ひとりごはん

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最近の記事

「夏への扉」を読んで

ロバート•ハインライン著。ハインラインて、韻踏みすぎでは? 面白かったが2023年に読んだ身としては、古典やなぁて感じ。通信機器への見通しが弱い。 発明家の主人公が会社の仲間に裏切られコールドスリープへ。三十年後の2000年の世界を見て、謎を解くため愛しい人のため(結ばれるため?)過去に行こうとする。 このタイムリープは世界線が分岐したりしない。一本の世界。四畳半タイムマシンブルースと一緒。ネガティヴフィードバック、過去に行った事実を引き継いだ世界にいるから、あらゆる伏線は繋

    • 「メモの魔力」を読んで

      装丁がいい。見た瞬間に「ハリー・ポッター」を連想したのは自分だけだろうか? 以前に著者の前田さんの別の本「人生の勝算」も読んだが、熱を伝播させるのがうまいと感じた。熱意を感じさせるものは色々あるだろうけど、相手を奮い立たせるのはより難しいのではないか。おそらくそれだけ身を削り、言葉に変換しているということ。成功する経営者ってこういう人が多いのかなと勝手に想像した(ではないかとかおそらくとか、実に身勝手な妄想)。 そうか、これを抽象化すると ◉尽きない燃料(熱意)を燃やし続け

      • 「ヴォイド・シェイパ」シリーズを読んで

        全五冊からなる。 戦闘シーンが素晴らしい。内省的というか、内へ内へ向かう小説という媒体の良さが表れている。静かで、刹那的で、血飛沫飛び交うシーンがカッコよくて美しい。人を斬る、その淡々とした動きの中に、選択の流れに、これを求めていた!と感じた。 映像的でもあるけど内省的だから、今までは取りこぼされてきたものが全て含まれている。一つの到達点に思えた。 人を斬った後、清々しさは全くない。何故こうなったのか、傷つき死ぬことにどうしてなるのか、虚しさしかない。個人的な動機で行動す

        • 「地球星人」を読んで

          普通なら地球人と言うところを、星人にしている。何とも絶妙。星人にすることで異質さを生み、自分達「地球人」とは違った存在に感じる。つまりより客観的に捉えるようになる。ほんの一文字増やすだけで、全く別物になる。素晴らしい。読み終わるとそれを強く感じる。 社会で生きていくうちに染み込んだ常識を、浮き上がらせて(洗剤みたいに)問いかける。それはあなたの選択か、と(酷い駄洒落になってしまった)。 現実を捉え直す、鋭利な言葉がいくつも出てくる。「人間を作る工場」「繁殖するための仕組み」

        「夏への扉」を読んで

          「痴人の愛」を読んで

          最近、恋愛リアリティショーが人気だと感じるが、色恋のドロドロした側面を好きなら痴人の愛を読んでみでもいいと思う。今の感覚とはまた違った、しかし普遍的な性(さが)を感じることができる。 共に暮らし始め、ナオミは変化していき、贅沢三昧、生活は荒廃していく。どうしてそこまで主人公はナオミを好き勝手させるのか、とたびたび思う。それがナオミの魅力で、主人公は完全に呑まれているといえる。それをどこか望んでもいるのだろう。 浜田とまぁちゃんが泊まりることになった夜。自分以外の男と楽しげ

          「痴人の愛」を読んで

          『カード師』感想

          世界に馴染めず逸脱していく人物の暗く深いところを、しかし優しく書き出している。 いつも中村文則さんの小説を読んで僕は思う。自分の奥底の澱に寄り添ってくれるようで、どこか安心する。そういう人物を中村さんは作り出すと言うより、存在している様をそのまま書き出しているように感じる。例えば主人公の頭上に感じる渦や、自分の部屋に拾ってしまう大量のカードを保管しているところなど、その行為がリアルな質感を生んでいる。 そしてそんな人をも肯定しているから、暗い物語なのに優しい気がする。何を

          『カード師』感想