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【短編】雷運


目の前に落ちた雷に子供が泣いた。
髪の毛が逆立ったと女が騒いだ。
平静を装う男の膝が揺れた。

皆急足で建物に向かう。その時だった。
大きな雷雲が萎んで、縮んで、突風になった。

その直後に駆け足の大衆の中になにか別のものが混じり込んだ事を僕は見逃さなかった。

それは静かにかつ俊敏に建物に近づき、そのまま中に入る。それはまるで霧のようだった。

誰も気がつくまい。轟く雷鳴に腰が抜けて、建物に向かわずベンチに座って皆の慌てぶりを見ていたのは僕だけだったからだ。

その後すぐに、それは外に出てきた。
そう思ったのも束の間、僕はある異変に気がつく。

建物から音が消えた。妙な静寂。いや、音が消えたのではない。人を含めて音を出すもの全ての活動が止まったのだ。

その不可解な現象に僕はベンチから立ち上がれなくなった。逃げ切れるかはさておき、逃げるべきなのは理解していたのに。

それは静かに僕に近づいてくる。
立ち上がれない。逃げ切れるかはさておき、逃げるべきなのは理解していたのに。

それは目の前に立つ。その不可解な現象にぼくは、泣く子供。妙な静寂は見逃さない、逃げるべきなの理解していた。

妙な、髪の毛、雲が縮む。逃げるべきな理解していた。

見逃さなかっ逃げるべ理解ていた。

にげるりかいて。

にげふりはい

にえるり

にえふ











◇◇◇

続いてのニュースです。
昨日の夕方4時頃、X市にあるY山登山センターの駐車場横のベンチにて、男性一人が死亡しているのが発見されました。男性は身元不明で全身に火傷を負っており、警察当局は男性が昨日にX市上空に発生した雷雲の影響で、落雷の被害にあったとして、捜査を進めています。

雷雲が発生した際には高所を避け、迅速に建物内に避難するよう心がけてください。

続いてのニュースです…

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