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脳内タンスが散らかっている話

目を閉じて、ある言葉を思い浮かべる。
そしてその言葉から、別の言葉を思い浮かべる。

例えば「海」ときたら、水とかサカナであるとか、「自動車」ときたら、トヨタとか消防車であるとか。
そんな風にして、その言葉のイメージやジャンルに近い言葉を思い浮かべていく。

「海」→「川」→「滝」→「マイナスイオン」→「エアコン」→「涼しい」→「薄着」→「Tシャツ」→「ユニクロ」→「安い」→「セール」……

頭の中に「言葉を収めるタンス」があるとしたら、その引き出しの中にある別の単語を引っ張り出してくる感じだろうか。

それがいわゆる、連想というものだ。
誰しも、小中学校の授業であるとか、あるいはブレインストーミングという形で経験したことがあるだろうと思う。

もっと身近なところでは、スーパーでの買い物なんかもそうだ。
カレーを作ろうと思ったとき、まずは「カレールウ」。
そして「野菜」から「ジャガイモ」「ニンジン」なんかを思い浮かべて、カゴに放り込んでいく。
ちょっとこだわる人なら、隠し味に「チョコレート」とか「インスタントコーヒー」なんかも入るだろうか。

この場合、引き出しの名前は「カレー」という名前だ。
そこから材料となるモノの言葉を取り出して「次は何が要るかな」と思い浮かべながら、おいしいカレー作りを目指す。これが連想である。
カレーを作ろうとして、毎回「カレーって何が入ってるんだっけ?」と困り果て、材料の一覧をネット検索する人はいないだろう。

連想とは、言わば「言葉同士の紐付け」であり、日常生活を送る上で欠かせない技術なのだ。

だが、この連想術には落とし穴もある。
それは、先に「言葉を収めるタンス」に言葉を入れておかなければいけないということ。

例えば、マダガスカルの伝統料理「ヘヌンビリチャ」を作ろうと思ったとき、どんな言葉(≒材料)を連想するだろう。
「バターを買わなきゃね」「ブイヨンを用意しようか」なんて風になるだろうか。

きっとならないはずだ。

それはタンスに「ヘヌンビリチャ」という引き出しが存在しないから。
当たり前だが、知らない言葉を思い出すことはできない。
そして、知らない言葉からは連想する余地もない。

ちなみに僕は語感だけで雑炊みたいなものを思い浮かべた。
でも本当はこんな感じ。

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マダガスカルの伝統料理 ヘヌンビリチャ(牛肉の煮込み)
出典:
https://wholemeat.jp/ja/blogs/recipe/henomby-ritra-simmered-beef-recipe

ヘヌンビリチャはちょっと極端な例だが、ここで伝えたいのは、タンスの引き出しの数や種類、その中に収まっている言葉、どれをとっても人それぞれだということだ。
先ほども述べたが、連想とは言葉同士の紐付けであり、その紐付けは個人の記憶や体験に基づいてなされる。
だから、同じ言葉でも人によってタンスの構造や中身が違う。

マダガスカルに詳しい人は「ヘヌンビリチャ」の引き出しを持っているかもしれないし、「カレー」の引き出しの中に「長ネギ」が入っている人もいるだろう。
「円周率」の引き出しの中に「3.14」と入っている人もいれば、「3.1415926535……」と長ったらしく入っている人もいるだろう。

同じ言葉でも連想するモノは違うというのは、話が噛み合わなくなるというデメリットがある。

だがその一方で、連想の多様性を楽しむこともできる。
だからこそ、ワードウルフというゲームが面白いのだ。

ワードウルフとは、みんなで“あるお題”について話し合う中、「みんなとは異なるお題」を与えられた少数派の人(ワードウルフ)を探し出すゲーム。
周囲の会話をヒントに、自分が多数派の「市民」なのか「ワードウルフ」なのかを探り、もし「自分のお題が周囲と違うな」と思ったら、その時は周りの会話から「市民のお題」を推理して話を合わせたり嘘をついたりしながら、自分がワードウルフであることがバレないように振る舞う。
出典:https://boku-boardgame.net/wordwolf#toc1

この間、友人とこのワードウルフで遊んだ。

僕は「牛乳」というお題に対して「氷を入れることもある」と発言して、「ありえない」「薄まるだろうがよ」「このオオカミ野郎が」「人喰いのツラなんだよなあ」「生まれてきたことを懺悔しろ」「バカ」と罵られてすぐさまウルフ扱いをされた(※脚色が含まれます)。

弁明するも一切聞き入れられず、「豆乳」がお題だった本当のウルフが一人勝ちを収めたので、他の市民たちに「氷を入れる発言」という大失策をさらに責められることになったのだが、僕の頭に浮かんでいたのはこれだった。

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出典:コメダ珈琲店
https://www.komeda.co.jp/menu/drink.html

牛乳+ガムシロップ+氷で作る「アイスミルク」というドリンクだ。
カルピスのニセモノじゃないぞ。
以前に喫茶店で頼んだことがあって、それからたまに自分でも作って飲むようになっていた。

だから牛乳に氷を入れるのは違和感がなかったのだけれど、確かに一般的な飲み方ではないように思う。
ワードウルフというゲームは、お題に対して連想したことをお互いに話し合いながら、その認識の違いを探っていくのが醍醐味だ。
個性を出してやろうという僕の下心は、まさしく、場を引っ掻きまわす大失策だったのだろう。
反省しきり、である。


ところで、僕はこの連想というものが苦手だ。
と言うより、ヘンな癖がある。

ある言葉から別の言葉を連想するとき、まったく関係ないような言葉が頭に浮かぶのだ。
「犬」→「エンジン」とか、「割りばし」→「ホームベース」という具合に。
ひらめきと言えば聞こえが良いが、思考回路がバグっているのかもしれない。

「海」→「チェコ」→「大根」→「スパゲティ」→「黒」→「花束」→「窒息」→「ロスアラモス」→「電力自由化」→「ロケット」→「ポンチョ」→「炙り〆サバ」→「森」→「工場」→「MAZDA」→「パープルサンガ」→「アンナカレーニナ」→「笹の葉」→「光芒」→「ファーニチャー」→「ウルトラマリン」→「小笠原」

タンスに言葉が雑に詰め込んであるのか、それとも関係のない引き出しが勝手に開いてしまうのか。
上質な桐箪笥の条件は、「引き出しを閉めると他の引き出しが開く」だそうで、そう考えれば前向きにもなれるが……。

これ、普通にあることなのだろうか。
「特異な奴アピール」と受け取られたら嫌だからなかなか聞くこともできないし、かと言ってこれで困ることもないので、あまり探求する気もないけれど。

まあ、身の回りはともかく、自分の頭の中くらいは整理整頓しておきたいものだ。

あと、ヘヌンビリチャ食べたくなったね。
君もそうだろう。さ、牛を煮込もう。

(おわり)

おまけ(無軌道な連想に任せて書いた文章):
フランス革命期の大出力エンジン波はもう高飛びしただろうか。夜賭場は弾け、ジエチルエーテルの天幕は高高度集大成のみちのくであり、放射性融解熱のホラーサーン王朝めいたホームレス段階車は飛び抜けて封じられたウルヌラで、俸禄文鎮ルーチンである。落ち度の柔らかい送風機の甜面醤を好むや恐れざると共に、ささらめいた憐憫情報通パドックランゲージがロート製薬の崩落に転じられて、ボックスオブディフェンスの停電奥向こうの山岳波なみに揚子江らしく在る在らしめるのだ。

自己投資します……!なんて書くと嘘っぽいので、正直に言うと好きなだけアポロチョコを買います!!食べさせてください!!