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『ばるぼら』

 稲垣吾郎が演じる売れっ子小説家・美倉が二階堂ふみ演じる謎の少女・ばるぼら(Barbara)に会った事をきっかけに破滅していく様を耽美に描いていく。

 この映画において「ばるぼら」という少女は一体何だったのか。どこまでが現実で、どこからが幻想だったのか。彼がばるぼらに会ってからの出来事は全て薬物によって齎された幻視だったのだろうか。

 ばるぼらという浮世=彼岸めいた存在へ近付き過ぎたあまりに現世のどん底に堕ちた美倉。終盤になると逃避行の果てに辿り着いた山小屋で文字通り這いつくばって小説を書き出す美倉は劇中最も人間らしく見えた。

 彼が何を書いているのかは映像では分からないが、冒頭で美倉の声で読まれる「都会が何千万という人間をのみ込んで消化し、たれ流した排泄物のような女」というナレーションをラストでリフレインする事からも、ばるぼらとの日々を書き下ろしているのかもしれないが、もしかしたら何も書いていないのかもしれない(※『シャイニング』において小説家のジャックが「All work and no play makes Jack a dull boy」という一文を繰り返し書いていたシーンを彷彿とさせられたからだ。もしくは『シークレット・ウィンドウ』のモート・レイニー)。

 この映画の中で食事シーンは2つあるがそれの対比も大変面白かった。小説家としての地位を失って失意の日々を過ごしている美倉の為にマネージャー・甲斐が作った出来たての温かいビーフストロガノフを食べるシーンと山小屋でばるぼらの死体から切り出した肉片を食べるシーンの2つだ。ビーフストロガノフを食べた後の美倉は小説を書く熱意を喪っていき、肉片を食べてからは死にそうになりながらも小説を書くほど狂っていく。

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