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縄文杉にて【友情決裂】

屋久島物語その⑤〜醜態と惨事〜

ようやく辿り着いた避難小屋。

ほとんどの人はここに止まる。

しかし、私はテント泊を希望。

そのために重い荷物を背負ってきた。

Aはというと、

以前の極寒テント泊に怯えたからか

避難小屋で寝るそうだ。

まあ、いいだろう。

テントの中が広くなるもの。

Aも私も長旅に疲れ、

心に余裕がない。

思いやりの精神など皆無。

やりとりは単調で無機質だった。

そして、夕食の時間。

事件が起こる。

バーナーのガスがない。

小さなガス缶の中身は

すでに空の様子。

もはや湯を沸かせない。

初日の宿でもらった使用済みガス缶。

白谷雲水峡でいくらか使用したため

もう残りがなくなっていたようだ。

ガス缶の使用経験が少ない私の責任だ。

さて、Aはというと

持参した袋詰ラーメンを食べられない事実に

愕然としている。

湯が使えるという私の言葉を信じたA、

見事に裏切られた。

Aは恥を捨て、

近くのテント泊の方に

ガス缶を借りる。

私は正直、借りたくなかった。

自分たちで全てを用意しないと

いけないのに情けない。

そんな思いがあったから。

Aは袋ラーメンに執念を見せる。

こんなAの行動力には相変わらず感嘆する。

さあ、何はともあれ湯は沸騰。

いざ、麺を茹でようではないか。

麺を入れ、煮立たせる。

よそ見をした私、

次の瞬間、

手に痛みが走った。

熱した鍋に手が触れてしまった。

そして、こうなった。

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山中の地獄絵図

事態を把握した私。

言い訳も隠し事も不可能。

過程より結果。

いろいろな事が頭をよぎった。

その中でも記録写真はしっかり残した。

えらい。

いや、大変だ。

Aの怒りは本気モードに。

こんな状態で

明日からどうAと過ごすんだと

不安が私を襲う。

私の手持ちの食糧を差し出すも

ダメ。

Aはここで袋ラーメンと決めていた。

山中で数少ない楽しみを奪った私。

その罪は決して許されない。

最後は、お互い落ち着く必要があった。

顔を合わさないことだ。

テントと避難小屋に別れられて

心底助かった。

笑い事ではなく、

真剣に時間を戻したいと願った事件。

その⑥につづく。



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