「地球星人」を読んで

普通なら地球人と言うところを、星人にしている。何とも絶妙。星人にすることで異質さを生み、自分達「地球人」とは違った存在に感じる。つまりより客観的に捉えるようになる。ほんの一文字増やすだけで、全く別物になる。素晴らしい。読み終わるとそれを強く感じる。

社会で生きていくうちに染み込んだ常識を、浮き上がらせて(洗剤みたいに)問いかける。それはあなたの選択か、と(酷い駄洒落になってしまった)。
現実を捉え直す、鋭利な言葉がいくつも出てくる。「人間を作る工場」「繁殖するための仕組み」「システムが先なのか、恋が先なのか」「常識は伝染病で、自分一人で発生させ続けるのは難しい」

「家族」の邪魔をしないよう、恋と魔法の中で息をつく主人公。母にどんなに理不尽に詰られても傷ついたように見えない彼女はどうやってそんな人格に育ったのか気になる。
元からの性質もあるだろうが、傷ついてないわけではなく、叱られ続けるうちに摩耗していった。なぜ叱られるのか、と内省するうちに冷徹なほど客観的に、自分を見るようになったのではないかと想像する。そんな主人公がどこか気持ち悪い。
なぜ気持ち悪いか。感情がない、魔法や早過ぎる恋に強い傾倒、突飛な発言発想、これらのせいか。しかし感情はないわけではない。塾の先生の性的暴力には、明らかに恐怖動揺があるし、思考とは裏腹に手が震える場面もある。
感情の回路が普通とは違っている、一般的ではないのだろう。見ていて奇妙には感じるが、批判するものではない、むしろ面白い視点だと許容できる。

誰もが恋愛をする、夫婦は子作りをするもの、社会のために。それが当然で、「工場」の一員としての義務。
どこまでも主人公に、そんな「常識」(主人公の目を通すと現実よりも硬質な性への常識に感じる)を強いる社会の人々も気持ち悪い。

だからこの小説はとても気持ち悪いものだと言える。それが非常に面白い。なかなか味わえない。
そんな主人公がそんな社会の中を、なんとか生き延びていく。生き延びなくても生きられるにはどうすればいいのか?その答えが最後に書き表されているのかも(考え過ぎか)。

地球星人から脱却するトレーニングを始めてからは、もう圧巻だ。ものの定義を問い直す抽象的思考、新たな生物のように発想し生活を構築する。言語も崩壊し人を喰らい腹を膨らましたその姿は、かなり気持ち悪くて引き込まれた。
気持ち悪い!と突き離さずその根源を問うことで何かに気付けると感じた。実生活にもこれは活かせそうだ。

男女は生物的に明らかに違う性質を持つ。身体の作りがそうだから。しかしそれを社会的な範囲まで持ち込むのは慎重になるべき。誰もが違う存在なのに、ことさら男と女だけ古いしきたりのように役目をわけるのは、不合理だし知性の遅れにも感じられる。気をつけていきたい。

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