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「花見」っていったい何なんだい

花見。
それは諸人こぞりて興じる春のイベント。

 では、花見とは何か。

 気象庁の「桜の開花発表」のニュースを聞くと、人々は胸のうちに芽生える「花見行くか」という感情に任せてその足を公園やらお城やらに運びたくなる。
 同志を集めたら日程調整、そして場所取りだ。砂地や芝生にペグを打ち込み、レジャーシートを固定。別働班が酒や買い物をスーパーなどで買い漁ってくる。
 車を出す運搬役は酒を飲めないので「なんか悪いな」「いいよいいよ、もともとそんな飲まないし」みたいな会話が日本全国で繰り広げられる。

 そして万端整ったらいざ、桜を観るのだ。もちろんただ見るだけじゃない。酒と食べ物、愉快な仲間たちも欠かせない。中には友達の友達なんかもいて、なんとなく会釈を重ねたりする。
 クーラーボックスの中身はビールから無くなっていき、飲めない人のために買ってきたウーロン茶が余り気味だ。余らせてもめんどくさいので、幹事は半ば押し付けるようにしてみんなにドリンクを配っていく。
 唐揚げは冷え切り、ポテトはしなしな。それでも桜の花びらに囲まれていれば何となく幸せな気分で飲める。

 ああ、宴もたけなわ。酔いに任せていろいろな話もでき、仲も深まってきた。
 だがちょっと肌寒くなってきたので、これでいったんお開きにするべきだろう。女性陣からささやかな不満の声も聞こえてきた。冷たい風に追われるようにして、解散の号令がかかる。
 もちろんゴミは綺麗に片付けるべきなのだが、風に運ばれていった割り箸の袋なんかはわざわざ拾いに行かないかもしれない——


 想像で書いたが、こんなイベントだろう。
 たぶん。

 花見。僕はあまりそれをしない。
 上に書いたような花見は学生の時に一度行ったっきりで、それからずっと経験していない。

 花自体は嫌いじゃないのだ。桜の花びらは可憐で綺麗だ。薄紅色の花吹雪の下を歩くときは大いに風情を感じる。

 だが、いざ「花見」と聞くと少し疎ましく思ってしまうのはなぜか。しばらく考えて突き当たった答えは、至極単純なことだった。

 僕は「花を見る」のは好きだが、「花見」は得意じゃないということだ。
 もう少し掘り下げれば、僕は「季節の花である桜を眺めて風情を楽しむ」のは好きだが、「別に桜の下じゃなくてもできる酒宴」たる花見を敬遠している、とも言える。

 あんまりこの論調で書くと、はぐれ者の独り言のように聞こえるかもしれない。ただ、僕は酒盛り自体は好きである(気の置けない人となら)。

 ただ、「花見」ならば、花を見たい。
 飲むとしても、人の顔より桜を肴にしたい。

 このあたりの認識の乖離が、僕を花見というイベントから遠ざけているのだ。

 では、単に「花を見るだけ」でいいのかと言えば、それもまた違う気もする。植物辞典やインターネットにうじゃうじゃと載っている画像を見て「花見をした」とは言えない。

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 この間、ニュースでコロナ禍の花見というテーマを取り上げていた。
 あるビルディング型寺院で、農家の方が育てた桜の枝をずらりと並べて立派な桜のプロムナードを造ったという話である。

 これを見て少し考えた。たしかに綺麗だし、騒々しさのかけらも無いが、これは僕の言うところの「花見」なのだろうかと。これはこれで風情が無いように思えてしまう。

 まあ、風情だの風流だの言ってみているが、それを判断するのは個人の好みによるところが大きい。結局のところ、「花より団子」でも「団子より花」でもどっちでもいいのだ。


 ああ、煮え切らない話になってしまった。


 花見の主役は花でありたい。その興趣を楽しめるような人間でありたい。それだけのことだ。


 ちなみに、前回の記事で吉田兼好の『徒然草』の話をした。

 その『徒然草』にも花見を扱った部分がある。

月や花はすべて、目だけで見るものなのだろうか。満開の桜なら家を出なくても、満月なら布団の上に居ながらでも想像することができ。それはそれでとても楽しくて味わいがあるものだ。風情や趣きを感じ取れる人は、ひたすらに面白がるような様子でもなく、何だか等閑に見ているように見える。片田舎の人の花見は、しつこく眺めて全てを面白がろうとするものだ。花の下ににじり寄って、立ち寄り、わき見もせずに花を見守って、酒を飲み歌って、最後には大きな枝を心なく折ってしまったりもする。田舎者は、夏の泉には必ず手足を浸すものだし、雪見では雪に降り立って足跡をつけてしまい、全ての物をそっと静かに見守るということができない。

 僕の言いたいこともまあ、そういうことなんだけど。ここまでハッキリ書いちゃうと角が立つような気がするから、やめといたのにな。

 でも雪に足跡つけたら田舎者って、ちょっと言い過ぎじゃない? それくらい許してよね。

 兼好法師、意識高いなあ。

(おしまい)

自己投資します……!なんて書くと嘘っぽいので、正直に言うと好きなだけアポロチョコを買います!!食べさせてください!!