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【短編】ある公園のお話

何かがおかしい。

この公園が視界に入ったときから感じるわずかな違和感。それは気にするにはあまりにも些細な違和感。

しかし、気にし始めたらそれは常に背中をなぞり続ける。

少し前を歩く村田を呼び止める。

「なぁ、この公園、なんかおかしくないか?」

「そうか、普通の公園だと思うけどな。」村田は何も気にしていないようだ。

俺たち二人は花火がきれいに見えると聞いて、花火大会の当日に賑わいを見せる河川敷を避け、自転車で見久山(みくやま)を目指していた。昼間に来たことはあるが、夜に来るのは初めてだ。

地面がぬかるんでいて自転車が思うように進まなかった俺たちは、自転車を押しながら見久山を目指している途中でこの公園のそばを通ることになった。

「ちょっと待てって。なんかおかしいんだよ。」俺は村田を引き止めて公園の中を覗き込む。

公園の中に明かりは無く少し暗かったが、普遍的な遊具が並んでいるのは分かった。ブランコにジャングルジム、そしてシーソーと滑り台。遠目ではこの公園には何もおかしなものがあるようには思えなかった。

しかし、この公園を見ていると悪寒がした。やはりなにかが食い違っているのだ。一音外れたハモリを聞いているかのような違和感。

「あれ、あの滑り台なんか変じゃないか?」その時突然さっきまであきれていた村田がこういいだした。

「変って、なにが?」

「いや、ふつう滑り台って階段があって、上に子供たちがのるスペースがあって、それでようやく滑る場所があるだろ。」

「あぁ」

「なんか異様に三角なんだよな。」

「それの何がおかしいんだよ。」

「普通は滑り台って台形じゃんか。階段昇った先には少し平行な場所があって、それから滑る場所があるんだから。三角ってことはその平行な部分が無いってことになるやん。」

村田の言うとおりだった。確かにその滑り台は異様にきれいな三角形をしていた。俺と村田は気になってその公園に足をふみいれ、その滑り台を近くでよく見てみた。

近くで見るとその滑り台は明らかにおかしいことが分かった。階段があり、滑る場所はあるがその間にスペースがまったくない。階段が終わると同時に下りなのだ。

「おい、こっちも見てみろよ。」

村田の声がする方に行くとそこにはシーソーがあったがこれもなにかがおかしかった。シーソーは左右の長さが同じになる様に設置されているものだが、これは支点が左側に寄っていた。極めつけはこのシーソーが全く動かず固定されているのだ。

「お前のいう通りだ。この公園なんかおかしいわ。」村田はようやく納得してくれたようだった。

俺と村田は顔を見合わせてお互いの気持ちを確認したが、好奇心が抑えられなかった。

俺たちは次にブランコを見てみた。ブランコの異変はすぐに見つかった。ブランコが3つあるのだ。理由は知らないが、公園のブランコは2つか4つと相場が決まっている。たまに1つだけの時もあるが、3つは今まで見たことなかった。

そして最後はジャングルジムだ。このジャングルジムは近づいてみても一見何の変哲もなかったが、裏から見てみて驚愕した。このジャングルジムはトリックアートだ。正面(入口側)から見れば普通のジャングルジムだが。このジャングルジムは実際正面しか無く、奥行きがあるかのように見せるためにどんどん四角がひし形になっている。2次元的ジャングルジムだ。

「おい、この公園異常だよ」

俺も賛成だった。この公園を作ったやつは恐らく公園で遊んだことが無い。そもそも実物を見たことがないのかもしれない。なんとなく聞いた話だけで想像して作ったかのように感じた。なんというかAIが作った絵のような。

「おい!来てくれ!」村田が急に叫んだ。

行ってみるとそれは公園によくある町内掲示板のようなものだった。そこにはいくつもポスターのようなものが貼られていたが、文字が全く読めなかった。

それを見た瞬間に俺と村田は反射的に走り出した。これ以上ここにいることはまずいと感じたからだ。

俺たちは自転車も忘れて無我夢中で走った。公園のまわりは住宅が並んでいたが一刻も早く明るい場所に行きたかった。しばらく走って、ようやくチェーンのコンビニエンスストアが見えてきたので俺らは息を切らしながら走るのをやめ、歩き出した。

「何だったんだ、さっきの公園」
「知らないよ。とにかく絶対にやばかった。」

俺たちは鳥肌が止まらなかった。そしてコンビニについて、なにかアイスでも買ってくると村田がいうので俺は外で待っていることにした。

ゴミ箱の前にある柵に腰かけて駐車場を眺めていた俺は、次の瞬間村田を大声で呼んだ。

「おい!村田!戻ってこい!」

そして戻ってきた村田の腕をつかみ大急ぎで走り始めた。

「おい、急になだんよ。アイス持ってきゃちたじゃないか!」と言って村田は俺の腕を振りほどいた。

少し後ろで不満げに立ち止まった村田に俺は説明した。

「あのコンビニの駐車場見たかよ。幅が俺二人分しかなかった。俺の横幅二人分だぞ。俺の肩幅は大体45cm位だ、それが二人分でいいとこ1mも無いだろう。普通、車1台分のスペースは150cm位あるだろ。1mの幅に止められる車なんてどこにもないんだよ。」

「いや、そなんのあかるもしなれいだろ。いいから戻ろうぜ。」そういいながら村田が俺に近づいてきて俺は気が付いた。

なにかがおかしい。そして目の前に来た村田の顔を見て俺は戦慄した。村田の顔だと思っていたものは目鼻口の位置にまるで目鼻口のような模様があるなにか。

「戻うろぜ。」

それが話しかけてきた瞬間、俺は無我夢中で走った。決して振り返らないと決めてとにかく走った。耳に入るすべての音が追手の足音に聞こえたし、そうじゃない様にも聞こえた。

俺は夜空に上がる花火の音が聞こえるまで走り続けた。

空がパッっと花火の明かりで明るくなった時にようやく俺は安堵のため息をついた。花火はなんとなくだが魔よけのような力がある気がする。

とにかく今は人のいるところにいたい、そう考えた俺は人で混雑しているであろう河川敷を目指して歩き出した。しばらくすると祭りばやしのような音と人の話し声がちらほら聞こえてきた。そして遠目に浴衣を着ている人がちらほら見える。

俺は安心してそっちの方向にあるいていった。

そして道が開けた瞬間に俺が目にしたのは、カラフルな布のような靄が行きかう光景と、こっちを見ている無数の目口鼻の模様達だった。

◇◇◇

そこで気を失っしてまった俺はその後、近所の病院で目覚めた。めざため時には、まくらもとに母親がいて、なのんことかわらかなかったけどしばらくしてよやうく思し出いた。どうやら村田はまだ見かつっていないらしい。

でも、俺はこやうって無事にかってえきた。

ほとんうによかったよ。

めたでし、めたでし。

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