
プレミアムファイナンスは本当に得なのか?
手元キャッシュ3億円をそのまま支払ってしまう場合と比較して、
(運用利益-支払い金利)
これが、1)との差分になります。
運用利益>支払い金利である限り、お得になりますが、もちろん、運用なので、リスクは伴います。
さらに、借り入れ金利は、変動するので、金利の変動、もしくは、運用の不調、または、その両方でダブルパンチのときは、マイナスになることも考えられますし、金利が下がって、運用がうまく行った場合には、大幅に利益が出ることも考えられます。
金融機関なので、運用に失敗した際には、一括返済を求められるというケースもあり得るでしょう。
資産が十分にあれば、最悪一括返済を求められても返せますが、そもそも手元資金がギリギリなのに、プレミアムファイナンスをしてしまった場合には、一括返済ができずに、保険を中途解約して、解約返戻金が払込金額を割ってしまい、保障も失い、元本も減るという最悪の事態になる可能性があるので、資産規模に対して過大な保険加入をプレミアムファイナンスで行うことは絶対に避けなければなりません。
先日、マレーシアの不動産を扱う会社が、プレミアムファイナンスで、下記のような商品を出していました
詳細は見ていませんが、こちらの商品は、死亡保険金ではなく、年金型の保険のように考えられます。
おそらく、配当が毎年入ってくるタイプだと思うのですが、10年くらいは、解約返戻金が払込金額を大幅に下回ったままです。何らかの事情で銀行に一括返済をしなければならない場合には、銀行からの借り入れ額をMAXで借りた場合、解約返戻金で借り入れ返済をすると、ほぼ残らないはずなので、その場合、自己資金を投入した分がほぼゼロになります。
保険の利回りが借り入れ金利から大きく上回っていれば、儲けが確実に出る商品なのですが、仮に保険の利回りがフィックスでも、借り入れ金利は変動します。コロナ以降の米国金利の急上昇のように借入金利が急上昇することもありえます。(ちなみに米国の住宅ローン金利は、現在8%前後です)
他の投資や不動産投資と同様、レバレッジをかけているのでいざというときに払える余裕を持ってやることが重要です。
この保険会社の格付け次第ですが、格付けが高くて、7.2%がフィックスできるのであれば、レバレッジをかけないか、ローレバレッジで、購入を検討することはできると思いますが。
保険会社で保険料を分割で支払う
難しいことを考えずに、一括前納に比べて割高ですが、普通の保険のように保険会社で保険料を毎月分割で支払うという方法も実はあるんですけどね。
短期間で死亡した場合には、支払保険料が結果的に3億より少なくて済む場合もあるが、高齢で死亡した場合は支払総額は、3億円よりも総額は高くなりますが。