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もう二度としたくない就活の話〜モンスター面接官よ永遠に〜

もう二度としたくないのは「就活」なのか、「就活の話」なのか分からないタイトルですが、結論から言うとどっちもです。

就活については大勢の人がマイナス感情を持ってるかと思うんですが、僕は就活を始めて最初に応募したところで圧迫面接みたいなのを受けて、それ以降の記憶が飛びました

苦心と苦労と苦行と苦節と苦悩と苦慮と苦役の末、運良くある会社から採用通知を受け取った時には、髪はストレスで真っ白に染まり、うまい棒一本を食べるのに一週間かかるくらいに胃も細っておりました(やや誇張)。

いまやでっぷりと肉を蓄え、呵呵大笑で日々の仕事へと臨むようになったわけですが、そのパワフルに拍動する心臓の片隅には、小さな小さな針がいまだに突き刺さっています。

最初に受けた会社の面接官の、めちゃくちゃな態度に対する怒りです。

なんだったんだあいつは。

正直思い出したくもないですが、数年経っても燻り続ける火種をそのままにもできないので、ここで爆燃させてやろうと思います。

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炎上させる気はありません。
自分の中で燃やし尽くし灰塵へと変えるのです。
なかば愚痴のようなものだよ聞いてくれ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

僕が面接を受けたのは、ある金融機関でした。
仮に☆銀行としておきます。

金融機関のリテール業務(小口取引)に興味があった僕は、手広すぎず、そこそこの事業規模を持つ☆銀行に興味を持ったのです。
CMを見かけることも多かったですしね。

書類審査をあっさりと通過した後、次の採用試験のために都内までガタンゴトンと電車に揺られていきました。会場はその銀行の支店で、最寄り駅を降りればやたらとお洒落な街。
この時はまだ、能天気にも「大きな会社はすごいなあ」などと目を輝かせていたものです。

支店に着いて小綺麗なエントランスで受付を済ませると、広めの会議室に通されました。
大きなテーブルがいくつか配置されていて、係の人に言われたところに着席します。

僕は冒頭に「圧迫面接」と言いましたが、形式としては、五人くらいで一つのグループを作り、あるテーマについて話し合うというグループディスカッション方式でした。
採用する側はその話し合いでの積極性や内容をチェックし、学生たちを採点します。

「面接官は静観するだけのグループディスカッションでどうやって圧迫面接をするのか」という疑問はあるでしょうが、ひとまず飲み込んでお付き合いください。

僕が席に着いた後、ぞろぞろとほかの学生たちも着席して定刻になりました。
係の社員が試験の流れを説明し、各テーブルに面接官がそれぞれ着席していきます。

僕のテーブルにも中年の社員が現れました。
とりあえずKとしておきましょう

Kが明かしたディスカッションのテーマは「駅のエスカレーターを歩くのは禁止にすべきか」でした。これはハッキリ覚えています。

15分の時間制限付きで、いざディスカッションが始まります。簡単に自己紹介を済ませた後、記録係やタイムキーパーなどの役割を決めました。
僕も何かしらの役割を担うことになった気がしますが、あまり覚えていません。

そして次の作業は、そのテーマに対して共通認識を得る(定義付けをする)というものでした。これは就活本の「グループディスカッション」の欄にはたいてい書いてあることで、議論の出発点を揃えるためにも必要なことです。

さて、テーマは「駅のエスカレーターを歩くのは禁止にすべきか」です。

僕は「なんだか掴みどころのないテーマだな」と思いました。

そもそも、エスカレーターは「ステップに立って乗る」ことを前提に作られているものです。
また、安全基準についても立ち止まっての利用を想定して定められています。

駆け上がりや駆け下りは酷い事故に繋がることもあり、皆さんもご存知の通り、構内アナウンスや表示板でも歩かないように呼びかけられています。

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日本エレベーター協会も然り。

とはいえ、いくらこうした呼びかけがあったところで歩く人が減るわけでもありません。
とくに駅は急いでいる人でいっぱいですからね。

つまり、

・エスカレーターはステップに立って乗る機械
・立って乗るように呼びかけもされている
・しかし歩く人は減らない

という現状です。

言うなれば「駅のエスカレーターを歩く」というのは「制限速度50キロの道路で60キロを出す」というのと構造的には同じです。
「これはダメなことか」と問われれば、どちらも正論としてはイエス。現実的にはノー。

そんな曖昧な現状において、あえて「禁止する」という強い言葉を使うのだから、例えば駅員がエスカレーターを監視したり罰金を設けるなど、「より実効性の高い手段でエスカレーターでの歩行を抑制していくべきか否か」という意味だと僕は解しました。

そしてそれを他のメンバーに話したところ、概ね共感を得られたようでした。

しかし、そこで思いがけない横槍が入ります。

K「いやいやいや!! 何言ってんの? このテーマはそういう意味じゃないから(笑)」

Kです。
まさか面接官が口を出してくるとは思わず(しかもやたらと喧嘩腰で)、僕を含めた学生たちはみんなあっけに取られ、何も言えなくなってしまいました。

「なんだよそれ聞いてないぞ」と心の中で唱えつつも、黙っていても残り時間は着々と減っていきます。

意を決して、僕が「じゃあどういう意味に解せば良いのでしょうか」と訊くと、Kは「それを考えるのがグループディスカッションなんじゃないの?」とにべもなく言いました。

どうしろっていうんだ……!!

ともかく、このあたりでKは僕のことを「小賢しい奴」とか「口答えする奴」だと感じたのか、めでたくとして認定されたようです。

ここから地獄が始まりました。

Kは誰かが話すたびにその内容にケチをつけるような発言を繰り返し、ディスカッションが遅々として進みません。
それだけならともかく、おもむろに履歴書を読み始め、メンバーの一人であるA君が大学で野球をやっているということを知ると、やたらとA君ばかりを持ち上げるようになりました。

「野球やってんだ? じゃあしっかりしてるよね」
「体育会系じゃない奴は意志が弱いから」

などと時代錯誤な発言を繰り返し、

「A君が発言する」→Kは称賛する
「A君以外が発言する」→Kはボロクソに言う

という構図が出来上がりました。
あらためて言いますが、これはグループディスカッションの試験中の話です。

A君以外の学生が意見を言えば「そんなの根本から間違ってる」と口を挟まれ、「どう間違ってるんでしょうか」と聞けば「そのくらい自分で考えられないの?」と強い口調で返され、学生たちは見るからに萎縮していきました。

それでもなお発言をしていたのは、わけの分からないうちにKの庇護を受けることになったA君と、就活を始める際に「自らの心を殺して臨むべし」と誓っていた僕の二人だけでした。

そしてもちろん、こうなってしまうと、僕はKの人格攻撃を一身に受けることになります。

「違う違う違う!!!バカなんじゃないの」
「どんだけ親に甘やかされて生きてきたのか知らないけどさあ」
「もっとA君を見習った方がいいよ」
「お前さ、屁理屈だよねそれは!」

どんな強い口調であろうとも、その発言に論理性があれば受け入れることもできたでしょうが、Kは頭ごなしに否定を繰り返すだけで論理性のかけらもなく、その態度は気に入らない奴を潰そうとするときのそれでした。
その矛先は僕自身のことだけではなく、家族や友人にも向けられ、頭の中で何かがチカチカと明滅して卒倒しそうになったことを覚えています。

もし、面接官として僕の態度や発言が気に入らなかったのなら、試験後の採点表で低い点数を付ければいいだけの話です。積極的にグループディスカッションに割り込み、学生らを攻撃する合理的な理由が見出せませんでした。

あまりの不条理さに悔しさと情けなさで泣きそうになりながらも、僕とA君と面接官Kによる意味不明なグループディスカッションはきっちり15分間続きました。

その後、グループごとにディスカッションの結果を発表したはずなんですが、誰がどういう結論を発表したのかという記憶がすっぽり抜け落ちています。代わりに覚えているのは、口角に泡を溜めたKのベタつくような笑顔だけ。

これはあくまで僕の想像ですが、その振る舞いから察するに、Kは会場にいた社員の中で一番上の立場にある人間だったのだと思います。他のテーブルに座っている面接官はそれぞれのディスカッションを静かに見守っているだけでしたし、会場にいた社員全員がKの異常な振る舞いについて何の指摘もしませんでした。
そしてKはおそらくこのテーマを決めた張本人であり、冒頭の「テーマの定義付け」を「俺が決めたテーマにケチをつけられた」という風に感じたのではないでしょうか。分かんないけど。

ともかく、地獄のグループディスカッションが終わりました。

しかし、まだKからは解放されません。

係の社員のアナウンスにより、試験は「面接官への質疑応答」に移りました。
☆銀行の業務について学生たちが質問し、それを面接官がフランクに答えるという懇談の場です。

周りのテーブルを見れば、確かに若手社員が学生たちの質問に和やかに答え、リラックスした良い雰囲気でした。

しかし、僕たちの目の前に座るのはモンスター面接官です。
質疑応答も散々なことになりました。

相変わらず、学生の質問を叩き潰すように答えていくK。そして萎縮する学生たち。

僕は☆銀行に外国の資本が入るという話をニュースで知り得ていたので、それによる影響はあるのかと聞いたら「変わるわけないでしょ!? 」と激昂し、「外資がいいならBNPパリバとかドイツ銀行(どちらもヨーロッパを代表するメガバンク)に行けば!?」などと無茶苦茶なことを言い始めました。

ちなみに、こうして相手の主張を歪めて引用し、その歪められた主張に対して反論するという論法を「ストローマン論法」と言います。

結局、KはA君を除く学生たちの質問にはまともに答えず、最後に「グループディスカッションで反省点はあるか」ということを聞かれました。

まだ試験中なのにそれを聞くのもどうかと思いますが、疲れ果てていた僕は半ばやけくそ気味にこう言いました。

僕「ほんともう、Aさんにおんぶにだっこで……」

すると、Kは目を大きく見開いたのです。



K「ハア!? おんぶされてるだけで、だっこなんてしてなかったでしょ??」


……な、なんだって!?

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Kはどうやら「おんぶ」に「だっこ」で返す、つまり「お互いに助け合う」という意味だと勘違いしているようでした。

これがなければ「☆銀行は厳しい採用試験を学生に課しているのだな」と、自分を無理やり納得させていたかもしれません。

でもこれで、Kがただただ程度の低い人間だということが判明したので、わずかに残されていたリスペクトも吹き飛びました。

僕はいよいよ茫然としながら、この試験を終えました。
Kが最後に何か言っていた気がしますが、まったく覚えていません。

支店のエントランスを抜けると、来たときには「すごいなあ」なんて思っていた街並みが夕闇の中でひどく不気味に輝いていました。

たまたま帰路が同じだった学生と「就活ってわけ分からないね」と電車で頷きあい、その時はこれも仕方ないと考えていましたが、家に帰るころにはすっかりおかしな気持ちになっていました。

夕食はうまく喉を通らず、ベッドに入っても眠れません。

Kの乱暴な物言いが頭の中で反響します。

なんであんな会社の試験を受けてしまったのか。
なぜディスカッションの途中で退席しなかったのか。
今になれば色々と考えるところもありますが、当時はピカピカの就活生で、真っ暗な大海原に漕ぎ出した一隻の小舟みたいなものでした。

小舟は右往左往しながら落ち着ける島を探していたが、突然あらわれた海賊船から砲撃を受けて沈められた……そんな話です。


よくある話なのか、そうでないのかは分かりません。
まあ、よくある話だから受け入れろと言われても承服しがたいですが。

あんまり被害者ぶるのもイヤなんですが、このグループディスカッションの後に明らかに心身の調子が崩れましたし、あまりの不条理さに、通り魔に刺されたような気持ちが今でもあります。

☆銀行についても印象が最悪になってしまい、殊勝なことも言えません。いまだにその会社のCMを見るたびに気分が悪くなりますし、面接会場の最寄り駅にはあれ以来一度も行っていません。

やり場のない怒りを晴らしたかったのか、夢の中でその会社を何度も倒産させました。

Kの名前を忘れることができません。

たまたまヘンな人に当たってしまっただけかもしれませんが、そんな人を会社の看板である採用担当に置くこと自体が信じられない気持ちです。

「自分の芯というか一貫性がないんだよ」なんて言ってた口で、自らは四度も転職を繰り返したことをやたらと自慢げに語るなど、本当にわけの分からない人でした(しかもそれはグループディスカッション中に、ですよ)。

時を前後して「理不尽な採用試験」に対する世間の風当たりが強くなりましたし、Kが放逐されたことを祈っていますが、「憎まれっ子世にはばかる」とも言いますし、その実際は分かりません。

僕が堪え性の無い人間だったり、Kの人格攻撃がもう一段苛烈だったら、間違いなく相打ち覚悟でTwitterやらFacebookに事の詳細を書いていたと思います。

まあ、今は普通に働けているわけですから、その一線を超えなかった当時の自分と、何も言わずに見守ってくれていた親には感謝しきりです。
(社会人になってあらためてKはおかしかったのだなとも思います)

あと、もう一つ考えたこと。
これはこの記事を書きながら、ふと思ったことなんですが、

自分がA君じゃなくてよかった。

ということです。

A君は僕や他の学生と変わらない「ふつう」の人に見えました。
「野球部だから優れている」とKから猛プッシュをされても、最初は戸惑っていて、なんだか喋り辛そうな様子さえありました。

ところがA君は、どんな意見を言ってもKが無条件に肯定してくれることに徐々に慣れていきます。そして、Kとテンポを合わせてよく喋るようになりました。

まあ、これはやむを得ません。
就活生にとって面接官は神の如き存在です。A君はその「権威」からお墨付きをもらったのです。嬉しくないわけがないでしょう。

その権威がいくら異常なものであっても、です。

「理不尽な否定」はたしかに脅威ですが、「理不尽な肯定」もまた、人間を歪める可能性がある。

僕がこの経験から得たのは、ただそれのみです。願わくば、すべての就活生が幸せな就職先を見付けられますように。

(おしまい)

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